第175話 食べ比べ
良い匂いが漂い始め、見た目も最高に美味そうな仕上がり。
塩コショウだけの味付けだが、食べる前から美味いのは確定している。
「俺の方はもう焼けたぜ! ジェイドの方はどうだ?」
「こっちも完璧な仕上がりだ。半分ずつにして、互いに食べよう」
焼いた肉を皿に移してから半分に切り、切った半分をエイルに渡す。
エイルが焼いた肉も半分貰い、後は食べ比べるだけだ。
「切り方といい雑だな」
「いつもこんな感じだ! 腹に入れちまえば同じだからな! それより早く食べようぜ!」
「ああ、腹減ったし食おう。いただきます」
軽く食前の挨拶を行ってから、まずは俺が狩ってきたライドンコンドルの肉から口に入れた。
硬さと臭みは一切なく、ほどよい弾力で非常に旨味が詰まった肉。
普段店で食べている肉と比べると一段落ちるが、それでも狙った獲物を狩れただけあって非常に美味い。
比較的簡単に狩ることができてこの肉を越えられるのは、俺が知っている限りグランボアだけだと思うのだが、エイルの狩った肉はどうだろうか。
「ひゃっひゃ! やっぱりイノシシは最高の肉だぜ! 一頭ぐらいならペロリと食えちまう!」
「エイル、食べ比べをするんだぞ。俺が狩った肉も美味いから食ってみろ」
「ジェイドもまだ俺の獲ってきた肉を食ってないだろ? お互いのを一緒に食おうぜ!」
エイルとタイミングを合わせ、互いに獲ってきた肉を口の中に入れる。
うん。イノシシ肉も美味いが、ジビエ特有の臭みが強い。
好きな人には好きな味だろうが、やっぱり俺はライドンコンドルの肉の方が好きだな。
塩とコショウ以外にも調味料が使えたら、また勝敗が変わってきただろうが。
「うんまぁ……! なんだこの肉! ジェイド、これ買ってきた肉じゃねぇのか?」
「違う。制限時間内に狩った獲物の肉だ。ライドンコンドルっていう鳥型の魔物の肉だな」
「ライドンコンドルなんて聞いたことがねぇ! ワイルドボアよりも強い魔物なのか?」
「少しだけ厄介な魔物ではあるが、強くはない魔物だぞ。美味さと強さが比例するとは限らないしな」
「そういうもんなのか! 悔しいが本気でうめぇ!」
あれだけ美味い美味いと言っていたイノシシ肉には目も暮れず、ライドンコンドルの肉を一気に食い切ったエイル。
臭みの感じからして、俺の下処理が完璧だったのも大きいかもしれないな。
「とりあえず勝敗をつけるか? 俺は迷いなくライドンコンドルの肉の方が美味いと思った。エイルはどっちが美味かったんだ?」
「う、ぐぐっ! どっちも美味かったじゃ駄目なのかよ!」
「それでもいいが、一勝一分けで俺の勝ちになるぞ。別に自分に指して引き分けでも構わないけどな」
「ぐぐぐ……! くっそ、俺の負けだよ負け! 絶対に勝てると思ったのに、めちゃくちゃ美味い肉を獲ってくんだもんなァ!!」
エイルは観念したように天を仰ぎながらそう言葉を吐いた。
絶対に自分以外を選ばないと思っていただけに、潔く負けを認めたのは意外だったな。
イノシシ肉も不味くはなかった訳だし。
「エイルの獲ってきた肉も悪くはなかったぞ。……ただ、これで約束通り荷物持ちはやってもらう」
「わーってるよ! くっそ。今回は戦闘ではないけど、俺が二連続で負けちまうとはなぁ! ジェイド、お前何者なんだ?」
「他の人よりも強いだけの普通の一般人だ」
「嘘つけ!」
それから残っていた肉も全部平らげ、明るくなるまで順番に寝ることとなった。
ただ交互に起こすという約束だったが、先に寝たエイルは一度も起きることがなかったため俺も警戒しつつ眠り、特に襲われることなく朝を迎えることができた。
「んあーっ! よく寝たぜ!」
「よく寝たじゃないだろ。交互で見張りをするって約束だったのに、起こしても一向に起きなかったぞ」
「悪い悪い! 疲れてたのか、起こされてることに気づかなかった! ジェイドは寝てねぇのか?」
「いや、寝た。昨日で狩りを行った時に危険な魔物は確認できなかったし、よく考えれば見張る必要がないしな」
「ならいいじゃねぇか! さて、本命のベニカル鉱山に潜るとしようか!」
疲れが完全に取れたようで、昨日以上に元気な様子のエイル。
口では謝ってきたが、一切悪いと思っていないのが態度で分かる。
その元気さも相まって少々イラッとくるが、言ったところで無駄なことはマイケルを見て知っているからな。
色々と鉱石の採取を行い、荷物持ちで今回の不満は解消させてもらうとしよう。
「まずは朝飯から食おう。昨日の肉を残しておいてあるから、それを食べてから鉱山だ」
「おっ、残しておいたのか! 流石にできる男はちげぇな!」
「エイルは絶対に全部食うと思ってたからな。とりあえず適当に肉でスープでも作ろう。パネトーネのパンを持ってきたから、浸しながら食えば幾分かマシだろ」
「よーし! 火起こしはやるから調理は任せたぜ!」
予定通りにスープを作り、パンと一緒に食べてから片付け。
向かう前に万全な準備を整えてから、俺達はいよいよベニカル鉱山へと足を踏み入れたのだった。
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