番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 第1話


 俺が店長を務め、経営を含めた全てを任された【シャ・ノワール】新店の開店から三日が経過した。

 開店当日から予想を越えるお客さんで溢れ返り、順調過ぎるスタートを切ったお陰で四日目の今日も大賑わいーーという訳ではなく、俺は本来なら営業時間のはずの新店で頭を抱えながら項垂れている。


「……こんなはずではなかった」


 ついそう呟いてしまうのも無理はなく、七日は営業する予定で調達したアイテムが三日間で全て売り切れてしまったのだ。

 普通ならば全て売り切れたことを喜ぶべきなのだが、【シャ・ノワール】の新店が出たことを知ってもらうため、営業をするという行為自体が何よりも最初は大事。


 それなのにも関わらず、七日間営業するということを大々的に告知しておきながら、三日で店を閉めなければいけない事態になってしまっているのだ。

 スタナも店の手伝いのため、治療院に無理を言って七日間も休みを取ってくれたのにな。


「ジェイド、そう落ち込むなって! 全て売れたことはいいことなんだし、巷じゃ凄い店が出店したって噂になってるぜ?」

「噂になっているのはいいことだが、この店の性質上すぐに営業を再開することができないからな。一週間かけて、この【シャ・ノワール】を人々の記憶に刻み込みたかった」

「ジェイドは本当に心配性だな! 人の噂は七十五日って言うぐらいだし、そんなにすぐ忘れないだろ! ……そんなに営業したいなら、俺の店から在庫を持ってこようか?」

「それは駄目だ。店のポリシーに反する」

「めんどくせぇ奴だな!」


 レスリーは天を仰ぎながらそう叫んだ。

 営業はしたいが、ポリシーに反して営業するのは逆効果だと思っている。

 こだわりすぎなのかもしれないが、こだわらなければ超有名店にすることは不可能ーーなはずだからな。


「それじゃジェイドはこれからどうするんだ?」ここで項垂れていても仕方がないだろ?」

「……それはもちろん。これから調達に行く予定だ。気持ちを切り替えて、来週の通常営業に向けてしっかりと時間を割く」

「来週ってことは、営業再開は変わらず九日後ってことか?」

「ああ。週末のみの営業っていうのは変えたくないーーというより、変えられないからな。今日、明日でアイテムをかき集めて、今週末営業することも考えたが……二日で調達できる数は分かりきっている」

「なるほどなぁ……。でもよ、初端から大事な週末に営業できず、その上九日間も空いちゃうってなったらーー相当ヤバいんじゃねぇのか!?」

「だから頭を抱えて項垂れていたんだよ!」


 俺はそう叫んだ後、話が進まなくなる気がしたためレスリーを店から追い出した。

 手伝いに来てくれたのはありがたいが、こうなってしまった以上は本店の方に注力してもらった方がいい。


 ちなみに休みを取ってくれていたスタナも、昨日時点で今日やってもらうことがないことは分かりきっていたため、治療院の方に戻ってもらっている。

 無理を言って休みを取ったのに出勤しているということで、きっと周囲から変な目で見られているだろうから……スタナには本当に申し訳ないことをしてしまった。


 俺は今後についての不安とスタナに対しての申し訳なさをひしひしと感じつつ、戸締まりをしっかりと行ってから店を後にした。

 とにかく、ここからは気持ちを切り替えて調達に集中する。


 この九日間で俺が行うのは、徹底した薬草集め。

 なぜ薬草集めなのかというと、俺の経営する【シャ・ノワール】三号店のポリシーは三つあるから。


 一つ、全て店主自ら調達したもののみを売る。

 二つ、質の低いものは決して売らない。

 三つ、週ごとにとびきりの目玉と、テーマを儲けること。


 薬草集めを行う理由は三つ目のポリシーに該当し、目玉になりうる希少な薬草の目撃情報があったということをエイルから前々から入手していた。

 その目玉となりうる薬草の名前はーー朔月花。


 その名についている通り、朔月……つまり月が出ていない深夜にしか咲かない花。

 手にいれることができる時期が決まっている上、標高4000メートル以上の場所でしか成長しない。


 そして、この王国で標高4000メートル以上の場所といったら、グラニール山しかないのだ。

 グラニール山は凶悪な魔物の巣窟として有名であり、噂によれば討伐難度Bランク以上の魔物しか生息していないと聞く。


 そんな山に登り、更に朔月の深夜に花を探さなくてはいけないということで、入手困難な薬草の一つとされている。

 ただし、朔月花の効能は凄まじいもので、噂ではどんな病をも治す薬草とも言われている。


 朔月花の話をしたらスタナも目を輝かせていたし、悪いことをしたスタナに見せてあげるためにも頑張らなければいけない。

 ……とつらつら語ったものの、入手場所が限られ過ぎている上に目撃情報まであるからな。


 討伐難度Bランクは俺からしたら怖い魔物ではないし、グラニール山自体も標高が高いだけで至って普通の山とも聞く。

 その点も踏まえて、朔月花の俺的入手難度はDランクといったところ。


 九日間も猶予があれば、余程のことがない限り採取できるだろうし、あまり気負い過ぎずに望みたい。

 ここまでの状況的に否が応でも体に力が入ってしまっているため、俺は軽くジャンプをして体の力を抜いてからーー朔月花を求めてヨークウィッチを出発したのだった。



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完全なおまけ話となりますが、今日から番外編を投稿していきます!

興味のある方はぜひ読んで頂けたら幸いです!


それから・・・本作のコミック第一巻の発売日しております!

本当に面白い出来となっておりますので、どうか一巻だけでも手に取ってください<(_ _)>ペコ

本当に本当にお願い致します<(_ _)>ペコ

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