第257話 待ち伏せ
聞ける情報は粗方聞けただろう。
ここからは実際に帝都に行き、『モノトーン』を調べないことには先には進まなそうだな。
「想像していた以上に良い情報を貰えた。クロに関して知っている情報はこれで全てか?」
「そうだね。深い関わりがある訳ではないから、私が持っている情報はこれくらいだよ」
「分かった。これでさっきの勝負の取引は成立で構わない。俺は帰らせてもらう」
ホーウィーにそう告げ、俺は一人部屋の外に出ようとしたのだが……呼び止められた。
「納得したのなら取引は成立だが、なんでクロについてを調べていたのか教えてほしいね。それと、君は本当に行商人なのか?」
「クロには個人的に恨みがある。復讐をするために情報を集めていた」
「ほー、私怨で調べていたのか。私からの忠告だが、クロには近づかない方がいい。私と違って優しい人間ではないぞ。本当にどんな殺され方をするのか想像もつかない」
声のトーンを落とし、俺を怖がらせるように忠告してきたホーウィー。
色々とコケにされたせめてもの仕返しなのか、それとも本当に親切な忠告なのかは分からないが、クロについては多分俺が一番知っている。
「忠告はありがたいが、調べるのを止めるつもりはない。情報提供感謝する」
「……本当に行商人かどうかは最後まで答えないのだね」
そんな呟きを聞きながら、俺は部屋を後にした。
後ろから襲ってくるようなこともなく、無事にVIPルームから出てくることができた。
本音を言うならば他の部屋も調べたかったし、賭場から真っすぐ進んだ先も一目見たかったが既に収穫は大きい。
ヴィクトルの情報をアルフィとセルジに報告して、エアトックでやるべきことは終わりかもしれない。
今後の動きを考えながら賭場へと戻ってきたのだが――腕を組みながら扉の前で俺を待つように立っていたのはゴードン。
目を血走らせており、先ほどまでの怒りはどうやら収まっていない様子。
顎先が若干赤くなっているだけに留まっているが、ダメージ自体は相当大きいと思うんだが、この様子を見る限りではどうやらやる気らしい。
「はっはっは! てめぇ、一人で戻ってきたのか。ホーウィーさんに絞られた後だろうが、俺も無傷な状態で逃がすつもりはねぇからな」
「ギャンブルでも殴り合いでも俺に負けたのに、まだやる気なことに驚きを隠せない」
「――まぐれの一発が当たっただけで調子に乗りやがって! あそこのリングに上がれ。テメェはリング上で血祭にしてやるよ」
俺の安い挑発に分かりやすいようにキレたゴードン。
簡単には帰れるとは思っていなかったが、戦わなくてはいけないのは非常に面倒くさい。
こうなるのだったら一撃で仕留めず、実力差があることを分からせるようにじっくりと倒すべきだったな。
「なんでもアリのデスマッチだ! レフェリーなんかはもちろんいねぇぜ!」
「受けないという選択肢はないのか? 俺にメリットがない」
「メリットとか知らねぇよ。受けねぇならここにいる全員でボコボコにするだけだ」
その言葉と共に、ゴードンの背後にいた十数人が一歩前に出てきた。
全力で逃走を図ってもいいのだが、後々のことを考えるなら勝負を受けた方が賢明か。
「分かった。勝負を受けるしかなさそうだな。そんなに戦いたいならリングに上がれよ。リベンジマッチを受けてやる」
「上から目線なのが……本気で腹が立つなァ!? この状況で煽っておいて、五体満足で帰れると思うなよ?」
表情は笑っているもののこめかみには欠陥が浮き出ており、怒りが限界まで高まっているのが分かる。
これだけ挑発しておけば、先ほど以上に単調な攻撃を仕掛けてくるだろう。
ゴードンに案内されるがまま、賭場に入った時から見えていたケージのリングの上に上がる。
この賭場のメインのようで、俺とゴードンがリングに上がったと同時に凄まじいライトが照らされた。
ギャンブル目的で来ていた客の注目も浴び、一時的に手を止めてぞろぞろと集まっている。
そんな中、俺を取り囲んでいた連中の一人が外からケージの鍵を閉め、内側から外に出られないようにした。
「これでどう足掻いても逃げられねぇぞ。さっきは油断があって、奇跡的な一発を貰っちまったが……もうテメェは死ぬだけだ!」
「確かに狭い場所で戦うのは苦手だし、この状況だけで見ればゴードンの方が有利かもな」
「――気安く俺の名前を呼ぶんじゃねェ! ……本当に殺してやるよ」
爆発的な怒りの感情から変化し、ゆらゆらと殺気が漏れ始めた。
本気で俺を殺す気であり、やはり最初の見立て通り何人も人を殺してきた人物。
こうなったら、俺も一切手加減する必要がないな。
先ほどのように一発で終わらせてやろうと思っていたが、少しだけ痛めつけてやるとしよう。
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