第86話 魔物の巣
いつもの平原から移動を開始し、ギルド長との模擬戦以来の西の森にやってきた。
ゴブリンの死体は既に大分片付いているが、まだ所々残っている。
そんなゴブリンの死体を見て、トレバーは小さくを悲鳴を上げた。
「や、やっぱりゴブリンキングがいるんですよ! こんなに腐敗したゴブリンの死体があるのはおかしいです!」
「ゴブリンキングはいない。もう少し森の奥へ行こう」
「絶対ですか? 絶対にゴブリンキングはいないんですね!?」
「ああ。絶対にいない」
「なんで絶対なんて言い切れるんですか! この世に絶対なんて――」
「ゴブリンキングを倒したのは俺だからな。しっかりと首を刎ね飛ばしたから絶対にいない」
喚くトレバーがうるさすぎたため、二人にその事実をようやく告げた。
更にうるさくなる可能性もあったため、言うのは控えていたのだが……目も口も、何なら鼻の穴も広げてトレバーは放心している。
一方のテイトはというと、両手で口を抑えながらキラキラとした瞳で俺を見ていた。
いきなり静まり返られると、それはそれで少し恥ずかしくなるのだがうるさいよりはマシ。
押し黙った二人を前を歩き、森の奥を目指して歩を進めた。
二人を引き連れて辿り着いたのは、魔人を追っていた際に横目で見つけた洞窟。
この洞窟は魔物の巣となっているらしく、中から複数の魔物の気配を感じる。
「着いたぞ。今日はこの洞窟の奥にいる魔物と戦ってもらう」
「ジェイドさん、この洞窟には何の魔物がいるんですか?」
「臭いや気配からオークだと思う。ゴブリンキングが現れた際に、森の奥からこの洞窟に逃げ込んだオーク達だと踏んでいる」
「……あのぉ、本当にゴブリンキングってジェイドさんが倒したんですか? 僕、まだ信じられないんですけど!」
「別に信じようが信じまいがどっちでもいい。それよりも、洞窟の中のオークに集中しろ。守るとは言ったが、油断したら死ぬぞ?」
フワフワとした様子だったが、死ぬという単語でようやく背筋を伸ばしたトレバー。
まずは俺一人で洞窟の中に入り、オークを一匹だけ残して他を殲滅するところから始める。
残った一匹を二人に狩らせたいのだが、オークが恐怖で動かなくなる可能性があるのが心配な点。
魔物だし、問答無用で襲ってくると思うのだが……駄目だったら次を考えればいいか。
「それじゃ、俺が中に入って一匹だけ誘き出してくる。洞窟から出てきた一匹を二人で倒せ」
「分かりました。いつでも戦闘を行えるように準備しておきます」
「あの有名なオークと戦うのか……。死なないように頑張ります!」
二人の返事を聞いてから、俺は気配を断ちつつ足音も立てないように注意し、暗い洞窟の中へと足を踏み入れた。
洞窟の中は酷い獣臭で満ち満ちており、思わず鼻をつまみたくなるような臭い。
これだけ臭いが強烈だと、嗅覚を頼りに位置を特定するのは不可能。
俺は夜目が効くため目を暗さに慣れさせつつ、聴覚を頼りにオークとの位置を推し量っていく。
オーク程度なら暗殺にこだわらずとも真正面から倒せる相手なのだが、残した一匹を委縮させないようにしなくてはいけない。
そのことを考えると、静かに殺していくのがベストだと考えた。
思っていたよりも洞窟は深く、中に入って二分くらい進んだところで、ようやく一匹のオークを視界に捉えた。
人型の猪のような姿をしており、手には木の槍が握られている。
俺には一切気づいておらず、尻もちをついた状態で洞窟の壁にもたれかかって大いびきをかいていた。
外におびき出すオークは手前のこいつでいいか。
ひとまず手前のオークは無視し、奥のオークを殺しに向かう。
二匹目、三匹目のオークは向かい合うように座っており、何やら話をしているようにも見える体勢。
二匹一緒にいるのはめんどうだが、声を上げさせる前に殺せば大丈夫。
頭の中で動きをイメージしてから――まずは右側のオークの後ろへと回り込み首を捻り上げて殺した。
急に首があらぬ方向に曲がった仲間の姿を見て、即座に叫ぶ動作を見せたが、頸椎をへし折って殺したオークが握っていた槍を取り、叫び声を上げさせる前に喉元に槍を突き立てる。
オークの声を物理的に止めてから、今度は心臓に槍を一突きして二匹目も仕留めた。
軽い物音は立ってしまったが、奥にいるオークも気づいた様子を見せておらず、手前のオークのいびきもまだ聞こえる。
この調子で手前の一匹以外のオークを全て殺すとしよう。
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