第227話 ネバーランド


 悪人を探しつつ体を休め、あっという間に二日が経過した。

 昨日はこの街一番の悪い奴についてを探し、無事にこの街でもっとも悪名高い人物の情報を集めることができた。


 その人物はデウィットという名前で、何かの組織に属している訳ではない所謂チンピラと呼ばれる類のもの。

 ただ、違法なドラッグの販売や売春、強盗とやりたい放題行っている悪人と呼ぶに相応しい人物。


 ただ、一日の調査で居場所まで突き止めることができたことから考えても、大した人間ではないことは確実。

 油断するつもりはないが、サクッと捕まえて情報を吐き出させたい。


 この後の予定としてはクリーニング店でフィンブルドラゴンの防具を取りに向かい、襲撃の前にまずは出発に向けての準備を行う。

 とは言っても、軽装備のため大した準備もいらないのだが……二日前に情報を聞き出すために仲良くなったおっさんが営んでいる『ネバーランド』にでも行ってみよう。


 ついでにデウィットについても尋ねてみるのもアリかもしれない。

 このおっさんはかなりの情報通だったからな。

 そんなことを考えながら準備を進め、街の外れにある道具屋『ネバーランド』に向かった。


 おっさんを送った時は深夜だったから辺鄙な場所だとしか思わなかったが、『ネバーランド』周辺は意外にも人が多く賑わっている。

 もちろん『ネバーランド』にもかなりの客が入っていて、想像と少し違かったため少しガッカリしてしまう。


 俺が働き始める前の『シャ・ノワール』を想像していたのだが、『ネバーランド』は結構な人気店みたいだな。

 ゆっくりと話を聞くことはできないだろうが、買い物ついでに軽く話しだけしてササッと帰るとしよう。


 そんな気持ちで『ネバーランド』の中に入ったのだが、その客層にまず驚いた。

 店内には十人ほど客がいたのだが、中にいた客の全てが冒険者。


 『シャ・ノワール』も冒険者ギルドで集客したこともあり、冒険者の割合は多かったがここまで極端ではなかった。

 魔道具が大ヒットしてからは普通の客も入るようになっていたし、全員冒険者ってのは驚いたな。


 商品も見る限りでは冒険者に特化したものばかりだし、完全に冒険者向けに営業している店なのだろう。

 『シャ・ノワール』では変わった商品をいくつも生みだしていたこともあり、特に目新しい商品はないと思ってしまうが、商品の値段はかなり安い。


 『シャ・ノワール』も安さはかなりのものだったが、『ネバーランド』は全体的に更に一割ほど安い値段となっている。

 値段が安いのは立地的な問題もあるだろうが、それを考えても安いため冒険者が集まるのも納得だな。


 商品を一通り見て目新しい商品は結局見つからなかったが、必要なものは全て揃っているため、出発前に買っておきたかったものは全て揃った。

 大分安く済んだし思惑とは違ったが、『ネバーランド』に買いに来て正解だったな。


 そんなことを考えながら、商品を持って勘定場へと持っていくと、会計を行っていたのは紛れもない一昨日俺が運んだおっさん。

 呂律が回らないほど酔っていたし、俺のことに気がつかない可能性もある。


 未だに客でいっぱいで忙しそうにしているし、覚えていないようだったら特に声を掛けることをせずに立ち去ろう。

 心の中でそう決めて、商品を勘定場に持って行ったのだが――。


「いらっしゃい! ……ん? お前さんは一昨日の奴じゃねぇか?」


 すぐに俺のことに気づいたようで、指をさしながらそう尋ねてきた。

 気づかれたのなら知らないフリをする意味もないため、返事をするとしよう。


「覚えていたんだな。一昨日は大分酔っぱらっていたから、様子を見に来るついでに買い物に来たんだ」

「そうだったのか! 一昨日は奢ってもらった上に、送り届けてくれてありがとな! 今日も様子を見に来てくれたみてぇだしな!」

「こっちも色々と面白い話を聞けたから礼なんかいらない」

「がっはっはっ! 随分と気前が良いあんちゃんだな! まだこの街に滞在するのか? するなら、今日の夜にでも酒でも呑みに行こうや! 今日は俺が奢ってやるぞ!」


 店中に聞こえる声量で誘ってきてくれた店主のおっさん。

 酒好きも相まって何処かレスリーみを感じるし、奢ってくれるなら折角の誘いを受けたいところだが……。


「行きたい気持ちはあるが、今日の昼過ぎには出発する予定なんだ」

「そりゃ本当かよ! せっかく会えたんだし、もう一回ぐらい呑みたかったが……出発しちまうならどうしようもねぇよな」


 さっきまで大口を開けて笑っていたのだが、行けないと分かるや否や露骨にテンションが下がった。

 こういうところもレスリーに似ている。


「――あっ、そうだ。ちょっと待ってろ。良い物をくれてやるよ! 俺の店の商品も買ってくれるみたいだしな!」

「ん? 別にいらないぞ。ここの店の商品はかなり安いから、礼としてはそれだけで十分だ」


 そう遠慮したのだが、俺の話に一切耳を傾けることなく、何やら勘定場の下を漁り始めたおっさん。

 そして探していたものが見つかったのか、何かを手に持ったまま立ち上がった。


「見っけたぜ! これは俺からのプレゼントだ! 後で見てくれ!」

「本当に貰っていいのか? ……何をプレゼントしてくれたのか分からないのが怖いが」

「それは開けてからのお楽しみだ! 街を出てから開けてくれ! 俺はスミーってんだ! 今度この街に寄った時は絶対にまた酒を呑みに行こうぜ」

「ああ。『フロン』に来た時には必ず店に立ち寄らせてもらう」


 店主のスミーから何かをプレゼントとして受け取り、会計を済ませてから店を後にした。

 覚えていてくれたのも嬉しかったし、シンプルに良い店だったから『ネバーランド』で買い物をして良かった。

 後は……サクッとデウィットから情報を吐き出させ、街を出発するとしよう。


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