第231話 二人の兵士
このまま追い出される訳にはいかないため、とにかく何か取っ掛かりを作らないといけない。
初対面の人間との会話は接客で鍛えられたし、今の俺なら上手いことやれるはず。
「俺は行商人なんだが、この街の商人ギルドを探して練り歩いていたんだが全く見つからないんだ。何か教えてくれないかと思って、この詰所に足を運ばせてもらった」
そんなことを口に出しながら、俺は腰のホルダーに入れていた煙玉を取り出す。
見たことがなかったアイテムだったようで、思惑通り二人の兵士の視線は煙玉に向けられた。
ちなみにだが商人ギルドがこの街にないことを知った上での質問。
何かしらの取っ掛かりを作るためについた嘘のため、兵士たちには乗ってきてほしいところ。
「残念だが、この街に商人ギルドはないぞ」
「え? そうなのか? エアトックの街に商人ギルドがあると聞いて、わざわざ王国から来たんだがな。王国で最近作られて売れまくっている戦闘用アイテムも持ってきたのに……商人ギルドがないとは残念だ」
心の底から残念そうな声で呟いてから、二人が凝視している煙玉を空中に投げてはキャッチを繰り返す。
戦闘用アイテムという言葉も更に二人の興味を惹いたようで、これは上手くいったかもしれない。
「本当に商人みたいだな。その手に持っているアイテムが何なのか教えてくれ」
「もちろん構わないが、その代わりこの街にある道具屋を三軒ほど案内してほしい。約束してくれるなら、このアイテムを二人にプレゼントする」
「……分かった。道具屋を紹介すればいいんだな?」
「えぇ! 大丈夫なのかな? 詰所にいないことがバレたらまた怒られちゃいますよ!」
「大丈夫だって。俺達のどちらかが残ってればバレたとしても言い訳できる」
何やら俺との取引のためにルールを破ろうとしているらしく、二人はこそこそと耳打ちし始めた。
俺は耳が良いため全て丸聞こえだが、こっちにとって有利な方に動いているため見て聞こえていないフリをする。
「二人の内、どちらかが案内すればいいんだよな? それでいいなら取引は成立だ」
「もちろん構わない。それじゃ早速プレゼントさせてもらう」
興味津々な二人に煙玉を手渡し、これで取引成立。
取っ掛かりを作ることには成功したし、後は道具屋を紹介してもらいながら距離を縮めるだけだ。
「この玉は何に使うものなんだ? 新しく作られたアイテムってことは画期的なものなんだよな?」
「僕はぶつけたら爆発するとかだと思います! それなら人気になりそうだし!」
「これはぶつけた瞬間に煙幕を発生させる煙玉ってアイテムだ。主に敵から逃げる時に使うもの」
兵士二人の目はキラキラしていたのだが、効果を知った瞬間に興味が薄れたのかどんよりと曇ったのが分かった。
まぁ説明を聞いただけじゃ、使いどころが分からないアイテムだもんな。
「王国ではこんなのが人気になったのか? 多分だが帝国じゃ売れないぞ」
「使ってみれば実用性の高さが分かる。ちょっと試してみるか?」
俺は鞄からもう一つ煙玉を取り出し、二人にそう提案を持ちかける。
詰所で煙玉なんて普通なら絶対に駄目だろうが、思っていた以上に好奇心が強い二人ならきっと乗ってくるはずだ。
「……使い方も知りたいし、ここで試せるなら試してみてくれ」
「えっ? 大丈夫なんですか!? こんなところで使ったのが見つかったら……」
「アルフィは知りたくないのかよ。使い方が分からなかったら、一個しかないのに無駄になるんだぞ」
「そんなことを言われたら、知りたくないなんて言えないですよ!」
会話から段々と二人の関係性も見えてきたし、思惑通り誘いにも乗ってくれた。
この場で煙玉を使って、使えるアイテムだということを証明しよう。
「それじゃここで使わせてもらう。効果のほどが分かりやすいように、煙玉を使った後は俺が二人を押さえつけて無力化させる。二人は必死に抵抗してほしい」
「商人が兵士を押さえつける? そんなことができるならやってほしいが、俺も本気で抵抗するぞ。怪我しても文句は言わないでくれよ」
「もちろん文句なんか言わない。それじゃ合図の後に煙玉を使って、二人を地面に押さえつけさせてもらう」
そう宣言してから、俺は煙玉を足元に投げつけた。
一瞬して詰所の中は真っ白となり、視界では何も確認できない状態。
「う、うわわわ! 何にも見えません!」
「アルフィ、絶対に抵抗しろよ。兵士の意地を見せるんだからな」
「分かりました! 自分の身だけを守ります!」
押さえつけられないように気合いを入れたようだが、二人が声を発してくれたことで位置を正確に捉えた。
まずはアルフィの足を蹴り飛ばして、思い切り転ばせる。
転倒した際に声を上げたことで、もう一人の兵士がこちらに向き直したのが音で分かった。
厄介そうなのはもう一人の兵士の方だし、煙で見えないことをいい事に全力を出して一瞬で背後をつく。
そして、アルフィと同じように足蹴りで転ばせ、うつ伏せの状態で地面に押さえつけた。
そのままアルフィの隣まで移動させ、未だに転んでいるアルフィと横並びにさせてから、二人とも腕を極めながら押さえつけたところで――勝負ありだな。
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