第4章

第115話 分配


 フィンブルドラゴンの素材を持って、エイルと共に北の山を下山。

 途中で休憩を挟みつつも、なんとか朝までにヨークウィッチに戻ってくることができた。


「やっと着いたぜ! ジェイドが急かすから本気で疲れたわ!」

「俺はこれから仕事なんだ。別にエイルは一人でゆっくり帰ってくれば良かっただろ」

「んな、冷てぇこと言うなよ! 一緒にフィンブルドラゴンを倒した仲だろ?」


 笑顔で俺の肩をガッと組み、非常に馴れ馴れしく接してきた。

 洞窟でのいざこざまでとは大違いで、帰路でも常に笑顔で話しかけてきていたからな。

 一緒に戦ったから仲間と認定されたのか、嬉しいような鬱陶しいような微妙な感覚。


「それより、一緒に冒険者ギルドまで来てもらうぞ。マイケルがいるか分からないが、連れて帰ってきたことの報告をしないといけない」

「えっ!? そのまま家に帰っちゃじゃ駄目なのかよ! マイケルは絶対にいないぞ!」

「なんで絶対にいないと言い切れるんだ? もう日が昇り始めているし、出勤していてもおかしくはないだろ」

「あいつは嫁と子供を大事にしているからな! この時間に出勤しているってのはありえねぇ!」


 マイケルって家族がいたのか。

 なぜか分からないが、てっきりいないものだとばかり思っていた。

 だとすると、この時間に出勤していなくともおかしくはない。

 

「どちらにせよフィンブルドラゴンの素材があるし、ギルドまではついてきてもらう」

「どっちにしろ行かないといけねぇのか。……でも、爪と角はめちゃくちゃいいよな! どっちかは俺が貰うぞ!」

「角は俺が貰いたい。爪はエイルにやる」

「いよっし! 良い武器が作れそうだぜ!」


 フィンブルドラゴンの爪で良い武器が作れると踏んでいるのか、ウキウキになり始めたエイル。

 大剣はかなり逸品であろうし、別に新たな武器なんていらないと思うんだけどな。


 そんな感想を抱きながら、冒険者ギルドへと到着。

 朝早くで人がいないため、正面から冒険者ギルドの中へと入った。


「やっぱ職員が数人だけって感じで、マイケルはいねぇな!」

「この時間でも職員が残っているのは凄いな。冒険者ギルドではどれくらいの職員がいるんだ?」

「知らね。あんま興味ねぇから」


 ギルド長とは思えない発言を残してながら、素材買い取り受付の奥にある解体場へと直行した。

 運んできた大量のフィンブルドラゴンの素材を置いて眺めたことで、かなりの達成感を感じられる。


「白い龍って印象だったけど、こうしてみると真っ黒だな!」

「纏っていた雪が氷が白かっただけで、フィンブルドラゴン自体は黒だったぞ。……ただ、こうしてみると確かに真っ黒だ」


 漆黒と言えるぐらいの黒で、戦っていた時の印象との差は大きい。

 龍鱗は光に当たったことで黒光りし、何とも言えないかっこよさがある。


「それでジェイドはどれが欲しいんだ? 斬り飛ばしたのはジェイドだし、好きな部位は持っていっていいぞ! 半分は俺がもらうけどな!」

「俺は翼膜と角が欲しい」

「翼膜? 龍鱗はいらねぇのか?」

「使いどころが分からないからな。鎧にしたら丈夫なのが作れるのだろうが、その分重くなるのは目に見えている。それよりも、寒さへの耐性が持てそうな翼膜の方が俺は良い。加工もしやすそうだしな」

「……なんか説明を聞くと一気に俺も欲しくなってきた!」

「全部は持っていくつもりはないから、残りはエイルが使えばいい」


 翼膜だけでも八メートルほどはあるため、全部持っていくと逆に荷物となる。

 上下作れるように半分だけ切りとり、フィンブルドラゴンが自ら切り落とした角の二種類の素材を頂いた。


 何と言っても、フィンブルドラゴンの中で一番良い素材はこの青く長い角だろう。

 無理やり斬り落とした訳でもないため、状態も非常に良い。


 フィンブルドラゴンの戦闘を見た限りでは、魔力の伝導率が異常に高そうだし恐らく杖として加工するのがベスト。

 まぁ俺は違う使い道を見出しているのだが、それはまた追々ってところだな。


「これで素材の分配は完了だな! 今回は本当に助かったぜ! 改めて礼はさせてもらうから期待しておいてくれ!」

「マイケルと個人的に約束を交わしているから、礼は特にいらない。フィンブルドラゴンの素材も手に入ったしな」

「それじゃ俺の腹の虫が収まらねぇ! 良い飯屋を準備してやるから、期待して待っていてくれ!」


 礼はいらないとは言ったものの、飯となれば話は変わってくる。

 ギルド長であるエイルのおすすめの飯屋は是非とも知りたいしな。


「……飯屋ならご馳走になろうか」

「へへへ、期待して待っていていいぜ! それじゃまた一緒に冒険に行こうぜ! ジェイドとならダンジョンでも面白れぇかもな!」

「いや、エイルの相手は疲れるから御免だ。次はマイケルと行ってくれ」

「マイケルなんかと行く訳ねぇだろ! 絶対に連れていくから覚悟しておけ!」

「考えておく。それじゃあな」


 若干怖い笑みを浮かべているエイルに別れを告げ、俺は冒険者ギルドを後にした。

 最初の時とは大違いなほど、笑顔を浮かべるようになったエイル。


 気に入られたのは良いのかもしれないけど、一緒に冒険は勘弁したいところ。

 全身に気怠さと強烈な眠さを感じているため、この後すぐに出勤をしなくてはいけないことに憂鬱となる。

 シャワーだけ浴び、なんとか意識を回復させてから『シャ・ノワール』に向かうとするか。


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