第233話 親近感


 『のんびり屋』を後にし、次の道具屋を案内してもらうことにした。

 アルフィはまだ店主に名前を覚えられていなかったことを引きずっているのか、表情が少しぎこちない気がする。


「良い道具屋だった。紹介してくれてありがとう」

「すぐに退店したのでお気に召さなかったのかと思いましたが、良い道具屋だと思ってくれたのは良かったです! 次の道具屋に行きますか?」

「道具屋の場所を知りたかっただけだからな。すぐに次の道具屋に行きたい。案内してくれると助かる」

「分かりました! 案内は僕に任せてください!」


 胸をトンと叩いてから、アルフィが次に歩き出した先は中央通りの方向。

 西地区ではなさそうだし、結構な移動時間がありそうだ。


「そういえば話が変わるが、この街は治安が悪いと言っていたけど何が原因なんだ? この近辺に魔物が多いというのも関係しているのか?」

「うーん……魔物も多いですが、単純に悪い人が多いから街の治安が悪いんですよ! 夜は出歩かないんように皆が注意しているぐらいですからね!」

「へー。もしかして獣人と何か関係していたりするか?」


 俺が昨日見た光景から得た質問を尋ねると、アルフィは分かりやすく背筋を伸ばした。


「じゅ、獣人? 関係ないと僕は思いたいですけど……」

「なんでそんなにはっきりしない答えなんだ? セルジって兵士もそうだったけど、口外してはいけない情報が多いのか?」

「うーん……。特にそういう訳ではないんですけどねぇ」

「なら答えてくれてもいいだろ。怪しげな獣人を見たから、ずっと気になってはいたんだ。もしかして『バリオアンスロ』、『フォーシーズロード』とかと関係があるのか?」

「え!? なんで『バリオアンスロ』を知っているんですか!?」


 どうやら図星だったようで、アルフィは分かりやすく反応してくれた。

 『フォーシーズロード』には反応を示さなかったことからも、北のエリアにいた獣人たちは『バリオアンスロ』の構成員と考えて間違いないと思う。


 それにしても、アルフィはいちいち分かりやすくて助かるな。

 口調も含めてどことなくトレバーに似ているし、早くも親近感が湧いてきた。


「最近結成されて有名な組織があるっていうのを噂話で聞いただけだ。ただアルフィの反応を見る限り、この街の治安が悪いのは『バリオアンスロ』のせいなのか」

「うぅ……これ以上は隠せそうにないですね。これは口外してはいけない情報なので、絶対に他の人には言わないでください!」

「言わないから、その代わり『バリオアンスロ』について詳しく教えてほしい」

「でも、なんでそんなに知りたいんですか? もしかして本当は行商人じゃないとか?」

「いや、行商人だからだよ。戦闘アイテムを欲するのは、何も兵士側だけではないからな」


 俺が呟くようにそう伝えると、言葉の意図を理解したようで両手で肩を抱いて身震いしたアルフィ。

 話の整合性も取れているし、口外しない条件で情報を引き出すことができるだろう。


「なんで知りたがっているのかは分かりました。こんなところではなく別の場所で話したいので、今日の夜とかって空いてますか?」

「もちろん空いている」

「それなら『クレイス』って酒場に来てください! セルジさんと一緒にお酒を呑みますので、そこで『バリオアンスロ』について教えます!」

「その場にセルジを連れてきて、俺に情報を教えることはできるのか? なんとなく止められそうな気がするが」

「大丈夫ですよ! セルジさんは僕と似ていますし、事情を説明すれば止めるような人じゃありません! 何より、この道案内もセルジさんが主導ですからね!」

「そういうことならいいんだが、それじゃ夜に情報を聞かせてくれ」


 想像以上に早く、アルフィと情報を貰う約束を取り付けることができた。

 仲良くなるという感じではなかったが、これはこれで上出来な結果と言える。

 残りの道具屋紹介は蛇足になってしまうが、できる限り悪い印象にならないように努めるとしよう。



 アルフィから道具屋の残り二つを紹介してもらい、軽く礼を伝えてからすぐに解散の運びとなった。

 約束を取り付けた夜までは適当に時間を潰し、頃合いを見てアルフィに言われた『クレイス』という酒場へと向かう。


 『クレイス』は西地区にある酒場で、人が立ち入らなそうな路地裏にある。

 夜のエアトックの街はただでさえ人が少ないのに、この路地裏は街灯もないし街の中とは到底思えない場所。


 こんな場所に本当に酒場があるのかも疑問だったが、ボロボロながらも『クライス』と書かれた看板が出されており、地下へと続く階段を下りて行くと明かりが漏れているのが確認できた。

 アルフィに騙されている可能性もずっと追ってはいたが、中の反応を探った限りでは三人だけ。


 恐らく店主とアルフィとセルジの三人だろう。

 中から感じる気配からもそう読み取った俺は、一つ息を入れてから『クレイス』の中に入ったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る