第114話 力と力


 俺が斬り落とした翼の代わりに、魔法で作ったであろう氷の翼を生やし目を血走らせている。

 氷の翼は恐らく体のバランスを保つためのもので、飛行能力は戻っていないまま。


 一番厄介な飛行能力を奪えたため、後はフィンブルドラゴンをゆっくりと弱らせていく。

 先ほどの【烈閃迅雷】の感触を考えれば、正面突破でいけそうな感じもしてしまうのだが、あくまで意識外からの不意を突いた一撃だった。

 

 傷の部分に刃を当てられず、硬い龍鱗にぶち当てていたら攻撃した俺が大怪我を負っていた可能性だってあったからな。

 慢心はせずに、エイルに前で戦ってもらいながら俺はチクチクとダメージを負わせていくことだけを考える。


「それじゃ行くぜ! ジェイド、俺の動きをしっかりと見ていてくれ!」

「ああ。頼んだ」


 楽しそうに腕をブンブンと振りまわしながら、大剣を構えたエイルは地面を蹴り上げてフィンブルドラゴンに突っ込んで行った。

 先ほどよりも動きが速く、全力を出さずにいたのかと思ったが……どうやら違う。

 

 エイルは誰かといる時の方が、力を発揮するタイプなのかもしれない。

 昔暗殺を行った人物の中で、エイルと全く同じタイプで非常に厄介だった男をふと思い出した。


 一撃の重さも上がっており、さっきまでは爪での切り裂き攻撃に吹っ飛ばされていたのに、今ではほぼ互角で渡り合っている。

 十メートル近いドラゴンと力で互角な時点で、エイルが化け物だというのが分かるな。


 つい先程殺されかけてはいたが、マイケルが絶対に死なないと言っていた理由がよく分かる。

 そこからは両者一歩も譲ることなく、互いに腕をぶん回しまくっていた。


 エイルの高いボルテージに呼応するように、フィンブルドラゴンの動きも加速し始め、俺が手出しできない状況になっている。

 見ている分には非常に面白いが、自分がエイルの立場になって戦うのは御免だな。


 こうして後衛で大人しくしながら、魔法でチクチクとダメージを与えるのが性に合っている。

 フィンブルドラゴンがエイルとの打ち合いに夢中になっているところに、俺は火属性魔法をぶつけていく。


 使っている魔法は中級魔法の【バーンイグニート】。

 踏ん張りが効かなくなるよう、右の後枝を重点的に狙ってダメージを稼いでいった。


「おらオラ!! 段々と力が弱くなってきてるんじゃねぇか!?」


 俺の放つ火属性魔法でエイルの体も徐々に暖まり始めたのか、髪の毛を逆立たせて更に調子が上がっている。

 とうとう打ち合いで勝り、フィンブルドラゴンをよろめかせることに成功。


 このままぶった斬って終わるかとも思ったが、流石にそこまで甘くはない。

 フィンブルドラゴンは一度咆哮を上げた後、額についた角から魔法を飛ばしつつ一気に後退を始めた。


 近距離戦で押されるや否や、遠距離戦を仕掛けにきたのだ。

 エイルは動きから見ても近距離専門で、俺も遠距離攻撃が得意という訳ではない。


 魔法でなんとか防ぎつつ耐え――いや、スイッチして俺が前衛に回るか。

 エイルに全てを任せたかったが、遠距離戦を仕掛けてくるのであれば話は別。


 近距離戦でフィンブルドラゴンを圧倒でき、俺も後枝を重点的に攻めることができた。

 動きは確実に鈍くなっているため、ここからは俺が一気に片付ける。

 

「あー、くっそ! 距離取ってきやがった!」

「ここからは俺が戦う。何か武器になるものを持っていないか? 短剣が壊れてしまった」

「ジェイドが前で戦うのか? 武器っつったって、俺だってこの大剣しか持ってねぇよ!」

「……なら、その大剣を少しだけ借りる」


 エイルから大剣を奪うように受け取り、軽く手に馴染ませる。

 馬鹿みたいに重い大剣で非常に俺とは相性の悪い。

 ただ質は申し分ないし、及第点だろう。

 

「おいっ、俺の剣を返せ!」

「フィンブルドラゴンを斬ってすぐに返す。エイルはここで待っていろ」


 そう告げてから、俺は【烈閃迅雷】のスキルを発動。

 距離を取ったフィンブルドラゴンに一気に詰め寄る。


 普通の魔物であれば目で追うことすら不可能な超速なのだが、距離もあるということもあってフィンブルドラゴンは俺を目で追えている。

 【烈閃迅雷】の弱点は、小回りが一切効かないこと。


 その弱点を知ってかは分からないが、大きく息を吸い込むと俺の動きに合わせてブレスを吐いてきた。

 迫り来る全てを凍てつかせるような氷結ブレスに対し――俺は【フレイムボール】の魔法を自分自身に放って包み込むようにした。


 全身が焼けるように熱いが、全身の皮膚が焼けて爛れる前にフィンブルドラゴンの氷結ブレスが直撃。

 熱さの次は体が震えるほどの寒さが襲ってきたが、【フレイムボール】のお陰でなんとか耐えられる。


 借りている剣のため俺の体で守りつつ、氷結ブレスを掻い潜ることができた。

 正面から突破してくるとは思っていなかったようで、驚いたように目を大きく見開いたフィンブルドラゴンだったが、すぐに近づいてくる俺に対して左腕を上げて爪での攻撃を仕掛けに動いた。


