第66話 刻印
トレバーとテイトと別れた後、真っ先にマイケルのところへ向かうことにした。
心情的には先に宿屋探しをしたかったが、遅い時間になるにつれて冒険者ギルドは冒険者で賑わうからな。
平原から冒険者ギルドへとやってきた俺は、久しぶりに冒険者ギルドの中へと足を踏み入れた。
まだ昼前のため、冒険者の数はかなり少ない。
それでも受付は並んでいるのだから、冒険者の数は計り知れないと思う。
俺も列の最後尾に並び、この間のように割り込まれないよう注意していると、思っていたよりもすぐに受付へと通された。
受付嬢が笑顔を浮かべているが疲れの色も見え、店番の辛さを知っているためお疲れ様と言いたくなる。
「いらっしゃいませ。こちらは依頼受注用の受付となりますが、よろしかったでしょうか?」
「マイケル副ギルド長に用があるのだが、呼んできてもらえないか?」
「副ギルド長に……でしょうか? 何か約束とかをされておりますか?」
「約束はしていない。ただ『パステルサミラ』と伝えてくれれば伝わるはずだ」
「……? か、かしこまりました。ただいま確認してきますので、少しだけお待ちください」
受付嬢には完全に変人が来たと思われたが、まぁそれはしょうがない。
食事を取った『パステルサミラ』の店名を伝えれば、マイケルはすぐに俺だと気づいてくれるだろう。
受付嬢が裏へと消えて行ったのを見送ってから、僅か数十秒後。
勢いよくフロアへと出てきたのは、特徴的な豊満なフォルムをしているマイケルだった。
「早速来たのだね。ここでは何だから、奥の応接室に移動しよう」
「ああ。とりあえず気づいてくれて良かった」
「受付嬢は完全に君を不審者だと思っていたよ。私としてはもう少し上手く通してほしかったんだけどね」
「次からはもう少し上手くやらせてもらう」
ギルド職員しか入ることのできないギルドの裏を通り、少し孤立した場所にある『応接室』と書かれた部屋へと通された。
これだけの規模になってくるとギルド職員の数も半端ではないのだが、普段一般人は立ち入らない場所にいる珍しいはずの俺を一瞥することもなく、ひたすらに依頼処理のようなものを行っていた。
忙しさは言葉を介さずとも伝わり、業務中に訪ねてしまったことに少しだけ申し訳ない気持ちになる。
仮に俺の仕事中にマイケルが訪ねてきたら、普通にイラッとくるだろうしな。
「座ってくれて構わない」
許可が出たため、俺は遠慮なく高そうな椅子に腰かけた。
「それで、今日は『都影』のことを聞きにきたのかね?」
「聞きにもきたが、伝えにもきた」
「伝えにも……? 君もあれから調べていたのかね?」
「まぁそんなところだ。まずは俺の方から話させてもらう。『都影』の幹部がこの街に来ているそうだ。そして、新たな人員の募集を開始しているらしい」
「幹部が来ていたことは私も知っていたよ。ただ、人員を募集しているのは初めて聞いた情報だね。これは……また荒れそうな気がしてきたよ」
マイケルは穏やかそうな表情から一変させ、一気に強張らせた。
この表情の変化から、近々大きな何かが起こることを俺は確信した。
「幹部のことを既に知っていたなら、俺からの報告はこんなものだ。次はそっちの話を聞かせてくれ。あの黒服二人から情報を聞き出したのだろ?」
「いいや。それが聞き出せなかったのだ。地下牢にぶち込んで、拷問をかけようとした瞬間に舌に描かれていた刻印によって二人とも死んでしまった。君がせっかく捕まえてくれたのに、何の情報も得られず本当に申し訳ない」
舌に刻印か。
奴隷を縛るためにつけるものとして、帝国でも裏の世界ではメジャーだった。
話を聞く限り何かしらの制限がかけられていて、それを破ると死ぬようにできていたのだと推測できる。
捕まえた黒服から情報を聞き出せなかったのは痛いが、刻印が施されていたなら仕方がない。
俺の情報が永久に漏れることがなくなったというのは大きいしな。
「死んでしまったのなら仕方がない。情報は聞き出したかったが、どう足掻いても聞き出すことは不可能だろうからな」
「物分かりが良くて助かるよ。それで……私から一つだけ質問があるんだがいいかね?」
「俺にか? 答えられる質問なら答えさせてもらう」
「『都影』がとある人物を探し回っているという情報が私の元に届いたのだよ。なんでも『都影』のヨークウィッチの支部長が殺されたようで、幹部もそのことでやってきたそうだ。……私はほぼ確信に近いと思っているのだが、その支部長を殺したのは――」
「俺だ」
間髪入れずにそう答えた。
ほぼほぼ勘付かれていたし、ここで黙っていても無駄に探りを入れられるだけ。
潔く認めてしまった方が、お互いにとって良いと判断した。
「やはりそうだったのだね。あれだけの動きができるのであれば、アジトに潜り込んで支部長を殺すなんて容易い作業。この話を聞いた時に、私は真っ先に君の顔が浮かんだよ」
「黙っていて悪かったな。気づかれるのであれば、前回話した時に言うべきだった」
「言いたくない気持ちは分かるよ。ただ、ますます君が何者なのか気になってきた。私の方も軽く調べたのだけど、どこの国の冒険者にもなっていないようだったからね」
今のマイケルの発言から、『冒険者』という枠組みに入った瞬間に所属している者の個人情報を調べることができるということを知った。
俺は身分を偽っている身だし、安易に冒険者にならなくて良かったな。
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