第293話 突入準備
俺の提案を快諾してくれた日から二日が経過した。
ゼノビアの動きは本当に早く、この二日間で既に『グランプーラ』に突入できる準備を整えてくれた。
二番隊も説得してくれたようだし、昼の内に突入すれば簡単に制圧することが可能だと思っている。
ただ……俺としては夕刻辺りから突入してほしく、これは完全に私用なためこれからゼノビアと話し合いを行う。
「ゼノビア、少し話をしたいんだが大丈夫か?」
「もちろん大丈夫だぞ。私もジェイドと話がしたいと思っていたからな」
隊長室で向き合うように座り、ここからについてを話す。
今日中に『グランプーラ』に攻め込むことは確定しているため、どの時間帯に攻め込むをこれから決める。
「まずは提案してから、これだけスピーディに手筈を整えてくれて本当に助かった。お陰で『モノトーン』にも勘付かれていないはずだ」
「やると決めたからには万全を尽くしただけだよ。それにジェイドのためって訳でもないし、この街の平和を守るためだ」
「そうか。平和のためと言い切れるゼノビアはかっこいいな」
「照れるから止めてくれ。お世辞はいいから早く本題に入ってほしい。褒めるだけって訳じゃないだろ?」
色々と不安定な部分も結構目にしてきているが、正義感も強いしゼノビアは隊長として最適な人物だと接してきて強く感じた。
俺を優遇してくれているから、そう思う面ももちろんあるだろうけどな。
「本題は別であるが、本心からかっこいいと思っている」
「ふふ、分かったから本題に入ってくれ」
「本題に入らせてもらうが……ゼノビアはどのタイミングで攻め込もうと思っているんだ?」
「時間帯のことか? 昼頃がベストだと思っている。ジェイドの話によれば、夜になるにつれて活発になるらしいからな」
「やはりそうだよな。俺も同じ考えを持っていた……が、夕方まで遅らせることはできないか?」
俺のよく分からない提案を聞き、首を傾げたゼノビア。
『グランプーラ』だけを攻め込むなら、確実に昼頃がいいのは間違いない。
ただ俺は同時に帝城に潜入しようとしており、昼頃では見つからずに動くのが難しいのだ。
そのための提案であり、この提案をゼノビアが受けてくれたらクロの下まで辿り着ける可能性が上がると思っている。
「夕方までなら別に遅らせることは可能だな。……ただ、その提案をした理由を聞かせてくれ。ジェイドが『グランプーラ』の制圧に参加できないことと関係しているのか?」
「ああ。俺はゼノビア達が『グランプーラ』に制圧している間に、帝城に潜入しようと考えている」
「帝城に潜入!? 君は一体何をしようとしているんだ?」
「ブレナン・ジトーという人と知り合いで、その人に会うために帝城に行ってくる」
「だったら、普通にアポを取って――って、それができないから潜入するのか」
「そういうことだ。ちなみに、俺は『モノトーン』とジトーが繋がっているとも睨んでいて、そのためにゼノビア達には『モノトーン』の方を制圧してほしいと持ち掛けた」
「疑問だった点は全て納得できた。全てを聞くつもりはなかったんだが、なんで急に全てを話すことにしたんだ?」
「即決してくれた上に、ここまでスピーディに準備を進めてくれたからな。ゼノビアには全てを話していいと判断した――というよりも、話さないといけないと思った」
実際にここまでやってくれるとは思っていなかった。
ゼノビアにとっては兵士長という信頼した人物からの依頼だろうが、俺に対して信頼できていない部分の方が大きかったはずだからな。
「そう言ってもらえたのは嬉しいな。とりあえずジェイドがやろうとしていることは理解した。私達が『グランプーラ』を制圧している間に帝城に行くということだな」
「ああ。ただ言い出しっぺは俺だから、『グランプーラ』にいる『モノトーン』の幹部の一人は俺が捕まえる。殺しても構わないなら楽なんだがどうだ?」
「ふふふ、殺さないという択があるのが凄いな。殺すつもりで攻め込むつもりだから、殺してしまっても文句はない。生け捕りにして情報を吐き出させるのが一番だがな」
「分かった。生け捕りにすることは考えるが、殺してしまったらすまないな。幹部を仕留めた後はすぐに帝城に行くがそこは頭に入れておいてくれ」
「もちろん構わない。細かな内部情報を調べてきた上に幹部一人を仕留めたとなれば、第一功は間違いなくジェイドだからな。褒美も貰えると思うぞ」
「いや、俺の功績は全てゼノビアが受け取ってくれ。すぐに帝国騎士団を抜けるし、褒美はゼノビアから前払いで貰った気分だからな」
こうして話し合いを終え、いよいよ『グランプーラ』の制圧と帝城への潜入を行う。
気が早いことは分かっているが、やっとクロと会えると思うと嬉しい気分になってくる。
前までは会いたくない人物筆頭で、出会わないために王国に行ったはずなんだけどな。
そんなクロに会うためにこれだけの時間を費やした訳で、その費やした時間が嬉しさに変わったのだと思うと、人間の心境というのは自分のことながら理解できない。
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