第85話 二人の近況
門の前には既にトレバーとテイトの姿があり、何やら話し合っていた。
討伐依頼もこなし始めると言っていたし、二人の距離感は更に近くなった気がする。
「二人共、もう来ていたのか」
「あっ、ジェイドさん! おはようございます! 僕が一番乗りでした!」
「別にその情報いらないでしょ。――ジェイドさん、おはようございます。今日もご指導よろしくお願いします」
うーん……。
なんというか、テイトのトレバーへの物の言い方が雑になった気がする。
最初は先輩と呼んでいて、敬語も使っていたからな。
トレバーは動きもなんか変だし、自分の限界を超えると顔もおかしくなるが、犬っぽさも相まって俺は可愛いと思ってしまうのだが、一緒にパーティを組むとなったら別の感情が生まれるのだろう。
年齢は近いのに、若干トレバーの方が年上ってのも引っかかる点がありそうだ。
「とりあえずいつもの場所に向かうか」
「そうですね。ジェイドさんに成果を見せるのが楽しみです」
「僕も大分強くなったと思います! ずっと待ち望んでいたので、早く模擬戦がやりたいですね!」
毎回あれだけボコボコにされて心をへし折られかけても、ケロッとして自ら模擬戦を申し出るのは色々と凄い。
ただの馬鹿なのだろうけど、馬鹿と天才は紙一重とよく言われるからな。
今はまだまだだがこのメンタルならば、トレバーが化ける可能性は極僅かだがあると思う。
「それより、二人はこの一ヶ月間はどうだったんだ?」
「かなり良かったと思います。ゴブリンは余裕で狩れるようになりましたし、今は一角兎を狩っています」
「一角兎? その魔物って強いのか?」
「全然強くはありませんが非常に好戦的で、額についた角での攻撃はかなり危険です。真っすぐにしか進めないのですが、動きはかなり速くて命を落とすルーキー冒険者も多いんですよ」
テイトの説明のお陰で、一角兎についての魔物像が完璧にイメージできた。
ゴブリンよりは危険だけど、真っすぐにしか進めないという明確な弱点がある以上、討伐難度はかなり低く設定されていそうだ。
「イメージはできたけど、聞いたこともなかった魔物だな。ゴブリンよりも報酬が高いのか?」
「全然高いですよ! ゴブリンは討伐の依頼報酬だけですけど、一角兎は肉も角も売れますので!」
「部位が売れるというのは確かにいいな。どれくらいの値段で売れるんだ?」
「売れるといっても全然安いです。淡泊で癖も強いので、角も含めて一匹につき銅貨二枚って感じですね」
一匹で銅貨二枚っていうのは、正直かなりしんどい。
食肉として売るならば、血抜きとかもしないといけないことを考えると……効率が良いのか曖昧なところ。
ギルドまで持っていくのも一苦労だろうしな。
「もっと高いのかと思ってたが、なんか微妙な感じだな」
「そんなことないですよ! 薬草を採取していた時の僕たちの稼ぎは、一日で銀貨一枚でしたからね! そう考えると、銅貨二枚でも本当にありがたいんです!」
熱の籠もった口調でそう言い切ったトレバー。
まぁ、二人のこれまでの報酬額を考えると銅貨二枚でも大きいのか。
トレバーから指導料として、月に銀貨二枚も取っているのが申し訳なくなってきたが、これは元々の約束だったからな。
今回の指導終わりに良い武器を買うことで罪悪感を消し去るとして、まずは二人の成長から見てみたい。
いつもの平原へと移動してきた俺達は、いつものようにトレバーとテイトと模擬戦を行った。
ゴブリンの討伐依頼をこなしながらも、しっかりと鍛錬の方も続けていたみたいで動きは良くなっている。
連携も磨きがかかってきているし、もうブロンズランクの依頼でもこなせそうな気がしてきた。
とにかくテイトの動きが完璧で、この調子なら良いランクまで上がる感じがする。
「二人共、かなり良くなっているぞ」
「ぜぇーはぁー……。ほ、本当ですかね? 僕の手ごたえ的には、一ヶ月前と何も変わらないんですけど!」
「わ、私もです。二人掛かりでも、結局一撃も浴びせることができませんでしたし、成長しているのかどうかが分かりませんでした」
「大丈夫だ。二人ともしっかりと成長している。俺に攻撃を当てられたら……最低でもプラチナランクはあると思うぞ。だから、あまり気にしないでいい」
その発言に二人共驚いていたが、本音を言うならばミスリルランクの冒険者の攻撃も躱せる自信がある。
それだけの修羅場を潜ってきた自負があるし、そう簡単に二人の攻撃を受けるつもりはない。
「ジェイドさんってそんなに強いんですか? 確かに冒険者ギルドでは、三人の冒険者を瞬殺していましたけど……」
「そんな人に教わることができているって、私は本当に運がいいんですね。ありがとうございます」
「礼なら強くなることで返してくれ。それじゃ実力も見れたし、そろそろ指導を始めよう。俺が先月言っていたことを覚えているか?」
俺が二人に尋ねると、必死に首を捻って考え始めた。
それからテイトが思い出したのか、片手を上にあげてから答えた。
「強い魔物と戦う――でしたよね?」
「あっ、そうだった! ……でも、強い魔物と戦うってどうするんですか?」
「西の森に向かう」
俺がそう告げると、二人して体をビクンと跳ねらせた。
二週間は経過したと言えど、西の森でのゴブリンキング騒動は二人もまだ記憶に新しいらしい。
「西の森ってゴブリンキングが出た森ですよね? 大丈夫なのでしょうか?」
「僕は魔人も出たって聞きましたよ! 討伐には失敗して、まだ森に潜伏しているって話も聞きました!」
トレバーの今の話だけで、色々な噂がぐちゃぐちゃに飛び交っているのが分かる。
「大丈夫だ。何の心配もいらない」
「ほ、本当ですか!? シルバーランク以下の冒険者は絶対に近づいちゃいけないって言われてますし、心配いらないってことはないと思うんですけど……」
「何かあれば俺が守ることを約束する。だから心配いらない」
「ジェイドさんがそこまで言ってくれるのであれば、西の森へ行きましょう。トレバーもいいよね?」
「……えっ、僕は――」
返事を聞く前にトレバーの腕を引っ張り、無理やり西の森の方角へと歩き出したテイト。
強くなりたいのは二人なんだし、無理やりっていうのは気が引けるが……。
ゴブリンキングや魔人の心配がいらないことを俺が一番知っている。
テイトはやる気のようなら、このまま進めても問題ないだろう。
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