第179話 音


 仕切り直し、一から作戦を考える。

 煙玉は意味をなさないと分かったため、恐らく目以外で俺達の動きを捕捉しているはず。


 音で捕捉しているのであれば爆音を起こすことで怯ませることができるのだが、大きな音を出す道具は持ち合わせていない。

 音爆弾は『シャ・ノワール』の新アイテムとして考えてはいたのだが、煙玉と比べて圧倒的に需要が少ないと判断し、制作を見送ったアイテム。

 試作品でも作っておけば良かったと軽く後悔しつつも、今更考えても仕方がない。


 このままエイルの投擲攻撃でジリジリと削っていってもいいが、上部のヒレ部分しか削れていないことから、見た目に反してダメージはかなり少ない。

 そもそも体の一部というよりも、削っている部分のほとんどが溶岩が固まってできた鎧のような部分であり、その部分をいくら削っても致命傷に至ることはないだろう。


 となってくると、やはり溶岩の中から引きずり出したい。

 何か良い案を出してくれるとは考えにくいが、エイルに相談してみるとしよう。


「エイル、一つ相談があるんだがいいか?」

「相談? さっきみたいな駄目な作戦じゃないだろうな?」

「さっきのも別に駄目だったわけじゃない。実行したお陰で知り得た情報もあるしな。それより相談だが、何か大きな音を出せる方法を知らないか?」

「大きな音……それなら取っておきのがここにあるぜ!」


 マグマデルヘッジに石を投げながら、笑顔でそう告げてきたエイル。

 絶対に良い案でないことは確かだが……聞くだけ聞いてみるとしよう。


「ここって何だ? 何か持っているのか?」

「喉だよ喉! 俺はとんでもない大きさの声を出せる!! んで、一体何がしたいんだ?」


 やはりそんなことだろうと思っていた。

 任せてみてもいいが、成果はゼロで喉が潰れるなんて可能性の方が高いため、ここは大人しくさせておいた方がいい。


「やっぱりなんでもない。エイルは石を投げ続けていてくれ」

「おいおい、別に遠慮しなくていいっての! ここで大きな声を出せばいいんだろ? ジェイドは耳を塞いでおいてくれや!!」

「だから、やらなくていいっての」

「遠慮はいらねぇって! んじゃ行くぞ! 三、二、一!」


 俺の制止を振り切り、気合いを溜めるかのようなポーズを取った後――エイルは超がつくほどの大声を張り上げた。

 耳を塞いでいたものの意味をなしているのか分からないほどの声量が耳に届き、空気の震えで皮膚がヒリヒリとするほど。


 必死に止めるように俺も声出したが、馬鹿デカい声を張り上げているエイルの耳には決して届かず、声が止まるまで耳を思い切り塞いで耐え忍んだ。

 発声から三十秒ほどで止まったのだが、鼓膜がジンジンと痛む。


「やるなって言ったのに勝手に始めるな。耳が本当に痛い」

「おい! ジェイド、見てみろ! マグマデルヘッジが出てきたぞ!」


 エイルが指さす方向を見てみると、先ほどの大声に耐えかねたのかマグマデルヘッジが陸の上へと出てきていた。

 確かに想像絶する大声だっただけに、効果はてきめんだったみたいだな。


 ようやくマグマデルヘッジの全体像を拝むことができたが、両手両足がついた四足歩行のナマズのような姿をしている。

 体は溶岩が固まってできた鎧を纏っており、簡単には刃が通らず非常に硬そう外見。

 ただかなり荒く隙間があるため、そこを通して攻撃を行えばダメージを与えることはできそうだ。


「やっぱり音には相当敏感なようだな。文句は言いたいがよくやってくれた。エイルは投擲でのサポートを続けてくれ」

「えーッ!  俺だってマグマデルヘッジと戦いてぇよ!! 俺が引きずり出したんだからジェイドがサポートしてくれ!」

「五分かかっても倒せなかったら譲る。それでいいだろ? とにかく溶岩の中に戻らないようにしてくれればいい」

「五分だぞ!! 絶対だからな!!」


 エイルにそう言いつけてから再び前へと出る。

 さっきは背後を取られてしまったが、視界に捉えた以上はもう見失うことはない。


 見るからに不思議な魔物に近づいていき、俺に向かって動き出そうとした瞬間を狙って一気に近づく。

 陸での動きも鈍いため簡単に攻撃できると思ったのだが、マグマデルヘッジは大きく口を開けると広範囲に火を噴射してきた。


 火を吹く魚なんて想像もしていなかったが、避けられない攻撃ではない。

 絶対に視界から外れないように躱しつつ、マグマデルヘッジとの距離を詰めていくと――何やら体を震わせ始めたのが分かった。


 何の動きか分からなかったが、体を震わせた瞬間からマグマデルヘッジの気配だけが場所に留まり、本体からは何の気配もしなくなったのが分かる。

 恐らくだが……マグマデルヘッジの能力の一つであり、その正体は超音波の一種。


 音に敏感なだけでなく、自身も音を自在に操ることができるようだ。

 巨体でパワー系のような見た目をしておいて、技巧派な仕掛けを行ってくる。

 徹底的に考えて動く俺とは相性が悪いため、ここからはエイルのように力でゴリ押す作戦に変更するとしよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る