第226話 情報収集
見つけた安宿で部屋を取り、体を綺麗にして服も着替えてから半日ほど休憩した。
街に着いた頃は朝だったが、外に出ると日が落ち始めており、動くには絶好の時間帯。
ヨークウィッチに来る前まではこんな生活が当たり前だったが、久しぶりに味わうとかなり辛く感じるな。
何よりも辛いと感じるのは人と会話しないことであり、思い返してみればヨークウィッチに来てからは毎日人と会話していた。
一時的にジェイドの名を捨て、覚悟を決めて街を出てからまだ数日しか経っていないのだが……。
既に帰りたいと思ってしまっているほど、常にヨークウィッチの思い出が脳裏に過っている。
「駄目だ。考えるのは全てが終わってから」
自分を鼓舞するように独り言を呟き、頬を叩いて気合いを入れる。
無理やり気合いを入れ直した俺は早速夜の街に出て、とにかく情報を集めることに決めた。
情報屋のようなものは使わず、自分の足で情報を見つけていくのが俺のやり方。
そもそも情報屋として名が知れている時点で大した人間ではなく、本物の情報屋というのは見つけることが不可能に近い。
それにすぐに見つけることができる情報屋からは、逆にこちらの情報が漏れる可能性も高いため、使わない方が慎重に進める上ではいい。
もちろん簡単な情報なら手に入るし、手っ取り早くはあるんだが……デメリットに対するリターンは面倒を省けるって点だけだ。
そんなことを考えながら辿り着いたのは、口の軽い人間が多く集まる大衆酒場。
ここで人の話を盗み聞きしながら雑な情報を大量に仕入れ、そこから取捨選択を行い、深堀りしたい情報の餞別を行う。
深堀りしたい情報が決まれば、個々で話がしやすいバーへと移り、そこで情報を知っていそうな人間に詳しく尋ねるというのが基本的な情報収集の流れ。
酒が集まっている場所には情報が集まっているため、何か情報を手に入れたい時は酒場に向かうのが鉄則。
もちろん重要な情報は手に入らないが、今回のように広く浅い知識を手に入れたい場合には最適の場所。
情報収集のために酒場に向かうことに決めた俺は、早速近くにある大衆酒場から入ってみることに決めたのだった。
「んおーい。俺は今どんな状況なんらぁ?」
「家まで送っている最中だ。大人しくしておけ」
俺の背中には一人の酒で潰れたおっさんがおり、今はそのおっさんの家に送り届けている状態。
情報収集は上手くいっていたのだが、場所を移したバーでこのおっさんから情報を聞いていた中、ガブガブと酒を呑んで勝手に潰れてしまったという流れ。
俺が酒を奢るといったのも悪かったが、潰れるまで呑むとは思ってもなかった。
度数だけ高い安酒だったし、酒代以上の情報を頂くことができたから不満はないが……酒臭いおっさんを送り届けるのは少しだけ面倒くさい。
「お前ひゃんは、俺の家を知っているのかよ」
「バーで聞いた。『ネバーランド』っていう道具屋だろ?」
「なんだ。知っているにゃら安心だ。俺はもう少しだけ寝かせてもらう」
そう言うと安心したのか、俺の背中でいびきをかいて眠ってしまった。
俺も道具屋を営んでいると聞いたから少し心を許してしまったが、こんな目に合うなら頃合いを見て離脱するべきだったな。
そんなことを考えながら、俺は街の外れにある『ネバーランド』という道具屋におっさんを送り届け、それから俺も一人宿屋に帰った。
そして、翌日の早朝。
宿屋に戻ってから軽く睡眠を取ったことで、体力の方は完全に回復した。
情報通の道具屋のおっさんのお陰で、ここで手に入る情報は手に入れたと言っても過言ではないし、今日にでも街を離れてもいいのだが……前払いで宿屋の代金を支払ってしまったんだよな。
安宿のため大した額ではないし、別に気にせずに街を離れても痛くはないが、フィンブルドラゴンの防具もクリーニングに出している訳だし、当初の予定通りあと二日はこの街に滞在しよう。
とは言うものの、動くことのできる夜までやることが特にないんだよな。
二度寝し、体力回復に努めるのも選択肢の一つだが、昨日集めた情報の整理でもするとしようか。
まずこの街は『フロン』という名前の街で、国境から一番近い街らしい。
そしてここからが重要な情報だが、クロこと“ブレナン・ジトー”は現在帝国の執政官の役職に就いているとの話。
執政官と言えば公職のトップに近い役職であり、表でも自由自在に人を動かせる立場にあるということ。
“クロ”としてどう動いているのかは掴めなかったが、俺が所属していた暗殺者組織は壊滅したという噂はこのフロンの街にも届いていた。
ここまで表立って動いているのであれば、ブレナン・ジトーについての情報は簡単に集めることができそうなのだが……。
俺が情報を集めなければならないのは、クロが未だに裏で暗躍しているかどうかについてだ。
有能が故に表で見せている顔は全て作り物。
何なら俺が知っている“クロ”という存在ですら、全て偽物だった可能性もある。
クロについてを調べていて、俺が今何を調べているのかも分からなくなるような情報ばかりだが、何も手掛かりがないのであれば“ブレナン・ジトー”についてを調べるしかないか。
それから現在、帝国で暗躍している裏の組織についても調べ、帝国と繋がっていたであろう『ブラッズカルト』についても調べないといけない。
これら裏の情報は、昨日行ったような方法では入手できない情報のため、フロンを出立する直前にこの街にいる一番悪い奴を襲って情報を吐き出させる。
二日後までにこの街で一番悪い奴を見つけることが、俺が次にやるべきことだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます