第198話 急報


 俺を狙っているであろう組織に罠を張りつつ、職人たちとの話し合いを行って三日が経過した。

 仕事の方は至って順調であり、担当してくれていた職人たちの工場の拡大に加えて、手伝ってくれそうな職人を紹介してもらったため交渉を行っているところ。


 この交渉が上手くいけば魔道具の制作の方はなんとかなる目途が立ち、今まで通り新しい魔道具についてはこれまでの職人たちが制作に携わってくれることになった。

 アイデアの方は既に出し合っているし、要領を完全に掴んだヴェラが引っ張ってやろうとしているし、『シャ・ノワール』の二号店を出す準備は整ったと言っていい。

 物件の方は完全にレスリーに任せているため、少しだけ心配ではあるが信じて待つしかないな。

 

 こんな感じで仕事の方は順調そのものなのだが、俺が仕掛けた罠については今のところ引っかかる気配がない。

 毎朝、出勤前にバーに顔を出してはユウセンの匂いを残しているのだが、マイケルから聞いた怪しい人物とやらは見かけない。


 俺は強い気配ならすぐに感知できるため、正直この街に潜伏していないのではと思い始めているが……。

 気配を消すことができる可能性は十分にあり得る。


 四人組の一人であったシャパルのように、影の中に身を潜めさせる特殊なスキル持ちのような可能性だったあるしな。

 まぁ俺としては何事もない方がありがたい訳だし、このまま何事もなく終わってくれるのがベスト。

 ――そう思っていたのだが、その報告は突然やってきた。

 

 日が落ち始めると同時に客の来店が落ち着き、一息入れていたタイミングで息を切らして大量の汗を垂れ流しながらやっていた一人の客。

 その怪しすぎる客に全員の目が向いたが、俺はすぐにその人物がマイケルの使いのギルド職員ということに気が付いた。


「あ、あの! ジェ――」


 そこまで言いかけたところで俺はそいつを捕まえ、外へと連れ出した。

 危うく大声で余計なことを言われるところだった。


 俺も完全に怪しく映っただろうが、俺以上にこいつが怪しかったし言い訳はなんとでもつく。

 それよりも、このギルド職員から話を聞かないといけない。


「おい、伝える時は気をつけてくれ」

「すいません! で、でも、すぐに来てくれとギルド長から指示を受けたので!! 例の組織が現れたとのことです!」


 やはり用件は例の組織絡みだったか。

 まだ営業中だし店を開けるのは気が引けるが、客が落ち着いた時間帯だったのは好都合。

 このまま少しだけ抜けさせてもらい、ささっと仕留めて戻るとしよう。


「報告ありがとう。俺は急いで向かうから、お前はマイケルに報告しに行ってくれ」

「マイケル? ……あぁ、副ギルド長にですね! 分かりました!」


 ギルド職員の返事を聞いたところで、俺は急いでバーへと屋根伝いで向かう。

 今までの最速で飛ばし、あっという間にバーに到着。


 エイルによれば例の組織が現れたとのことだが、やはり気配は一切感じず中から感じるはエイルの気配だけ。

 様子見したいところではあるが、そんな時間もないためすぐにバーに突入した。


 中に入ってすぐに目に飛び込んできたのは、埃が被ってしまっているカウンターで座っている一人の男。

 スラッとした顔立ちの良い男で、黒いスーツのような服装。


 俺が被っていたら確実にダサい黒いハットを完璧に着こなしており、更に白いシルクの手袋と持ち手に装飾が施されたステッキ。

 アイテムも含めてThe紳士のような容姿なため、寂れきったこのバーの雰囲気と相まって絵になっている故に俺にとっては違和感でしかない。


「もう応援が来たのですか。見張りなんていらないと思っていたのですが、少しだけ甘く見ていましたね」

「見張りということは、奥にお前の仲間がいるんだな」

「ええ、そうです。初めに自己紹介をさせて頂きますね。私は『ブラッドカルト』という組織のオリバーと申します。私を倒すことができたら助けに行けますよ。……ふふふ。あなたはお強そうですので少しは楽しめそうですね」


 オリバーと名乗った紳士の男は、そう言いながら口を大きく歪ませて笑った。

 気配の絶ち方は完璧。身のこなしも強者のそれであり、体幹のブレなさからも実力者ということが分かる。


 俺を舐めている訳ではないながらも、ナチュラルに俺を見下していることからも百戦錬磨の暗殺者といったところか。

 パッと見た限りでは身体能力は俺よりも明確に上。


 こんな強敵とは中々出会えないため、じっくりと戦いたい気持ちが沸き上がってくるが……。

 今は店を抜けている状態だし、奥にいるエイルも少しだけ心配。

 ――最初から本気で殺しにかかるとしよう。


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