第89話 玉鋼


 弟子の件は上手く誤魔化しつつ、剣を見繕ってもらえるかの交渉を行おう。


「指導はしているが弟子って感じではない。それよりも、二人に合う剣を買いに来たんだ。俺と違って手入れも含め、頻繁に通うようになるだろうから良い武器を見繕ってくれ」

「良い武器? ジェイドが買っていった安い剣じゃダメなのか?」

「掘り出し物も悪くはないが、できれば金貨一枚くらいの良い武器がいい」

「ほー、随分と奮発するじゃねぇか! 流石に“弟子”には甘いんだな! ちょっと待ってろ。今見繕ってやるよ!」


 ダンはおちょくるようにそう言うと、店に置いてある剣を吟味し始めてくれた。

 二人に金貨一枚の剣をプレゼントするのは懐的には痛いが、銀貨二枚の掘り出し物をあげてもって感じはあるからな。


「短剣と片手剣に絞って選んでみた! じっくり選んでくれ!」

「流石に質がいいな。鋼で打った剣か?」

「おいっ、ただの鋼じゃねぇよ! 玉鋼だ!」

「玉鋼? 道理で質が高い訳だ。……でも、玉鋼の剣なら金貨一枚じゃ買えないだろ」

「スタナ先生の知り合いだし、俺も気に入っているからな! とことん負けてやるよ」


 この提案は本当にありがたい。

 ダンもそうだが、スタナにレスリーと俺は周りの人に恵まれすぎている。


「本当にいいのか? 一切遠慮しないぞ?」

「構わねぇよ! その代わり、強くなってガンガン俺の店を宣伝してくれ!」

「ああ、『ダンテツ』の宣伝はやらせてもらう。そして、この二人もキッチリ強くさせることも約束する。二人も強くなったら、この店の宣伝をしてあげてくれ」

「「はい! 頑張って強くなります!」」

「若くていいな! なんだか羨ましくなってくるぜ!」


 元気よく返事をしたトレバーとテイトを見て、しみじみと呟いたダン。

 そんなダンに感謝しつつ、俺は見繕ってくれた剣の目利きを始める。


 本当はトレバーとテイトに選ばせた方がいいのだろうが、俺が選んだ方が正確に目利きできる。

 二人をそっちのけで剣をかじりつくように凝視し、計八本の剣から二本の剣を選び抜いた。


「この片手剣とこの短剣が抜けて良い。二人とも軽く振ってみろ」

「分かりました! ……うーん、ちょっと僕には重いかもしれません」

「私にはベストです! なんて言いますか――空気を斬っているだけでも切れ味が分かります!」


 トレバーはしっくりきていないようだが、テイトはしっくりきたようでブンブンと店内で短剣を振り回している。

 空気を斬る音も気持ちがよく、音だけでも質の高さが分かるほどだ。


「トレバーはしっくりきていないようだが、この剣にした方が良い。今は単純に筋力が足りてないだけだ」

「そうなんですかね? ジェイドさんに最初に指導をしてもらった時みたいに、剣に振り回されてしまう未来が見えるんですけど……」

「十中八九そうだろう。……だとしても、その剣を使い続けろ。最初は大変だが、その剣を使いこなせた時に化ける」

「ジェイドさんがそう言うのであれば、僕は従います! この剣を使わせてもらいます!」


 ボロボロの鉄の剣とは違い、柄ですらしっかりとした造りの玉鋼の剣を握りしめ、嬉しそうに微笑んでいるトレバー。

 不安そうではあったが、この剣でいくと決めてくれたのは良かった。


「流石はジェイドだな! キッチリと良い武器を選びやがって!」

「正直、あの二本が抜けて良かったからな。……何度も聞くが、合計で金貨二枚でいいのか? あの剣だと最低でも五倍くらいはするだろ?」

「いいんだよ! ……まぁそこまで金が払いたいって言うなら、正規の値段で買ってくれてもいいんだけどな!」

「いや、金貨一枚で買わせてもらう。ダン、本当にありがとう」


 深々と頭を下げ、感謝の気持ちをしっかりと伝える。

 そんな俺の姿を見て、何かに憑りつかれたように剣を見ていた二人も慌てて頭を下げた。


「二人共、ちゃんと強くなってくれ! んで、ジェイドもスタナ先生を連れて遊びに来い! 久しぶりにスタナ先生とも会いたいからな!」

「約束はしかねるが、気が向いたらスタナを誘って遊びにくる」

「おう! メンテナンスはキッチリさせろよ!」

「ああ。二人には定期的にこの店でメンテナンスを行わせる。それじゃまた来る」


 俺はダンに代金の金貨二枚を手渡してから、最後にもう一度頭を下げて店を後にした。

 レスリー、スタナに次いで、ダンにも借りができてしまったな。


 最近は『シャ・ノワール』にも冒険者の客が増えてきたし、レスリーに相談して『ダンテツ』のビラを貼らせてもらおう。

 『ダンテツ』に『シャ・ノワール』のビラを貼っているし、相乗効果を生むことができるはずだ。


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