第116話 気遣い
北の山に向かう前から既に寝不足の状態だったのにも関わらず、フィンブルドラゴンとの戦闘後から一睡もせずに『シャ・ノワール』へと出勤。
ドラゴンを倒した時は充実した良い休日だと思っていたが、今は睡魔のせいで後悔しか残っていない。
事情が事情なだけに、午後からの出勤を申し出ようとも考えたが、せっかくの休日にドラゴン討伐を行ったのは紛れもない俺自身。
本位でなかったとしても、レスリーには全く関係のないことだからな。
「おっ、ジェイド! 体は休めた――って、どうしたんだ? その目のクマは!」
「いや、ちょっとはしゃぎすぎて寝不足なだけだから気にしないでくれ」
「気にしないでくれって言われてもなぁ……。店主として流石に見過ごせねぇぞ!」
「本当に大丈夫だ。色々と寝不足の日々が重なっていただけで、それもそろそろ解消される」
そう。マイケルがフレイムセンチピートの素材の件をなんとかしてくれているのであれば、深夜に西の森に行かなくて済むようになるため睡眠時間の確保ができる。
もう少しの辛抱であるため、今日はかなりしんどいがなんとか耐えられる辛さ。
「とにかく倒れそうになったら言ってくれ! ここでジェイドに抜けられるのが一番まずいんだからな! 一日くらいなら全然休ませられるから、遠慮なく言えよ!」
「ああ、ありがとう。レスリーには絶対に迷惑をかけない」
心の底から心配してくれているレスリーにそう声をかけ、俺は肩をグルグルと回してから配達へと向かうことにした。
ちなみにニアも目のクマが凄い俺に気遣い、配達の量を少し肩代わりしてくれた。
本当に良い人達に囲まれていると実感でき、寝不足の辛さより嬉しさが勝ったお陰か、何ならいつもよりも早く配達を済ますことができた。
ニアが配達を肩代わりしてくれ、みんなから気遣われたお陰で配達を早く済ますことができた俺は、空いた時間を使って『シャ・ノワール』に戻る前に冒険者ギルドへと向かうことにした。
本当は閉店してから向かうつもりだったが、マイケルとの話し合いは少しでも早い方が良い。
先ほどとは違って冒険者の数も増えてきたため、応接室から入ることにした。
音を立てないように気をつけながら窓をよじ登り、もう手慣れた感じで冒険者ギルドに侵入。
マイケルが副ギルド長室にいることを確認してから、気づかれないように音を立てず冒険者ギルドへと向かう。
ドアをノックしてから、俺は副ギルド長室に入った。
「やっぱり君だったか! ギルド長の件は本当に助かったよ!」
いつもの怠そうな感じとは違い、返事も待たずに部屋の中に入った俺を両手を広げて歓迎してきたマイケル。
どうやらエイルとはもう会ったようで、俺が北の山からエイルを連れ戻したことを既に知っている様子。
「ああ。話はエイルから聞いたのか?」
「もちろん聞かせ…………ん? エイル?」
笑顔で対応してくれていたのだが、エイルという単語を聞いた瞬間に眉間に皺を寄せた渋い表情に変わった。
マイケルの前では俺とエイルは常に言い争っていたし、名前呼びになっているのが引っかかったのだろう。
「戦闘中にギルド長から名前で呼べと言われてこうなった。やっぱり違和感があるか?」
「いや、違和感はもちろんあるが……ギルド長が名前で……。まぁギルド長からの指示なら構わないのだろうね」
「それで、エイルから話は聞いたのか?」
「ああ。かなり端折った説明だったけれど、ことの経緯は全て聞かせてもらったよ。フィンブルドラゴンの討伐まで付き合わせてしまったみたいで、本当に申し訳なく思っている」
ギルド長に代わり、マイケルが深々と謝罪をしてきた。
酷く疲れたもののこっちも収穫はあった訳だし、別に謝罪はいらないんだけどな。
「謝らなくていい。ドラゴンと戦えるなんて俺も良い経験をさせてもらった。それよりフィンブルドラゴンはどういった立ち位置なんだ? マイケルから北の山の情報を聞かされた際、フィンブルドラゴンについては何の情報も教えてもらっていない」
「出会ったら終わりの魔物と言われているよ。この時期は北の山にはいないとの情報があって教えなかったのだが、まさか出くわすとは思っていなかった。情報不備で本当にすまない」
またしても深々と頭を下げて謝罪をしてきた。
確かに急に戻ってきた感じがあったし、マイケルの言っていることが嘘ではないことは分かる。
フィンブルドラゴンが何故戻ってきたのか、ゴブリンキングの時と同じように裏があるのではと勘繰ってしまうが……。
徹底的に調べない限り分からないだろうし、あまり考えすぎない方がいいだろう。
「そういうことなら仕方がないか。まぁエイルは最初からフィンブルドラゴンが狙いだったみたいだけどな」
「そうだったのかね!? だから二週間も籠もっていたって訳か……。とにかく連れ戻してきてくれて助かった。フィンブルドラゴンは難度で図るのも難しい魔物だからね。ギルド長といえど、一人で挑んでいたら命を落とす可能性もあった」
実際に落としかけていたのだが、わざわざ説明しないでいいだろう。
それにしてもやはりと言うべきか、フィンブルドラゴンは頭抜けた存在だったようだな。
他の生物と逸脱しているのが戦っていた時から分かった。
万全の状態ではない中、俺もよく倒すことができたと今更ながら思う。
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