第267話 お見舞い


 翌朝。

 昨日言っていた通り、俺は朝一でアルフィの見舞いに向かうことにした。


 思っていた以上に元気だったという情報からも、恐らく大丈夫なはずだがこの目で確認するまでは安心できない。

 剣に毒が塗られていなくとも、剣が汚ければそこから菌が入って悪化することは往々にしてある。


 それに刺されたのが腹な訳で、小さな傷でも油断はできない。

 俺は宿屋を出て、セルジから聞いた中央通りの治療院へと急いだ。


 受付でアルフィの病室を聞き出し、教えてもらった部屋に向かう。

 アルフィがいるのは大部屋であり、大部屋の時点で大事には至っていないことが分かってとりあえず一安心だな。


 中に入ると、ベッドで横になっているアルフィが見えた。

 余程暇なのか手遊びをしていて、部屋に入って来た俺に気づくなりブンブンと手を振ってきた。


「あっ! ジェイドさん! お見舞いに来てくれたんですか!」

「ああ。元気そうで良かった」

「力強く刺されましたけど、鎧のお陰で刺し傷は驚くほど浅かったので! いつも寝泊まりしている部屋よりも広いですし、一人分のベッドで眠れたのでいつもより元気なぐらいです!」

「ということは、もうすぐにでも退院できるのか?」

「はい! 本当なら入院すらいらない傷でしたが、セルジさんが一日だけでも入院しておけって!」

「そうだったのか。容体が悪化することもなかったみたいだし、これでもう安心だな」

「明日からバリバリ働くつもりですよ!」


 両手で力こぶを作り、元気いっぱいというアピールを俺に見せてきた。

 心配させまいという強がりでもなさそうだし、アルフィに関しては本当に大丈夫だろう。


「それより……ヴィクトルはどうなったんですか? セルジさんに聞いても心配しなくていいとだけ言われて、結局何にも教えてくれなかったんです!」

「ヴィクトルはちゃんと捕まえた。それとアルフィが刺された分は……俺がキッチリ“仕返し”したぞ」

「――ッ!? 今、何故か背筋がゾッとしました!! ヴィクトルは生きてますよね?」

「流石に生きている。……多分な」

「多分って怖いですよ! どれだけ痛めつけたんですか! でも、僕のためにありがとうございます! やっぱりジェイドさんは強かったんですね!」

「全部たまたまだ。それより、俺もアルフィから兵士長の方のことを聞きたかったんだが……ヴィクトルのことを知らなかったってことは教えてもらってないよな?」

「そうですね! セルジさんは何にも教えてくれませんでしたので分からないです! ただ朝に来るって言ってましたから、そろそろ来ると思いますよ!」


 そういうことならばセルジから聞けばいいな。

 成否に限らず、兵士長は協力してくれると言ってくれたし、正直どっちでもいいのだが……成功してくれていた方がアルフィもセルジの評価も上がるだろうし、成功してくれていることを祈ろう。


 そんなことを考えつつ、アルフィと雑談しながらセルジが来るのを待っていると、三十分ぐらいが経過したタイミングでセルジが病室にやってきた。

 アルフィが元気な様子を見て、ホッと胸を撫で下ろしたのが俺からの視点では分かり少しほっこりする。


「あっ、セルジさんも来ましたね! ジャイドさんと待っていたんですよ!」

「待たせて悪かったな。とりあえずアルフィが元気そうで良かったわ」

「激しく動かさなければ何の痛みもないぐらいです! それと、ヴィクトルのことはジェイドさんから聞きました! ちゃんと捕まえたんですよね?」

「あの後は俺が責任を持って、牢屋まで連れていったからな。今頃色々と情報を吐かされていると思うぜ」

「それを聞いて安心しました! 僕のせいで危うく逃がすところでしたから!」

「アルフィのせいっていうよりも、ヴィクトルの技がかなり特殊だったろ。まさか助けたはずの兵士が襲ってくるなんて思いもしなかったし、近くにいたのが俺だったら俺が刺されていたわ」


 すかさずアルフィをフォローしたセルジ。

 俺も想定できなかった動きだし、二人が対応できなかったのもしょうがない。


 戦闘では俺にも使ってきたみたいだが不発だったし、あの能力については詳しく知りたいところ。

 ヴィクトルが能力について話していたのであれば、セルジから後で教えてもらおうか。


「ヴィクトルが人を操る能力を持っているなんて、誰も知りませんでしたもんね! ずっと隠していたんですかね?」

「そうだろうぜ。ヴィクトルは裏切った訳じゃなくて、元々裏の組織の一員だったってことだわ。だから、能力も俺達に隠して兵士として動いていた」

「スパイとして潜入していたってことか。ヴィクトルに上手いこと利用されていたんだな」

「もっと早くに気づくことができなかったのは完全に俺達のせいだわ。つっても、南側エリアに気を割かなきゃいけなくて、味方側なんて見向きもできない状況だったから仕方ねぇんだけど」


 その辺りも考えて、ヴィクトルをスパイとして送っていたのだろう。

 『バリオアンスロ』は獣人の組織だし、人間って時点でまず疑われないからな。


「その話もいいんですけど、兵士長達の方がどうなったのか聞かせてくださいよ! 僕もジェイドさんもずっと気になっていたんです!」

「確かにそうだな。俺も気になっているし、まずその報告を聞かせてくれ」


 話の流れを止め、切り出してくれたアルフィに俺も乗っかった。

 流石にもう結果は出ているだろうし、セルジから報告を聞かせてくれるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る