第268話 成否


「もう結果から先に話しちまうが、作戦は失敗した」

「えぇ!? 作戦は失敗しちゃったんですか!?」


 病室に入ってきた時のセルジの表情からして、成功したものだと勝手に思っていた。

 懸念点はあったものの、まさか失敗していたとはな。


「細かく言うのであれば、半分失敗で半分成功って感じか? 地下通路と違法薬物を貯め込んでいた倉庫はしっかり制圧できたらしい。ただ、北側エリアを押さえにいった兵士は【バリオアンスロ】の構成員に返り討ち。地下通路から向かった兵士長たちが何とか踏ん張って、ギリギリ痛み分けには持っていけたって言っていたぞ」

「完全に不意打ちができたのに痛み分けの結果だったのか。獣人の身体能力は高いし、武力で抑え込むのは難しいとは思っていたが、流石に失敗という結果は予想外だった」

「ジェイドには悪いな。せっかく有力な情報を貰ったのにこんな結果になっちまって」

「俺は別に構わない。クロとブレナン・ジトーの情報が欲しいから協力しただけで、俺自身は作戦の成否に関してはどっちでも良かったからな」


 申し訳なさそうに頭を下げてきたセルジにそう伝える。

 口ぶりからして兵士長も無事なようだし、約束通り協力を仰ぐこともできるだろうからな。


「こんなことなら、僕達も行きたかったですね! せっかく情報を手に入れたのに失敗されるなんて……何だかモヤッとしますよ!」

「いや、行ったところで俺とアルフィは大した役に立たなかっただろ。ヴィクトル一人を捕まえるって任務ですら、こうして腹を刺されて入院している訳だしな」

「俺もセルジと同じ意見だ。獣人はアルフィが思っている以上に強いし、腹を刺してきたのが獣人だったとしたら、本気で死んでいてもおかしくなかったと思う」

「……きゅ、急に背筋がゾッとしました! 遠くからしか見たことないんですけど、そんなに強いんですね!」

「それに向こうは失敗して、こっちはしっかりと成功させているから、二人の評価はグンと上がるんじゃないか? 生け捕りにした訳だし、スパイだったとしたら貴重な情報も持っていると思う」


 アルフィを励ますつもりでそう付け加えた。

 ヴィクトルは心を芯からへし折ってやったし、いくら口が堅くとも簡単に割るはず。

 そうなれば、アルフィとセルジの評価は上がるだろう。


「そうなってくれることを期待したいところだな。――と、俺からの報告はこんなもんだ。アルフィはもう一度検査を受けてから、退院できるならしてくれや」

「元気もりもりですい大丈夫だとは思うんですけど、もう一度検査を受けてきます! セルジさんとジェイドさんも残ってくださいよ! 暇なんで話相手になってください!」

「俺は暇だし構わない」

「いや、俺もジェイドも兵士長から呼ばれてるんだわ。アルフィは一人で検査まで待て。気兼ねなくベッドで寝られるなんて滅多にないんだから、暇なら寝てりゃいい」

「えぇー! 二人して行っちゃうんですか! 元気なので寝られないですし暇ですよ!!」

「文句を言うな。色々とごちゃついてて大変なんだよ。それじゃもう行くぞ」

「もう三十分だけ話しましょうよ!」


 他の患者に白い目で見られているアルフィを置き、俺はセルジに連れられて病室を後にした。

 俺にも用事があるということだし、詳しい話を聞かせてもらえるのかもしれない。


「関係ないのについてきてもらって悪い。ヴィクトルについて聞きたいことがあるって兵士長が言っていてな。今は牢屋に入っているんだが、その牢屋まで来てくれって話だ」

「ヴィクトルが入れられている牢屋か。情報を吐き出させるのに俺を使いたいってことだろうか」

「多分、その意図が強いと思うぜ。顔の形が変わるまでボッコボコにしたこともあって、ヴィクトルは誰よりもジェイドのことを恐れているようだからな。詰所から牢屋まで連れていくのも本当に楽だったし、殴ること以外もやったのか?」

「いや、殴っただけだ。多少は口で脅しもしたが」

「付き合うが深くなるにつれて、ジェイドという人間が見えなくなってくるぜ。強さも尋常じゃないことも確信できたしな」


 仕方がなかったとはいえ、セルジとアルフィの前で本気を出してしまった。

 セルジはそのことについて言及してくると思ったが、ここでは深くは尋ねないようにしてくれている。


「隠しても意味がないから言うが俺は強い。ただ強いことを触れ回りたくない人だというのは理解してくれ」

「俺には理解できない感覚だな。絶対に自慢しまくってると思う」

「目立ちたくないってのが一番大きい。街を歩く度に顔をさされる日々は大変だと思うぞ。一挙手一投足に気をつけなくてはいけなくなるしな」

「そんなことを考えたこともなかったわ。まぁ何にせよ、俺がジェイドのことを口外することはない。アルフィの命の恩人でもあるしヴィクトルも捕まえてくれたからな。何か困ったことがあったら言ってくれ。俺にできることなら何でもする」

「ああ。困ったら遠慮なく助けてもらう」


 真っすぐな目で恰好良い台詞を言ってきたセルジ。

 お言葉に甘え、何か困ったときは二人には助けてもらおう。

 そんな会話をしつつ、俺達は囚人を収容する牢屋がある西側エリアに向かったのだった。


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