第252話 イカサマ


 強面の男はディーラーから掛け金の白金貨三枚を受け取ると、下卑た笑みを俺に向けてきた。

 まだイカサマがバレていないと高を括っているのか、余裕そうな表情を見せている。


「この勝負は俺の勝ちだな。白金貨三枚は貰っていくぜぇ。次はお前が掛け金を決める番だ」

「……ちょっと待て。今、確実に台の動きがおかしかった。イカサマを働いているんじゃないか?」


 すぐに次の勝負を挑もうとしてきた強面の男を呼び止め、イカサマの指摘を行った。

 下卑た笑みを浮かべていた男の表情は固まり、それからおでこがぶつかるぐらいまで顔を近づけてきた。


「イカサマだと? 何か証拠があってそんな戯言抜かしてんのか? あァ!?」

「台の動きがおかしかったから指摘したまでだ。台を調べさせてくれるなら証拠は出せると思うぞ」

「そう言ってテメェがイカサマしようとしてんじゃねぇのか!! 自分が負けた時だけイカサマを疑うなんてよォ!」


 賭場全体に響き渡る声量で怒鳴ってきた強面の男。

 イカサマを指摘してきたら、こうして脅すことで場を無理やり治めていたのが分かる。

 ただ残念ながら、そんな安っぽい脅しは俺には一切通用しない。


「分かった。そこまで言うなら、次からは現行犯で取り押さえさせてもらう。もう一ゲームだけやろう」

「イカサマを疑ってきた奴とやる訳がねぇだろ! 面白い奴だと思って連れてきたが、胸糞わりィ奴だ!」

「勝負を受けないなら受けないでいいが……今の勝負はノーゲームってことでその白金貨は返してもらう」

「誰が返すかよ! このボケがッ!」

「……ちょっとお待ちください。もう一ゲームだけやってみては如何でしょうか? その代わり掛け金は白金貨二十枚。イカサマだと仰るなら、そのイカサマを現行犯で指摘すればいいだけですし、あなたにとっては悪い勝負ではありませんよね?」


 ここまで静観していた、イカサマディーラーが口を挟んできた。

 グルになって嵌めようとしていたくせに、この態度を取ってくるのはムカつくが……勝負を提案してきたのはありがたい。


「俺は白金貨二十枚も持っていない。負けた場合はどうなるんだ?」

「それは――臓器でも売ってもらうしかありませんね。どうしますか? 良い落としどころだと思いますが」

「そりゃ面白れぇ勝負だ! イカサマだって疑ってきたなら、もちろん引き受けられるよなァ!? もう一ゲームと言ったのもお前だし、ここで逃げるって選択は取らせねぇぞ!」

「……分かった。手持ちがなくとも勝負できるなら構わない」

「よっしゃ、それじゃ決まりだな! 勝負を受けた側だから俺が選ばせてもらう! 赤に白金貨二十枚だ!」

「なら、俺は黒に白金貨二十枚」


 話の流れから察するに、赤のどれかに絶対にバレない細工が仕掛けられているはず。

 ディーラーと強面の男が顔を見合わせ、ニヤりと笑ったのがその証拠。

 

 この態度から察するに、二人はイカサマを仕掛ける側で俺がそのイカサマを見抜かなければいけない構図だと思っている。

 まさか俺がイカサマを仕掛けてくるとは夢にも思っていないだろうし、これだけ状況が揃っていれば確実に成功するだろうな。


「それじゃルーレットを回させて頂きます」


 ディーラーは台を回転させ、それからボールを転がした。

 ボールの軌道はおかしくないため、ボールへの細工は行われていない。


 正直ボールへの細工を行われ、小石をぶち当てる前に軌道が変わった場合のみが失敗する可能性があったのだが、ボールに細工されていないのなら失敗することはありえない。

 台の回転が次第に弱まり、ボールの勢いもなくなってきたところを狙い――俺はボール目掛けて小石を弾いた。


 俺の弾いた小石は完璧にボールに直撃し、勢いよく10の書かれた穴の中に納まった。

 小石がぶつかって軌道が変わったため、誰がどう見てもイカサマでしかない。


 それでもこの男が言うには、イカサマである証拠を現行犯で突きつけないといけないんだからな。

 ボールにぶつけた小石は俺でもどこに行ったか分からないし、イカサマを証明するのは無理な話となった。


「――はぁ!? な、なんだ今のボールの動きはよォ!!」

「俺にもよく分からないが、とりあえずボールは黒に入った。掛け金の白金貨二十枚は頂くぞ」


 強面の男がすぐに白金貨三枚を取ったように、俺もテーブルの上に置かれた白金貨二十枚を取ろうとしたのだが……。

 そんな俺の手を掴んできたのはディーラーだった。


「い、今のは認められません。明らかにおかしな動きを見せていました。勝負は無効です」

「それはボールの勢いが弱まりきる前に穴に落ちたから無効ということか? それとも俺がイカサマをしたとでも言いたいのか?」

「確実に何かしたのは明白です。ボールの動きはおかしか――」

「イカサマを疑うなら、現行犯で指摘しなきゃいけないんだったよな。俺が一体どんなイカサマをしたんだ?」


 先ほど二人に言われたことをそのままそっくり言い返す。

 イカサマをされるというのは想定していない事態過ぎたらしく、ディーラーは俺がどんなイカサマを仕掛けたのか見当もつかなかったようで、何も答えられずに押し黙ってしまった。

 本来の目的からは脱線しているが、悪さをする連中が苦しんでいるところを見るのは中々に気持ちがいいな。


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