第176話 ベニカル鉱山


 エイルが指さしていた山の下には、大きな洞窟が掘られてあった。

 人為的に掘られたもののようで、雑ではあるが舗装されてもある。


「鉱石を取るために掘られた場所なんだな。自然にできた場所かと勝手に想像していた」

「大金を叩いて掘られた場所だぜ! こんな感じで歩きやすい場所が奥深くまで広がっている!」

「鉱石が枯渇して捨てられた場所に魔物が住みついたって感じか?」

「ちっちっち。それがちょっと違うんだな!」


 人指し指を左右に振り、ドヤ顔で否定してきたエイル。

 なんというか、少しだけムカつくな。


「勿体ぶらなくていいから早く説明してくれ」

「この鉱山を掘っている最中に自然に出来た洞窟にぶつかっちまったんだよ! それも溶岩洞だ! 奥から強烈な魔物が次から次へと湧いてきたから、この鉱山を捨てざるを得なかったみたいだぜ!」

「なるほど。それじゃ鉱石自体は枯渇していないんだな」

「そういうこと! 手前の方は流石にないが、奥には普通に鉱石がゴロゴロ眠っている! 誰だか知らねぇが、無償で溶岩洞まで進みやすくしてくれたって訳だ!」


 大金を使って失敗に終わったことに対しては少々同情するが、俺達からしてみれば感謝しかない。

 更にレールのようなものも敷かれているため、トロッコでもあればもっと楽に進めていたんだろうな。


「そういうことなら道中で鉱石が大量に見つかるだろうが、まずはメタルトータスのみを狙おう。採取するにしても帰る際中だな」

「荷物を抱えたままの戦闘はキツいしな! その提案に異論はねぇ! ……クッソ、早く見たこともねぇ魔物が出てきてくれねぇかなァ!!」


 奥にいる魔物に対しての気持ちが強くなったのか、急に大きな声を張り上げたエイル。

 洞窟内では音が響くため大きな声を出すのはやめてほしいが、言ったところで直すとは思えないため我慢する。


 それから生物の気配を感じることもないまま、掘られた道に沿って進んで行くと正面に何やら強い光が見えた。

 真っ暗な洞窟ということもあって光が強く感じるのか?


 ……いや、恐らく正面に見える光の光度は明らかに強い。

 エイルの持っている松明よりも明らかに強い光を発していることから、正面に見えるのは溶岩で間違いないはず。


「あそこに見えているのは溶岩だよな?」

「ああ、間違いねぇ! ようやくベニカル鉱山の溶岩洞まで来たぜ!」

「遭遇した魔物もゼロだったし、案外あっけなく着いたな」

「俺達にビビって逃げたんだろ! 舗装された道に出るのはゴブリンとかオーアモールって聞いてたしな! ただ、ここから先は別世界だぜ! ジェイドも気を引き締めてくれ!」


 エイルの言う通り、この先からは強い魔物の気配を感じる。

 それもかなりの数が確認できることから、魔物の巣窟となっていうことが分かる。


 気を引き締めつつ、目の前に見える強い光に向かって歩いていくと――。

 とある地点を通過した瞬間から、強烈な熱を全身に感じた。


 北の山を登った時もある地点から急に温度が下がったし、それと似たような感覚。

 寒さにも暑さにも対応はできるものの、そんな俺でもじんわりと汗が滲むほどの暑さ。


「うー……あっぢぃ! 全裸になりてぇぐらい暑い!!」

「肌を露出させるのは逆効果だぞ。薄着にもならない方がいい」

「溶岩洞だから暑いことは覚悟していたけどよ、急にこんな暑くなんのかよ!」

「こんな中での戦闘はちょっと大変かもな。水分補給をしながら進もう」


 流れている溶岩のお陰で松明はいらないほど明るくなったものの、その溶岩のせいでとんでもない温度になっている。

 こんな環境をわざわざ好んでいる魔物は確実に強敵だし、全ての魔物と戦いたい気持ちがあったがなるべく避けるのが得策もしれない。


「なぁ! あれってファイアーバットだろ! その奥には獄炎鳥! あと見たこともねぇ魔物が溶岩の中を泳いでるぞ!」

「急に魔物が現れ始めたな。正直、どの魔物も見たことも聞いたこともない」

「ファイアーバットとかはダンジョンに出現した魔物だ! 獄炎鳥に関してはレアな魔物として有名だったんだぜ! なんでも滅茶苦茶に美味いらしい!」

「美味いと言われると……狩りたくなってくるな」

「溶岩を泳ぐ魚も美味いんじゃねぇか!? マグマデルヘッジと似たようなもんだしよ! ちょっと狩って食べようぜ!!」


 汗を大量にかきながらも、興奮した様子でそんな提案を持ちかけて来た。

 食べ物のこととなると俺も目がないため、危うくその提案を呑みかけたが……絶対に今やることではない。


「…………駄目だ。さっきも言った通り、まずはメタルトータスが最優先。どこにいるのかも分からないし、体力はできる限り残したい」

「ちぇっ! ノリが悪いな! 昨日の夜に食った肉よりも美味いかもしれないんだぞ!」

「水も限られているし駄目なものは駄目だ。狩るにしても帰りの道中で狩る。それでそこまで美味いのであれば、ヨークウィッチに持ち帰ってちゃんと調理してもらう方がいいだろ」

「……それは確かに一理ある! 帰りは絶対に狩るからな!」

「ああ。余裕があって見つけることができたら確実に狩ろう。俺だって食いたいしな」


 本能のままに動くエイルを説得しつつ、まずは本来の目的であるメタルトータスを狩ることだけに集中する。

 ベニカル鉱山の溶岩洞は見たこともないものばかりで、俺自身も目移りしまくっているものの、なんとか欲求に打ち勝ちながらメタルトータスを見つけるためにひたすら奥へと進んで行った。


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