 これだけ近くまで寄り、更に俺に向かって攻撃されるとド迫力。

 正直弾き返せる気がしないが、俺はエイルがやっていたような力比べをする気がない。


 振り下ろされる爪を回避しつつ、エイルが傷つけた箇所に大剣の刃を入れ、フィンブルドラゴンの力を利用して――斬る。

 指一本だけだが、スパンッと綺麗に斬り落とすことに成功。


 大剣が重くタイミングが若干ズレたが、剣の切れ味だけで斬り裂くことができた。

 あとは逃がさないように纏わりついて、傷をドンドンとつけていく。


 指を落とした左腕から重点的に攻め、指を更に二本落とした後に腕ごと斬り裂いた。

 鮮血が積もった雪に飛び散り、弱々しいフィンブルドラゴンの鳴き声が北の山にこだまする。


 右の後ろ足は焼け爛れ、左腕は斬り落とした。

 後退してもすぐに懐に潜り込んで胴を斬りつけてくる俺に対し、もう勝てないと悟ったのか……最初の圧倒的な威圧感は何処へやら、頭を垂れるようにして地面に体を突っ伏したフィンブルドラゴン。


 その表情は困り顔のようにも見え、なんだかトドメを刺すのが惜しくなってくる。

 ドラゴンと言えど魔物。

 生き残らせる意味は特にないのだが、賢い立ち回りをしていたことから頭はいいはず。

 

「その角をくれたらトドメを刺さずに見逃そう。襲ったのは俺達の方だしな」


 頭を垂れたフィンブルドラゴンにそう告げると、額についた角を自分で切り落とした。

 言葉が通じないものと思っていたし、なんとく声を掛けたのだが通じるのか。

 何百年と生きていそうだし、やはり相当知能は高いようだな。


「この角と左腕。それから右翼は貰っていくぞ」

「…………ガルるるるぅ」


 弱々しく同意の鳴き声を上げたフィンブルドラゴンに背を向け、俺はエイルの下へと戻る。

 殺さずに戻ってきたことで、エイルは困惑した表情を浮かべていた。


「え? なんでフィンブルドラゴンを仕留めずに戻ってきた!?」

「トドメまでは刺す必要はないと思ったからだ。害となっている訳じゃないし、降参の意を示している」

「だとしても、相手は腐ってもドラゴンだぞ! 殺さなきゃ意味がないだろ!」

「敵意のなくなった相手まで殺す必要はない。腕と右翼と角を持って山を下りるぞ」

「……わーったよ! 助けられた身だし、これ以上の我儘は言わねぇ!」

「そうしてくれると助かる。さっさと回収を始めよう」


 今回はエイルの物分かりも良く、仕留めないということで納得してくれた。

 顎を地面につけたまま、困りった表情のフィンブルドラゴンに見守られながら、俺とエイルは斬り落とした部位の回収を行った。


「それじゃ俺達は山に下りる。怪我は治るのか?」

「がるるるる」

「治るなら良かった。少し下りた先にサイクロプスの死体がある。食べる物に困っているならそれを食ってくれ。俺が殺した魔物だが、無駄にならないならそれがいい」


 首を縦に振ったフィンブルドラゴンにそう告げてから、俺達はフィンブルドラゴン素材を手に下山を開始した。

 色々とあって非常に大変だったが色々な魔物と戦え、最後はドラゴンと戦うこともできたし悪くなかった経験と言える。


 苦手だったギルド長のエイルを、少しは理解することもできたしな。

 今回は半ば不本意で北の山に来たが、休日を使って強敵のいる魔物が住む場所に向かうのは良いかもしれない。

 そう思えるぐらい、予想に反して良い休日を送ることができたのだった。



――――――――――――――――



ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました!

第114話 力と力 にて第3章が終わりました。


そして、皆様に作者からお願いです。

現時点でかまいませんので、少しでもおもしろい、続きが気になる!


――少しでもそう思って頂けましたら!

ブックマ-クと、画面下の評価欄から☆☆☆☆☆をいただけると嬉しいです!!

つまらないと思った方も、☆一つでいいので評価頂けると作者としては参考になりますので、是非ご協力お願いいたします!


4章以降も、頑張って執筆していこうというモチベ向上につながります!!

お手数お掛け致しますが、よろしくお願い致します<(_ _)>ペコ

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