第72話 戦う姿


 大通りの中心に近い場所に、スタナの治療院はある。

 何度か遊びに来てくれと言われていたが、場所も場所だけに気軽に出向くことはできず、訪れるのは今回が初めて。


 怪我や病気にかかることはほぼなく、この鍛え抜かれた体を診られるのは嫌なため意図的に避けてはいた。

 できれば立ち寄りたくない場所ではあるが、あれだけ世話になったスタナに今回の件についての伝達をしないのは違うと俺は判断した。


 治療院の内装はどこよりも清潔感が溢れており、全てが光輝くような驚きの白さ。

 こんな騒ぎだし閑散としているであろうという予想に反し、治療院の中は人でごった返していた。


 どうやらあの人混みのせいで怪我人が続出しているようで、次々に運び込まれている様子。

 スタナに挨拶しようと思ったが、この混雑具合いではゆっくり話す時間なんか取れないかもしれない。


 とりあえず一目だけでも見ようと、怪我人達の間を抜けて探していると、子供の手当てをしているスタナが見えた。

 膝立ちで子供の目線に合わせ、優しく声をかけている姿を見て――これは邪魔してはいけないとすぐに理解する。


 俺は挨拶せずにすぐに立ち去ろうとしたのだが、何かの気配を察してからスタナが急に俺の方を向いた。

 慌ててこっちに来ようとしたスタナに手のひらを見せて制止させ、伝わるか分からないが親指を立てて頑張れという合図を送る。


 その合図を理解してくれてか、スタナは俺に花が咲くような笑顔で親指を立て返したあと、すぐに子供の治療へと向き直した。

 この様子を見るにスタナが外に出ることは絶対になく、完全な余計なお世話状態だったが、働いているところを見れたのは良かったな。

 俺とは種類が違うが、懸命に戦っているスタナの姿を見て元気を貰い、頬を軽く叩いて気合いを入れてから治療院を後にした。



 人で溢れ返っているのを見下ろしながら屋根上を進み、俺はあっという間に門の付近へとやってきた。

 普段出入りしている大きな門はマイケルが言っていたように封鎖されており、下は一切身動きが取れないほど混雑した状況。

 こっちの門からはどう足掻いても外に出ることができないため、大きな門から西に進んだ先にある、兵士のみが出入りできる小さな門を目指す。


 俺はマイケルから書状を受け取っており、この書状を門にいる兵士に見せれば外へ出してくれるとのこと。

 半信半疑ではあるが壁伝いに西に向かって進んで行くと、城壁に埋め込まれた詰所のようなものが見えてきた。


 その詰所の前では複数の屈強な兵士が見張りを行っており、厳重警戒を敷いているのが遠目からでも分かる。

 ただこっちには書状があるため、屋根上から下りて警戒態勢を敷いている屈強な兵士に近づいていくと、近づいた俺に気が付いた兵士が手に持つ槍を向けてきた。


「はぁー、また来たのか。ここは絶対に通さないぞ。まだ向こうの門の方が開く可能性がある。死にたくないなら戻るんだな」


 槍が小さく見えるほどの大柄な男が、忠告するようにそう告げてきた。

 この口ぶりから察するに、向こうの門が通れずこっちに流れてきた人が何人もいたのだろう。


 疲れた様子で覇気自体はないのだが、本気で怒っているのが分かった。

 まぁみんな考えることは同じって訳か。


「冒険者ギルドの副ギルド長から書状を預かっている。見てもらいたい」

「副ギルド長からの書状……? 嘘じゃないだろうな?」

「見ればすぐに分かることだ。確認してみてくれ」


 警戒しながらも兵士が槍を下ろしたのを確認してから、俺は先頭に立っていた大柄の男に近づき、マイケルから預かった書状を手渡した。


「ほ、本当に冒険者ギルドの印が押されているな。……分かった。すぐに兵士長に確認してもらう。ここで待っていてくれ」


 大柄の兵士は詰所の中へと入り、他の兵士は俺が変な動きをしないよう囲むように見張っている状態。

 中に入るのを見送ってから一分もしない内に、大柄の兵士が慌てて戻って来た。


「大丈夫だそうだ。この詰所から外に抜けてくれ」

「ありがとう。案内をよろしく頼む」


 大柄の兵士に案内されるがまま、詰所の中を通ってあっさりとヨークウィッチの外へ出られた。

 正式に通らずとも門をよじ登っても良かったのだが、夜でもない限り見つからないように登るのは難しいし、見つかった時が面倒なため正式な手順を取った。


 さて、あとは西の森へ行ってゴブリンを始末するだけ。

 仕事を行う時のスイッチを入れた俺は、昇る朝日を見ながら風に紛れ――西の森を目指した。

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