第305話 二人の話


 二人とお酒を交わしながら、ようやく俺の報告が終わった。

 頻繁に相槌を打ってくるため、話が思っていたよりも長くなってしまった。


「いやぁー、やっぱりジェイドさんは凄いですねぇ! こんな短期間でこんな濃い内容のお話ができるんですもん!」 

「確かにそうだな。酒が進む面白い話だった」


 二人はかなりベロベロになっており、アルフィに至っては茹でダコのように真っ赤になっていて、今にも寝てしまいそうなほど。

 本来ならここでお開きでもいい時間帯でもあるのだが、俺も二人の話を聞きたい。


「俺の話は終わったから、次は二人の話を聞かせてくれ。俺がエアトックを後はどうなったんだ?」

「ふぇ? ……ジェイドさんが去った後に後……なんでしたっけ?」

「俺が説明するから酒でもアルフィは飲んでろ」

「はーい! よろしくお願いしまふ」


 酔っぱらって頭が回っていないアルフィに代わり、セルジが説明してくれるらしい。

 かなり投げっぱなしで街を後にしたから気になっていた。


「それで、俺が去った後はどうなったんだ?」

「しっかりと始末はついたぞ。まぁ俺とアルフィはほとんど関わっていないけどな」

「そうなのか。ということは、『バリオアンスロ』の拠点は押さえたのか」

「いや。流石に拠点までは押さえられていない。例の地下通路と賭場と倉庫だけだな。それでも動きはかなり制限できているみたいで、大分鈍くなっているって兵士長は言っていた」


 地下は完全に封じ込めたということか。

 例の建物でどれだけ違法薬物を生産しようが、外に運び出す術がなければ無駄なだけ。


 しっかりと動きを封じ込めることができたことを聞けて一安心。

 『バリオアンスロ』と繋がっていたであろう『モノトーン』も壊滅しているし、その裏にいたクロも既に死んでいる。


 卸し先もなくなったとなれば、『バリオアンスロ』は更に規模が縮小されていくと思う。

 貧困にあえでいた子供たちは気になるが、だからと言って不法行為に手を染めていい理由にはならないからな。


「それが聞けて安心した。もう『バリオアンスロ』の脅威はなくなったと見てよさそうだな」

「でも……いつ暴れてもおかしくないって話にはなってます! だから、かなり警戒してまひゅ!」

「なるほど。玉砕覚悟で暴れる可能性もあるのか」

「そうれす! だから、警備も増やしているんですけど……今のところは目立った動きはないれすね!」


 確かに首が回らなくなったら、暴れだしてもおかしくはない。

 一番の策は『バリオアンスロ』の獣人達を救済することだが、散々暴れまわった『バリオアンスロ』を救済することに賛成する人は少ないだろう。


「なるほどな。未だに気が抜けない状態ではあるってことか」

「そうなんだが、暴れだしたとしても制圧できる自信はある。一度失敗しておいてこんなこと言うのはアレだけどな」

「俺は割りと信じているけどな。その時はアルフィとセルジも参加するのか?」

「んー……。ジェイドがいるなら積極的に参加したいけどな」

「ジェイドさんがいてくれたら、百人力ですもんれ!」

「近日中に暴れ出すのが確定してるなら、残って参加してもいいんだが……」


 早いところヨークウィッチに戻りたい気持ちがあるからな。

 長くは滞在できないため、参戦するのは難しいと思っている。


「やっぱそうだよな。今のはダメ元で兵士にならないかの誘いだったんだが、やっぱり王国に戻っちまうか」

「僕はジェイドさんと一緒に兵士やりたいれすよ! 兵士やりながら冒険者も楽しそうですし……」

「確かに面白そうではあるが……俺は戻らないと駄目だ。世話になった人を残してきているからな」

「ひっく、そうなんれすか……」


 二人からの誘いは本当にありがたいんだけどな。

 

「まぁ無理に留まらせることはできねぇな。でも、また近い内に帝国にも遊びに来るんだろ?」

「ああ。『バリオアンスロ』のことも気になりはするし、国を越えないといけないけど遊びには来るつもりだ」

「それは嬉しいれすね! エアトックに来たときはこうして飲みましょう!」

「道具屋の店員をやるつもりだから、何か良い卸し先があれば紹介してくれると助かる。良い卸し先が見つかれば、頻繁に来られるからな」

「おっ、そういうことなら任せてくれ。俺とアルフィで見つけておく」

「面白そうれすね! 『グレナゴル商会』の人とかいいんじゃないれすか!?」


 もう候補に思い当たったのか、アルフィとセルジは知り合いの商人を羅列し始めた。

 

「とりあえず話を聞いてみないと分からないが、俺達の知り合いだけでも結構候補先がある。後は……兵士長にも話を通せば、きっと紹介してくれるぞ。俺達やりも長いことエアトックにいるし、交遊関係の幅が広いからな」

「セルジさん、ナイスアイデアれす! 明日にでも兵士長に話してみまひょう! ジェイドさんの頼みなら、きっと紹介してくれます!」

「軽い気持ちで尋ねたんだが、それは楽しみだ」

「僕たちに任せてくらさい! ……ひっく」


 完全にベロベロなため、頼りにはならそうな感じではあるが……。

 きっとセルジが話を通してくれるだろう。

 良い取引先が見つかることも楽しみにしつつ、俺達はもう少しだけお酒と話を楽しんだのだった。


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