第174話 狩り勝負


 林に入ってから十五分ほど進んでいるが、未だにグランボアの気配は察知できていない。

 ライドンコンドルに関してはどんな気配だったか覚えていないため、実際に目視しないと見つけることができないのが難点。


 帰りのことを考えると、あと十五分ほどで見つけなければ制限時間に間に合わなくなる。

 二匹の魔物を諦め、質の高そうなイノシシに狙いを変えようか悩んでいたところ――視界の端で林の中を駆ける鳥のようなものが見えた気がした。


 多分だが、あれはライドンコンドルで間違いない。

 第一に狙っていたグランボアではなかったが、ライドンコンドルも非常に美味な魔物であるためライドンコンドルを狩るとしよう。


 グランボアは完全に諦め、視界の端で捉えたライドンコンドルを追う。

 羽もあって鳥のようだが、飛ぶことのできない魔物のため逃げられることは恐らくない。


 木が密集している中を爆走するため捕まえるのが厄介な魔物とされているが、俺は木から木へと飛び移って上から追うことができる。

 急な方向転換にも対応できるため、爆走しているライドンコンドルとの距離を徐々に縮まってきた。


 そしてとうとう追いつき、進行方向を塞ぐように着地。

 両手を広げて通せんぼすると、ライドンコンドルは興奮したように翼を広げ、頭をブンブンと振り始めた。


 獲物を狙っている訳でもないのに、林の中を爆走するという訳の分からない行動を取っていることから分かる通り、ライドンコンドルは非常に知能の低い魔物。

 ただし気性は荒く、戦闘能力もこの手の魔物にしては高い。


 力量差を図ろうともせず、立ち塞がった俺に対して攻撃を仕掛けてきたライドンコンドルの蹴りでの一撃を躱し――体に対して小さい頭を拳で揺らす。

 脳がスッカスカなため軽い衝撃でも脳が激しく揺れたようで、ライドンコンドルはあっけなく倒れた。


 そんなライドンコンドルの足をロープで縛って木に吊るし、すぐに心臓を切って放血。

 近くに川があることは確認しているため、その川から水を汲んで綺麗に洗っていく。


 血や泥が綺麗になったのを確認してから内臓部分を取り出し、食べられる部分以外は土に埋めて解体は完了。

 人を殺めるのが仕事だったため、魔物だろうが解体はお手の物。


 時間が惜しいからと言ってすぐに解体しなければ、肉の鮮度は一気に悪くなって血生臭くなる。

 内臓の部分も悪くなって血の臭いも肉にこびりつくため、放血と内臓を取り出すのは締めてからすぐに行うのが鉄則。

 生物から食材へと変えた俺はすぐに先ほどの場所に戻るべく、ライドンコンドルを背負って来た道を引き返した。



 かなり遠くまで狩りに出掛けたが、制限時間よりも十分ほど早く戻ってくることができた。

 エイルはまだ戻ってきていないが、音や気配からしてこっちには戻ってきているのは分かる。


 距離からして時間には間に合うため、狩った獲物の味での勝負となるだろう。

 制限時間オーバーが一番しょうもないため、エイルもしっかり戻ってこれそうで一安心。


 さてと、エイルが戻ってくるまでの間に下処理を済ませておくとしよう。

 毛をしっかりと毟ってから皮を剥ぎ、綺麗なピンク色の肉塊にしていく。


 こうなるともうただの食材でしかなく、誰が見ても不快には感じないどころか美味しそうと思える見た目に変わった。

 そんな肉に唯一許された塩コショウを振り、下味をつけてひとまず完成。


 本当ならば調味料に漬けて揚げるのが、俺ができる料理の中で一番美味い食べ方なのだが、今回は漬けるのも揚げるのもできないからな。

 今できる最大限のことはやったと思う。


 それからエイルが戻ってくるのを待っていると、制限時間ギリギリで息を切らしながら戻って来た。

 背負っているのは大きな個体のイノシシで、かなり美味しそうな個体ではありそう。


「ぜぇー、ぜぇー。な、なんとか戻って来れた! よく考えれば一時間って短すぎるだろ! 帰ることも考えて、せめて二時間は必要だった!」

「俺は余裕で戻ってこれたけどな。もう後は焼くだけの状態になっているし」

「……っ! でも俺の方が美味いし、デカい獲物を狩ってきた! 調理は時間を過ぎてもいいんだよな!?」

「ああ。ゆっくり捌いていいぞ」


 時間がなかったのも影響してか、まだ血抜きも終わっていない状態。

 臭いが気になるため、離れた場所で作業をするように指示をし、エイルが解体するのを待つ。


 結構大きな個体だったことから時間がかかると踏んでいたが、三十分ほどで作業を終えて戻ってきた。

 手に持たれている猪肉はやはり質が高そうで、これは割りといい勝負になりそうな気がする。


「待たせたな! 後は塩とコショウで焼くだけで完成だ! んで、勝敗はどうやって決めるんだ? 審査する奴がいないだろ?」

「お互い本音で言えばいいだろ。嘘偽りなく、どっちが美味かったで決めよう」

「それ、決まるか? ジェイドはジェイドが狩った肉に入れるだろ!」

「そんなことはない。互いに一票ずつなら引き分けだ。それより早く焼こう。腹が減った」


 マイケルがいれば完全に勝敗がついただろうが、今回は自主申告制。

 エイルの言う通り、ほぼほぼ勝敗はつかないだろうが、俺は負けたと感じたら正直に言うつもりではある。

 そんなことを考えながら、俺はライドンコンドルの肉を焼き始めた。


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