第239話 密会
完全に無視を決め込んでいるセルジを見ながら、アルフィと顔を見合わせて軽く笑い合う。
「今は話してくれなそうだな」
「僕は話してもいいと思ってるんですけどねぇ」
「まぁ客観的に見たらセルジの方が普通だからな。逆にアルフィはなんでそんなに信用してくれているんだ?」
「さっきも言いましたが勘です! 僕の勘がジェイドさんは良い人だと言っているので間違いないです! それとも……悪い人なんですか?」
「いや、俺は悪い人ではないが……」
あまりにも根拠に欠ける説明で困惑する。
アルフィが本当に悪い奴に騙されないか心配になってくるが、とりあえず俺を信用してくれているのはありがたい。
「やっぱりそうですよね! なら、今夜また『クレイス』に来てください! それまでに僕がセルジさんを説得しておきますので!」
「大丈夫なのか? 説得できるとは思えないが」
「大丈夫です! セルジさんの性格はよく理解していますから!」
そう言って親指を立てたアルフィだが、簡単に説得できるとは思えないのだが。
完全にアルフィの方がおかしい訳だしな。
「分かったけど、あまり無茶な説得はしないでくれ。セルジと対立することになったら嫌だからな」
「分かってます! 心配はいらないので、後は僕に任せてください!」
本当に分かっているのか心配になるが、ここはアルフィに任せるしかない。
手を振るアルフィに手を振り返してから、俺は来たばかりの詰所を後にした。
二人とゆっくり話をするつもりで来たのだが、すぐに追い出される形になってしまったな。
夜まではまだまだ時間があるし、どうやって時間を潰すか。
大通りに向かって歩きながら色々と思考し、セルジが毒煙玉を求めていることを思い出した。
普通の煙玉はかなりの数あるのだが、毒煙玉は合計で五つしか持ってきていない。
数があるなら売ってほしいと言っていたし、五つじゃ売るにしては数が少なすぎる。
アルフィを全面的に信用できないし、セルジが求めている毒煙玉を制作しても良さそうだな。
実際に毒煙玉を作ったことはないが、作り方なら知っている。
ヴェラから毒煙玉に使用する植物も聞いているし、ローク草も近くに森があるなら採取することができるはずだ。
まずはアルフィに案内してもらった道具屋を巡り、煙玉の作成に必要な道具の買い出しに向かう。
それから近くの森に向かい、ローク草と毒草を採取すれば毒煙玉を制作する準備が整う。
まずは自分で作ってみて、上手くいかなかったらこの街にある工場で作ってもらえないか交渉すればいい。
夜までにやることを決めた俺は、早速道具屋巡りから始めた。
無事に大通りにある道具屋で煙玉の制作に必要な素材を購入でき、ついでに近くにある森の情報も手に入れた。
危険な森ではなさそうだし特に準備を行うこともなく、そのままの足でエアトックの南にある森へとやってきた。
「西の森と比べると深い森じゃないな。森というか林ぐらいの規模だ」
南にある森の前に立ち、そんな独り言を呟く。
思っていた以上に森の規模が小さく、この森に求めている二種類の植物が生えているか少し不安になる。
西の森で自生しやすい場所は把握しているため、生えているのであれば探すこと自体はそう時間はかからないと思うが……。
一抹の不安を残しつつも、南の森に足を踏み入れた。
生息している魔物は基本がゴブリン。
後は虫系の魔物やワイルドボア、ホーンラビットなどの弱い獣系の魔物だけ。
ディープロッソ級の魔物の気配は感じないし、魔物自体の数も少なく本当に安全な森のようだ。
その分、果物や食べられる野草なんかの数は少ないが、食べられもしなければ使い道もないローク草はしっかりと生えていた。
毒煙玉に使用する毒草も比較的簡単に見つけることができたし、これで一応毒煙玉の素材を見つけることができ――。
採取を終えてそこまで思考した時、前方から誰かが近づいてくるのが分かった。
草木を掻き分ける音で気づけたのだが、ここまで近づいていたのに気づくことができなかったということは、戦闘能力のない一般人かなぜか上手く気配を探ることができない獣人のどちらか。
俺はすぐに木の上に登り、息を殺しながら近くにいる人間の後を追うことを決めた。
音を立てないように木から木へと飛び移りながら移動し、気づかれることなく気配を探れなかった人間が見える距離まで近づくことに成功。
見えた人間は三人で、その内の二人は昨日北側のエリアで見たような悪そうな獣人の男。
もう一人は、見覚えのないふくよかな体型をした普通の人間に見える。
こんな森の中で会っていること自体が怪しいため、何らかの取引を行っているのかもしれない。
森の中で情報を得られるなんて考えてもいなかったが、これはあまりにもラッキーだ。
気づかれないように会話の聞こえる距離までもう少しだけ近づき、何の取引を行っているか盗み聞きするとしよう。
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