第251話 熱気
強面の男の後をついていき、梯子を降りた先は落ち着いた雰囲気の場所ながら激しい熱気が渦巻いている。
地下に作られた場所ということもあって、非常にシンプルな作りの場所だが――現実離れした空間が広がっていた。
「ここは……賭場か?」
「ああ、そうだ。何でも賭けることができる賭博場だぜ。酒なんかよりも何倍も楽しめるだろ?」
人の数はあまり多くはないが、一人一人の熱気が段違い。
客層も多種多様で裕福そうな人もいれば、ボロボロの服装で正に人生最後の大博打をしに来たって感じの人間もいる。
半数以上の人間がこの違法な賭場で人生を変えると意気込んでいるように見えるが、残念ながらこの場所で人生が変わるようなことはない。
確実にイカサマが行われているし、この賭場に来てすぐに見抜けたほどのザルなイカサマ。
ただ熱くなっている人間には分からないようで、頭を抱えながらルーレットの行方を天に祈りながら見守っている。
助けてやりたい気持ちはあるが、ここに落ちたのは自業自得。
無駄に目立ってまで、落ちた人間を助ける気持ちは湧いてこない。
「さてと、お前金はいくらあるんだ?」
「使える金は白金貨五枚ってところだな」
「ぶっはっは、それだけありゃ十分だな。俺といっちょギャンブルをしようぜ。なにで勝負するかはお前が決めていい」
ザッと見渡した限り、この賭場で行われているギャンブルは計五つ。
ルーレット、ダイスゲーム、トランプを使ったゲームが二種、そして奥にケージで囲われたリングがある。
リングは今はも抜けの殻だが、日や時間によって地下格が開催されているのであろう。
ここで申告すれば自分が戦うことができ、勝敗を賭けることができるかもしれないが……最初にあのリングは選びづらい。
「ならルーレットをやらせてくれ」
「別に構わねぇが、それじゃ俺との勝負にならねぇだろ」
「互いに賭ける場所を変えれば勝負になるだろ。赤か黒の二択を交互に決めていくとかでもいい」
「ほー、それは面白れぇな! そのルールならルーレットでいいぜ!」
俺の提案にニヤリと笑い、承諾した強面の男。
正直、ダイスゲームやトランプゲームはルールが分からないから避けたかった。
その点ルーレットはルールがシンプルで、ディーラーが0から36までの数字が書かれた回転している台にボールを転がし、転がされたボールがどの数字の場所に落ちるかを賭けるゲーム。
そして俺が提案したのは、奇数か偶数かの二択で勝負するというもの。
ゲーム制はほとんど皆無なのだが、強面の男がニヤついたところを見るに、確実に勝てる見込みがあるからこその反応だろう。
そして先ほど行われていたイカサマは、ディーラーが狙った位置にボールを落とすというシンプルなもの。
見た限りではボールと台の両方に仕掛けが施されており、イカサマが見破れないように使い分けていたようだが……ボールの軌道が明らかにおかしかったため、俺はすぐに見抜けた。
見破れないように抑えめなイカサマのため、俺ならば先ほど拾った小さな石を思い切り弾いてぶつけることで、狙った穴に無理やりボールを落とすことができる。
目標としてはこの強面の男にボロ勝ちし、この賭場を取り仕切っている人間を引っ張り出したい。
まずはイカサマで負けるまでは接戦を演じ、イカサマを行ってきたらすぐに指摘。
白を切ってきたら、小石を使って無理やり勝ちを捥ぎ取らせてもらうとしよう。
「それじゃ、さっさと金を賭けるとしようぜ。赤か黒かは全部お前が決めていい。掛け金については互いに決めていこうや」
「そういうことなら遠慮なく賭けさせてもらう。まずは赤の奇数に白金貨一枚」
「ほー……いきなり白金貨一枚も賭けるのか。なら俺は黒の偶数賭けさせてもらう」
イカサマを行う上で、まずは相手に勝たせるというのが鉄則。
その点を踏まえて白金貨一枚という微妙なラインで賭けたのだが、この強面の男はどう動いてくるか。
ディーラーは白金貨を受け取ってから、ルーレットを行い始めた。
ボールの軌道を見る限り、ボールによるイカサマは仕掛けてきていない。
俺は台の方にだけ注視し、ボールが転がる行方を見守る。
そのまま怪しい動きが一切ないまま、ボールの勢いが弱まって穴へと落ちた。
落ちた場所は25の奇数。つまりは赤。
何のイカサマもしてこなかったため、黒に落ちたら危なかったが……俺の賭けた赤に落ちてくれて良かった。
「おー、初戦は俺の負けか。流石にまだ降りはしないよな?」
「ああ、続けさせてもらう。次は黒に賭けさせてもらう」
「いいねぇ、なら俺は赤で掛け金は――白金貨三枚だ」
今の勝ちで俺の手持ちは白金貨一枚増えた。
早めに高い額を賭けたこともあり、ここで白金貨三枚ということはもう動いてくるだろう。
何も気づいていない素振りを見せつつ、ディーラーの手によってルーレットが回るのを静かに見守る。
ボールの軌道は正常。台の方も今のところは動きがないが、ディーラーの手が台の下に置かれていることから何か仕掛けてくるはず。
ボールの勢いが弱まり始め、ボールが俺の賭けた黒に落ちかけたその時。
台が若干せり上がって、落ちかけていたボールが弾かれて19の赤に落ちた。
このままイカサマを仕掛けてこなかったら、ただ違法な賭博をこの男とするだけになっていたが、しっかりとイカサマを行ってきてくれて良かった。
気づいていないと思ってニヤついている強面の男に指摘をするとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます