第294話 異変


 各々準備を整え、時刻はあっという間に夕方になった。

 これから『グランプーラ』に赴き、一気に制圧する予定となっている。


 途中までは一緒に向かい、そこからは単独で動いて幹部を殺しに動く。

 このムーヴは『都影』のアジトを攻めた時もとったため、建物の構造や幹部のいる位置もしっかり把握している簡単に済ますことができるだろう。


「それじゃ向かうとするか。ジェイドにとっては初の騎士としての実戦が『モノトーン』相手となる訳か。かなり酷だな」

「俺自身が求めた訳だから全く酷じゃないぞ。俺に付き合わされているゼノビアの方が酷だろ」

「ふふ、確かにそれは言えている。色々と根回ししつつ秘密裏に動くのは大変だったぞ」

「本当に助けられた。この借りはいつか返させてもらう」

「いつかではなく、今回の戦果で返してほしいな。手柄を全てくれるのだろ?」

「……そうだな。キッチリと全てを成功させて、ゼノビアに手柄を全て譲ることで借りを返させてもらう」

「ああ、期待しているよ」


 隊長室でそんな会話をしてから、ゼノビアと共に外に出た。

 今回は一番隊に所属している騎士全員が出動ということで、もちろんのことながらアラスターもいる。


 めちゃくちゃに嫌そうな顔をしているし、そもそもアラスターは雑務係だからな。

 前線に出す必要性がないと個人的に思うが、相手が相手だけに駆り出されたようだ。


「それでは先ほど伝えた通り、『モノトーン』の本拠地である『グランプーラ』に向かう。立ち回りについても伝えた通りに動いてくれ。――油断だけはするなよ」


 ゼノビアが檄を飛ばすと、騎士の顔つきが引き締まったように見える。

 流石は隊長を務めているだけあって、声の通りが非常に良いな。


 俺もその他大勢の騎士に紛れ、ゼノビアを先頭に『グランプーラ』へと向かう。

 ちなみにだが、一番隊に所属している騎士の数は百人前後。


 一見少なく感じるが、他にも隊はある上に近衛兵も別でいる。

 合計だと1000は超える数の騎士がいるはずだ。

 騎士の下に一般兵もいる訳で、戦が行われるとしたらもっと大勢の人間が動くだろう。


 そんなことを考えながら、無言でひたすら『グランプーラ』を目指して行進する。

 何度も見た街並みだが、すれ違う一般人から凝視されていることもあって、いつもとは全く別の景色に見える。


 格式高いように見えて、世間からの評価が低いことも俺が知っているというのもあるだろう。

 嫌な視線を浴びながら行進を続け、ようやく見えてきた『グランプーラ』。


 ド派手な建物であり、一見では裏の組織のアジトには見えない。

 それにしても……以前訪れた時とは大分様子が違うな。


「ゼノビア、『グランプーラ』の様子がおかしい」


 俺は小さい声でゼノビアに忠告する。

 ここまでの道中も嫌な視線を浴びたことで様子はおかしくはあったが、『グランプーラ』は明らかに様子がおかしい。


「様子がおかしいってどういうことだ? この間来た時と違うのか?」

「ああ。人があまりにもいなさすぎる」


 『グランプーラ』周辺に人がいないどころか、中からも一切の音がしていない。

 もう夕方であり、この間を見る限りでは人がいないというのは絶対にありえないのだ。


「つまり勘付かれた可能性が高いということか?」

「高いというよりも、間違いなく勘付かれている。中で待ち構えているか、既にもぬけの殻となっているかのどちらかだ」


 秘密裏に動いていてくれたとはいえ、騎士団の一隊を動かすとなると情報は少なからず漏れる。

 それを察知されて、対応してきたと考えるのが普通だろう。


 ただ、それにしては動きが早すぎる節があるため、ヴィクトルのような裏切り者が潜んでいる可能性が高い。

 ここまで来たら裏切り者探しをしている余裕もないため、とりあえず『グランプーラ』の中を確認するのが先だろう。


「もぬけの殻となっていたら最悪だな。まだ待ち伏せられていた方が、戦果を上げることができるしありがたいんだが」

「中から気配を何も感じないからどうだろうな。動きについてはどうする? 決め手いた通り、俺が先に潜入して幹部の様子を見に行った方がいいか?」

「……いや、こうなったら同時に突入した方がいいだろう。『モノトーン』の幹部も出張っているだろうしな」

「分かった。そういうことなら、正面から全員で一気に突入しよう」

「正面突破で押し通ろうか。ジェイドは幹部を一人仕留めた段階で抜け、帝城に向かって構わないからな」

「ああ。後の処理を任すことになるがよろしく頼む」


 異変を感じ取ったことで決めていた動きを微妙に変え、全員で一気に突入することとなった。

 気になるのは建物の中から気配を何も感じ取れないこと。


 気配を断つことができる実力者が集結しているのか、それとももぬけの殻となっているのか。

 ゼノビアが言う通り、後者の方が俺としても嫌なのだが……気配を断つことができる実力者が待ち伏せているのも中々に嫌ではある。

 どちらを引いても地獄の中、ゼノビアを先頭に真正面から『グランプーラ』の中に突入した。

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