第43話 配達量
閉店の時間となり、店を閉めてからレスリーの帰りを待っていると、約三十分後にようやく二人が帰ってきた。
どうやら二人共ヘトヘトの様子で、ニアに至っては今にも死にそうな顔をしている。
「やっと戻ってきたか。締め作業も完璧に終わっているぞ」
「ぶはー、本気で疲れたぜ! 悪いな、二人に最後まで任せちまってよ!」
「別に構わない。これも業務の一つだからな。それより配達の方は上手く教えられたのか?」
「ニアは元々郵便屋で働いていたから、特に指導することもなかったぐらいだ! ただ……」
「ただ?」
「配達の量が多すぎる!! 二人で手分けして効率良く配達したのに、一向に終わる気配がなかったわ! 実際にまだ残っているしよ!」
「もう一歩も動けないっす。せめて配達を請け負う地区を限定してくれないと無理っす」
どうやら配達が終わらなかったようで、レスリーは怒鳴るように訴えかけ、ニアは若干白目を向きながらそう嘆いた。
確かに最近は配達の量が増えていたからな。
俺でも夕方前にようやく終わるって感じだったし、二人で手分けしたとしても終わらなかったのは仕方がない。
「この仕事量をジェイド一人に行わせていた俺をぶん殴りたくなった! 本っ当にすまなかった!」
訴えかけてきたと思いきや、急に頭を地面にぶつける勢いで土下座を始めたレスリー。
俺は慌てて土下座をやめさせ、何も問題ないことを伝える。
「元々俺がやり出すといった仕事だ。それに俺は余裕を持って終わらせているだろ?」
「だとしてもだ! 流石に一人で任せる量じゃなくなってるのを、俺の身を以て実感した! とりあえず配達に関しては今の状態を限度として、ニアと二人で担当してもらうぞ!」
「本当に気にしなくても大丈夫なんだがな。そんな労わるならもう少し配達の手数料を増やしてくれれば、ニアみたいに新しい人材を雇えるんじゃないか?」
「いいや、決定を変えるつもりはない! とりあえず今の店の規模で、この配達の量はやりすぎていた! ジェイドがいなくなったら店が回らなく状態がまずいからな!」
まぁ、それは俺もずっと危惧していたこと。
だから一刻も早く稼いでもらって、店のアレコレに金をつぎ込んでもらおうと思っていたんだけどな。
ただ『シャ・ノワール』はレスリーが店主だし、決定事項ということならもう異論を唱えるつもりはない。
「分かった。とりあえず配達の量に関してはレスリーに従う」
「ああ、これは決まりごとだ! ニアに関しては今日教えることを全て教えたから、明日からは二人で配達を請け負ってくれ!」
「ジェイドさん、よろしくお願いするっす!」
「こちらこそ、よろしく頼む」
へとへとなニアと握手を交わし、一緒に行動することはほとんどないだろうが同じ業務を行う仲間として、改めて挨拶を行った。
「さて、ここからニアの親睦会と行きたかったところだが――流石に疲れすぎた! ニアもそれどころじゃないだろうしな! 親睦会は明日にして、今日は帰っていいぞ!」
「やったー! やっと帰れるっす! それじゃ明日からもよろしくっす」
レスリーの言葉を受けて、飛び出すように店から出て行ったニア。
そんなニアを見送りつつ、俺とヴェラは店に残り……俺から言い出せと言わんばかりにヴェラが俺の腹を肘でつついてくる。
「……どうした? 二人は帰らないのか?」
「レスリー、疲れているところ悪いが話がある」
「おいおい、なんだよ! ジェイドだけじゃなく、ヴェラもか?」
「うん。話がある」
「ちょっと待て! 辞めるとかって話じゃねぇだろうな! 流石に今すぐは――いや、今日二人で一緒に店番してたから……ま、まさか意気投合してお、お付き合いするとかじゃねぇだろうな!!」
俺とヴェラが変な空気を出していたからか、何やら誤解して訳の分からないことを言いだした。
こうなってくると言い淀んでいたら変な方向に進むため、俺は真正面から用件を伝えることにした。
「違う。実は店番しながら、俺とヴェラでアイテムの開発を行っていた。それを見てもらいたいと思って今声掛けたんだよ」
「なんだよ! だったら二人してよそよそしい感じを出さず、すぐに言えば良かったのに! てっきり二人が付き合いだすのかと思っちまったわ!」
「疲れている様子だったから言い出しづらかっただけだ。それよりも見てもらってもいいか?」
「ああ、構わねぇよ! 良い出来だったら、すぐに制作して売りに出してやるからよ!」
「いや、試作段階のものだがもう物はできている。ヴェラ、倉庫から取ってきてくれ」
「分かった」
倉庫に置いておいた俺流簡易火炎瓶を、ヴェラに取ってくるよう指示を出す。
なんというか……言い表せない緊張感を感じている。
レスリーが自分の案をどう判断するのか、きっぱりと否定されたら少しはショックだからな。
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