第177話 溶岩洞


 奥に進むにつれて温度も高くなっているようだが、徐々に慣れてきたこともあって汗は完全に引いた。

 ただエイルはまだ順応できていないようで呼吸も荒く、汗も滝のように流れている。

 水分は大量に持ってきてあるが、あまり長居はできないかもしれないな。


「エイル大丈夫か? 休憩が必要になったらすぐに言え。倒れられたら困るからな」

「まだまだ余裕だ! それにしても……なんでジェイドは涼しい顔をしてんだよ!」

「もう暑さに慣れただけだ。戦闘は俺が積極的に行うから、エイルは体力を温存しておけ」

「この馬鹿暑いのに慣れるっておかしいだろ! どんな体の構造してんだよ! ――あと、俺も戦うからな! 独り占めは許さねぇ!」


 俺の意図を全く汲んでいないが、これ以上言っても聞く耳は持たないだろうから好きなようにやらせるか。

 途中でへばったら先に戻ってもらい、俺一人でメタルトータスを探せばいいだけ。


 そんなことを考えながら溶岩洞を進んでいると、初めての大きな分かれ道のような場所が現れた。

 左側はジメッとしていて薄暗く、右側は更に溶岩が活発に流れ出ている感じがある。


 心情的には左側に進みたくなる気持ちになってしまうが、強い魔物の気配を感じるのは右側から。

 二手に分かれて捜索するのもアリだが、目を離しているところで死なれては困るため一緒に行動するしかない。


「この分かれ道どっちに進む? 俺は左側に進みてぇけどな!」

「向かうなら右側の道だな。強い気配を感じるのは右側からだ」

「……強い気配がするなら、右側のが面白そうな雰囲気はある! でも、これ以上あっちぃのは耐えられねぇぞ!」

「だったら先に入口まで戻っていてもいいぞ。ここまで案内してもらったから、後は俺一人でも進むことができる」

「誰がここまで来て戻るかよ! メタルトータスを狩るまでは死んでも戻らねぇからな! ……それより氷魔法は使えないのか? 使えるなら少しは冷やすこともできるだろ!」


 意固地なところを見せたかと思えば、次の瞬間には甘えたことをぬかすエイル。

 この我儘っぷりこそエイルだが、この暑い空間では三割増しで鬱陶しい。


「氷魔法は使えるが、魔力がもったいないから使わない」

「なんだよ、もったいないって! これ以上ないタイミングだろ!」

「何かあった時のために魔力を温存しておくのが俺の性格だ。涼しくするためだけに魔法を使うことはない」

「……本当は氷魔法を使えないんじゃないか? 見栄を張って使えると言っただけだろ! 悔しいなら氷魔法を使ってみろよ!」

「使わない」


 あの手この手を使って氷魔法を使わそうとしてくるエイルを受け流し、右側の道を進んで行く。

 暑いからなのか耳栓をしたいぐらいエイルがうるさいが、耳栓はできないため無の心を意識して無視を決め込むしかない。



 エイルの言葉を無視しながら右側の道を突き進んでいたのだが、予想通りこっちの道は更に温度が高くなり、この高温の環境に慣れてきた俺が再び汗が噴き出てくるほど。

 そんな暑さと比例するように魔物の数も増え始め、想像していたよりも厳しい場所だというのを肌で感じている。


 エイルはぶっ倒れてもおかしくないくらいだと思うが、口約通り魔物との戦闘を積極的に行っていて、俺以上に魔物を倒しているぐらい。

 口では弱音は漏らすものの、気合いと根性は相当なものを持っている。


「うおおおオオらあああアアア!! フレイムサマランダーのぶつ切り完成だあああ!」

「もうちょっと声を落とせ。他の音が聞こえなくなる」

「テンションがバカになっちまってるから無理だ!! 俺を静かにさせてぇなら涼しくさせろ!!」

「いいから少しだけ黙れ。ベニカル鉱山に入った時から感じていた強い気配がもう近くにある」

「それ本当か!? やっとここのボスがお出ましってことかああアア!! テンション上がってきたぜェ!」


 強い気配が近いという情報を聞き、更にテンションを上げたエイル。

 そんなうるさいエイルの声を上手く避けながら、奥から聞こえる特殊な音を拾う。


 水面を泳ぐような非常に不可解な音。

 こんな溶岩洞に水があるわけないのだがこの奥に確実にデカい魚がいて、その魚が強い気配を放っている。


 音的にメタルトータスではなさそうなのは残念だが、この特殊な音の正体をこの目で見たい欲はある。

 もしかしたらメタルトータスもその付近にいるかもしれないしな。


「何か泳ぐような音だな。溶岩洞に入ったばかりの時に見た奴と似た魔物かもしれない」

「泳ぐ? なら、そいつはマグマデルヘッジで間違いねぇぞ! 超巨大な古代魚みたいな見た目をしている魔物で、溶岩の中を泳ぐ魔物として有名なんだ!」

「そうなのか。なら、この先にいる魔物はマグマデルヘッジで確定だな。ベニカル鉱山で一番厄介な魔物なんだろ?」

「ああ! 一番強い魔物は間違いなくマグマデルヘッジだ! くぅー! ワクワクしてきたぜ!」


 今にも駆け出していきそうなエイルを引き留めつつ、まずは情報を共有から行う。

 マグマデルヘッジについては以前軽く名前を聞いただけで、俺は何の情報も持っていない。

 戦い始めたら暴走するのが目に見えているため、戦う前に少しでも情報を貰っておかないとな。


「エイル、マグマデルヘッジについての情報を教えてくれ。どんな技を使ってくるのかとか、気をつけるべきこととか」

「んなもん分からねぇ! 名前と姿だけ知ってるだけで、わざわざ調べたことはねぇからな! とにかくつえぇってだけだ!!」


 エイルに期待した方が馬鹿と言えば馬鹿だが、まさか俺と同じ知識量だとはな。

 一気に戦いたくなくなってきたが、エイルを止めることができないため……慎重に出方を窺いながら戦闘を行うとしようか。


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