第238話 菜園
気づかれる前に部屋の前から立ち去り、屋上に出るための扉を探す。
建物に入るまでは厳重だったが、中に入ってしまえば警備がかなり緩い。
屋上へと続く扉も簡単に見つかったし、施錠もされていないようで簡単に屋上へと出ることができた。
後は無事に下りることができるかだが――そんな心配をしながら屋上に出たのだが、俺の目には驚くものが飛び込んできた。
勝手に何の変哲もない屋上だと思っていたが、どうやら屋上も何らかの施設のようであり、見た限りでは菜園でも行っているのかと思うほど緑が生い茂っている。
ただ、明らかに普通の菜園ではなく、違法薬物に使用する植物を栽培している菜園だろう。
見たこともない植物で埋め尽くされているし、葉の形や色が変なものばかり。
屋上で栽培をして、栽培した植物を使ってこの建物で違法薬物を製造。
『都影』のアジトよりもあくどいことを行っているアジトだな。
全てを燃やしてやりたい気持ちになるが、どんな煙が焚かれるのか分からないし、何より不必要な行動は『バリオアンスロ』の警戒心を強めるだけ。
屋上に違法薬物の製造に使用している植物があるという情報を得られただけでも大きい訳だし、今日のところは何もせずに戻るとしよう。
生い茂っている植物を掻き分け、屋上から建物の外壁から下りて行く。
昼間ならば目立ってすぐに見つかっただろうが、今は夜で真っ暗。
それに街の方は異様に明るいため、外壁を伝っている俺になんか目が向くことはない。
かなり無茶な潜入ではあったが、気づかれる気配もなく無事に建物から脱出することができた。
建物から出た後もまだ油断できないといえばできないのだが、屋上から西側のエリアに戻るルートは確認済み。
賑やかな場所から離れ、俺は闇に紛れながら北側エリアを後にした。
翌日。
昨日は誰にも勘付かれることなく、無事に北側エリアから帰還できた。
依然としてクロや『モノトーン』の情報は手に入らなかったが、『バリオアンスロ』についてはかなりの情報も得られた訳だし、今日は詰所に行ってもいいかもしれない。
なんにせよ、アルフィとセルジとは仲良くしておきたいからな。
休む間もなく動いているが、疲れ自体は溜まっていないため早速詰所に向かうことにした。
遠目から中の様子を覗き見し、アルフィとセルジしかいないことを確認してから詰所の中に入る。
暇すぎるからか何やらカードゲームのようなもので遊んでおり、二人は随分と楽しそうにしている。
「あぁー! また負けちゃいました!」
「アルフィ、随分と楽しそうにしているな」
「あっ、ジェイドさん! また来てくれたんですね!」
カードを放りなげて悔しそうにしていたアルフィだったが、俺が声をかけるなり笑顔になった。
この反応からして、俺はまだ嫌われていないと捉えてもよさそうだな。
「今日は何をしに来たんだ? 道具屋を案内してくれって言いにきた訳じゃないだろ?」
「アルフィからいつでもきてくれって誘いを受けたから来ただけだ。セルジからしたら迷惑だったか?」
「そんなことないですよ! セルジさんもジェイドさんから煙玉を買いたいって言ってましたもん!」
俺とセルジの仲を取り持つかのように、そんなことを言い出したアルフィ。
ただの口からでまかせって訳でもなかったようで、セルジは少し罰が悪そうに頭を掻いた。
「毒煙玉の量があるなら買いたいって話だ。――というか、アルフィ。すぐにべらべらと話すな」
「別にいいじゃないですか! ジェイドさんは悪い人じゃないと僕の勘が言っているので大丈夫です! もしかしたら僕達の任務のお手伝いをしてくれるかもしれませんよ!」
「……ん? 任務の手伝いってなんだ? 何か俺に手伝ってほしいことでもあるのか?」
セルジにとっては触れてほしくなかった内容だったのか、頭を抱えて項垂れ始めた。
情報を得たい俺としてはありがたい限りだが、アルフィは味方にいると大変そうだな。
「……兵士の仕事だよ。部外者には流石に話せない内容だ」
「セルジさん、手伝ってくれると言っているんですから、手伝ってもらいませんか?
完全に行き詰まっていますし、別の手を打たないといけないと僕は思います!」
「特に首を突っ込まずに聞かないフリをするつもりだったけど、そこまで言われたら気になってしまうな」
現実逃避しているのか両耳を塞いでいるセルジには言葉が届かないようで、俺の質問の返答はこない。
アルフィから強引に聞き出すのもアリだが、セルジと対立してもいいことはないため……ここは無理に突っ込み過ぎずに様子を覗おうか。
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