第84話 平穏な日常
何故か行われたギルド長との決闘から、二週間が経過した。
この二週間は特段目立ったことはなく……というよりも、ゴブリンキング騒動からの数日が激動過ぎただけで、平和な日常に戻ってくれて良かった。
ただ先日は珍しい客が訪れ、なんでもダンジョンが近くにある『コルペール』という街から遥々やってきたらしい。
それも『シャ・ノワール』の煙玉を求め、わざわざ買いに来たようだ。
話を聞けばこの客は、二週間前に購入していった行商人から購入した冒険者らしく、煙玉の性能と値段に気に入って大量に購入したいと言ってくれた。
店自体の狭さと品数の少なさに驚いていたはいたが、それ以上に煙玉の値段に驚きを見せていた。
行商人が売っていた額は多少色付けていただろうし、値段の違いはあるには決まっているのだが……。
その幅があまりにも大きかったのか、その冒険者は店にある煙玉を全て購入していった。
『シャ・ノワール』としては当然嬉しいことなのだが、俺とレスリーは再び地獄の日々が始まると顔を見合わせた。
そしてその時の予想通り、一昨日、昨日と煙玉を生成する日々を行っていた。
ちなみに火炎瓶の方もかなり多めに購入してくれ、煙玉ほどではないが需要は相当高いらしい。
この値段で『コルペール』に店を構えていたら、毎日買いに来るぐらいには値段が安いとの誉め言葉をもらった。
火炎瓶は煙玉に比べて重いし、運ぶとなるとかなりの荷物になってしまう。
値段は安いけど大量に購入するのは難しいと、確か行商人からも同じことを言われた。
どちらにせよ今の従業員の数では大量生産なんてできないし、今ぐらいの売れ行きで今のところはいいのかもしれない。
配達だけが取り柄だったところから、徐々に真っ当な道具屋としての評価も出てきているしな。
そんな激動の一ヶ月だった訳で、昨日貰った給料にも期待が高まる。
いつものごとく、トレバーとテイトの指導に向かう前に確認を行うとしよう。
貰った麻袋をひっくり返し、宿屋の床にばら撒く。
数える前から金色に光る硬貨が多いのが分かり、その時点で俺のテンションは上がっていった。
数えてみると、銅貨が七枚、銀貨が三枚、そして――金貨が十一枚。
煙玉が爆発的に売れたことで、大幅に給料が上がった前月よりも更に給料の上がり幅が大きかった。
色々なことがあったため休日に金はほぼ使っておらず、良い宿に越したため生活費が上がったものの、手元に金貨五枚と銀貨がちょろちょろと残っている状態。
そんな中で、金貨十一枚という大金が懐に入ってきた。
これで俺の手持ちは金貨十六枚に加えて、銀貨が五枚ほど。
ここから生活費が引かれるとはいえ、エルグランド帝国を出たばかりの時は、俺自身がここまでの大金を手にすることができるとは思っていなかったどころか、普通の生活を送ることすら厳しいとまで思っていた。
レスリーのためにと思って働いていたのに、俺自身もここまで幸せになっていいのか心配になるほど。
頑張った成果がこうして形として現れ、雇い主であるレスリーも喜んでくれているのであれば、これ以上の環境は今のところ考えられない。
床にばら撒いた金を拾い集めて麻袋へと戻し、麻袋をレスリーに見立てて感謝を行う。
これだけの給料を貰ったのなら、レスリーやヴェラやニア、それからスタナに何かプレゼントを贈るか。
それと予定通りトレバーとテイトには、指導後に『ダンテツ』に連れて行って武器を買ってあげよう。
大金と言っても今の生活費三ヶ月分であるため、絵に描いたような散財はできないのものの、貯金しているだけでは仕方がないし周りに還元していくつもりだ。
目指す人物像は、一文無しの俺を救ってくれたレスリーであり、優しさが俺に伝播したようにドンドンと広がったら嬉しい。
……まぁ、元暗殺者が何を言っているんだと思われるかもしれないけどな。
ハチに報告できることも増えているしこのまま平和に、そして色々なことをどんどんと体験していきたい。
上がった給料にウキウキとなり、そんなことを考えながら――俺は門で待っているであろうトレバーとテイトの下へと向かった。
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