第306話 ようやくの帰還
それから二日ほど俺はエアトックに滞在し、アルフィとセルジから良い取引先を紹介してもらった。
帝国の珍しいアイテムを取り扱っている商人なんかも紹介してくれ、非常に充実した二日間を過ごすことができた。
何より明るいアルフィとセルジと一緒に居られたことが大きく、ヨークウィッチに戻る前に一度気持ちを落ち着かせることができたと思う。
「うぅ……またお別れですか。ジェイドさん、行っちゃうのが早いですよ!」
「すまないな。俺ももう少し長く滞在したい気持ちがあるんだが、王国に待たせている人達に早く報告したいんだ」
「絶対に心配しているだろうし、早めに戻るに越したことはねぇな。それにまた近い内に来られるんだろ?」
「ああ。二人に紹介してもらった人達とのこともあるし、近い内に必ず来るつもりだ」
「絶対にまた来てくださいね! 僕とセルジさんは待っていますので!」
「ああ。待っていてくれたら嬉しい」
「俺達はいつでも歓迎するぜ。また来た時は飲み明かそう」
「必ずですよ? 絶対ですからね!?」
「ああ。絶対にまた来る」
俺との別れを惜しんでくれているセルジとアルフィに別れ告げ、俺はエアトックの街を後にした。
これで……ようやく、本当にようやくヨークウィッチに戻ることができる。
俺は逸る気持ちをそのままに、早足で王国を目指して歩を進めたのだった。
それから街や村を経由しながら国境へと向かい、行きと同じく他の人に紛れて国境を越えた。
ゼノビアからもらった帝国騎士の身分証はまだ持っているが、何かしらで迷惑がかかったら嫌だからな。
そして、そのままヨークウィッチに向かって一直線で進み――ようやく懐かしのヨークウィッチの街が見えてきた。
懐かしいって思うほど時間は経っていないのだが、心境的にはめちゃくちゃ懐かしく感じる。
俺は街に入る前に大きく深呼吸をしてから、久しぶりのヨークウィッチの街に入った。
見える景色全てに泣きそうになりながらも、涙は必死に堪えて無事に戻ってこられた喜びを噛み締める。
まず向かうのは――もちろん【シャ・ノワール】。
二号店も気になるし、魔道具の売れ行きなんかも気になる。
そして何より気になるのは、みんなが元気にしているかどうか。
新店と旧店どちらに行くか迷ったが、まず見たいのが旧店ということもあり、俺は地区の外れにある【シャ・ノワール】一号店に向かった。
どれだけ繁盛しているのか。
ワクワクしながら向かったのだが……遠目から見る限りでは客足はほぼゼロ。
俺が去る前は行列を作っていたため、何があったのか不安に駆られる。
頭が上手く回らない中、走って【シャ・ノワール】に向かい、勢いそのままに店の扉を開けた。
閉業していたとかではなく普通に営業中であり、店内は前とさほど変わらない。
中には客がちらほらとおり、勘定場で肘をついて座っていたのは――紛れもないレスリーだ。
「いらっしゃいま――って、じぇ、ジェイドか!?」
「れ、レスリー。生きていたか。本当に良かった」
「そりゃこっちのセリフだわ! 戻ってくるなら戻ってくるって言いやがれ! この馬鹿やろうが! 本気で心配してたんだぞ!」
立ち上がり、勢いよく駆け寄ってきたレスリーは、客の目を気にすることなく抱きついてきた。
非常にむさ苦しいが、このむさ苦しさも嬉しく感じる。
しばらくレスリーに好き放題やられた後、落ち着いたレスリーと一緒に勘定場に立つ。
久しぶりのこの光景を見てまた泣きそうになるが、今は感慨に浸るよりも何が起こっているのかを聞くべきだろう。
「レスリー、色々と聞きたいことがあるだが、なんでこんなに客が少ないんだ? 何かあったのか?」
「んあ? 別に何もねぇよ! お客様だってちらほら入っているだろ?」
「いや、入ってはいるが行列を作るぐらい人気だったろ」
「あー、そりゃ二号店の方に人が流れたからな! 必然的にこっちの客は少なくなったんだ!」
なるほど。そんな単純な理由だったのか。
てっきりレスリーが何かやらかしたかのかと思ったが、二号店の方が繁盛しているなら何も問題ないんだろう。
「そういう理由か。行列が見えなかったから本気で心配した」
「こっちは大分落ち着いちまったな! まぁこれくらいの方が俺一人で回せるし、色々といいんだわ!」
「てことは、他のみんなは二号店の方にいるのか?」
「ああ、そうだぜ! 配達なんかも向こうで行っているし、大きめの店舗を借りたんだが……連日大行列の大賑わいだ! 店長はヴェラに任せて、ブレントのサポートもあるが上手くやってくれている!」
「へぇー、ヴェラが店長。言っちゃ悪いが想像がつかない」
大役を請け負うような性格ではなかったと記憶しているんだが、魔道具の作成を一緒にやる頃から頑張り出してはいたか。
それにしてもヴェラが店長か……見てみたいな。
「今も元気に働いていると思うぞ! 二号店は行ったことがなかったよな? 今から見に行って来たらどうだ?」
「レスリーともう少し話がしたい気持ちがあるが……確かにヴェラが店長として働いている姿は気になるな。二号店がどんなものなのかも見たいし、ちょっと見に行ってくる」
「ああ! 俺も一緒にって言いたいとこだが、店を閉める訳にも行かねぇからな! 今日はパーティーだから夜は空けとけよ!」
「ふっ、楽しみにしておく。それじゃまた後で」
俺はレスリーと別れ、【シャ・ノワール】を後にした。
正直死ぬほど焦ったが、元気な姿が見られて本当に一安心。
一号店の方は客入りが少なくなったようだが、二号店が大繁盛らしいからな。
ヴェラの店長姿も楽しみにしつつ、俺はウキウキで【シャ・ノワール】二号店へと向かった。
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