第284話 強引な手段
この空き家が元々何だったのかは分からない。
ただ、今いる地下室は隠し扉の先にあり、防音対策も行われている特別仕様。
地下室以外は何回か入られた形跡はあったものの、この地下室は隠し部屋ということもあって俺以外が入った形跡がなかった。
本当に他の目を気にすることなく、情報を聞き出すことができる安心安全な場所。
「殺されたくないなら『モノトーン』についての情報を吐け。まずは拠点から教えてもらおうか」
「し、知らない! 本当に知らないんだ! 俺はただの下っ端であって、拠点には入ったこともない」
「……それは本当か?」
「ああ! こんな状況で嘘なんか吐かない!」
俺もこの状況で嘘は吐かないと思っているが、あの店の中でこいつが一番上の立場ってあったのは間違いない。
拠点すら知らないなんてことは考えられないな。
俺は男が平静を取り戻すまでただ待ち続け、落ち着いたところで手首を握った。
正常時の脈拍を図ったことで、これで嘘を吐いたらすぐに分かる。
この場所で情報を吐かせると、どうしても昔の記憶を思い出してしまう。
余計なことを考えないように頭を軽く振って気持ちを切り替え、情報収集にだけ集中する。
「まずは名前から教えてくれ」
「きゅ、急に話し出したと思ったら何なんだ!」
「いいから名前を言え」
「お、俺はアラン・チルコットだ」
「お前が所属している組織は何だ?」
「『モノトーン』だ」
「さっき俺に襲い掛かってきたのは全員『モノトーン』か?」
「ああ、そうだ」
ここまでは簡単な質問であり、嘘を吐く必要性のない質問。
想定していた通り、脈に異常がないことからも嘘は吐いていない。
嘘つきには必要なことだけを嘘を吐く人間と、どうでもいいことまで嘘を吐く人間の二種類おり、後者だと情報を引き出すのが大変なのだが……少なくとも後者でないことが分かって良かった。
あとは嘘を吐くことなく、情報を全て吐いてくれたら助かるんだけどな。
「それじゃ改めて質問させてもらう。『モノトーン』の拠点はどこにある?」
「だから知らないって言っているだろ? 本当に俺は下っ端で、拠点の情報は知らされていないんだ!」
ここまで正常だった脈が微妙に変化した。
常人よりもその変化は少ないが、脈が僅かでも速くなってしまったら意味がない。
「嘘だな。荒療治はしたくないんだが、情報を吐かないなら仕方がない。古典的ではあるが爪の間に針を刺していく」
「嘘じゃない! 本当に俺は拠点の場所を知らない!」
口の固い人間は嫌いじゃない――むしろ好きな人間の部類ではあるが、この状況では俺の好き嫌いは関係ない。
俺は針を一本取り出し、躊躇することなくアランの親指の爪の間に突き刺した。
「うグあああアアああああッ!」
悲痛交じりの叫び声が部屋中に響き渡るが、残念ながら防音加工が施されているせいで外に聞こえることはない。
俺は突き刺した針を抜き、間を置くことなく人差し指に沿える。
「指はあと十九本ある。情報を吐くまで止めるつもりはないぞ。それと……この方法は悶えるほどの激痛の割りに傷口が浅いんだ。低級ポーションでも簡単に回復しちゃうのが良い点でな、二十本の指を何セット繰り返すかはお前が決めてくれていい」
「――ひいいいいいいッ! は、話す! 話すから止めてくれ!!」
「そうか。物分かりがよくて助かる」
左手の親指だけで耐えられないと悟ったアランは、あっさりと情報を吐くことを約束してくれた。
ちなみにだが、この拷問に耐えられたものは今まで一人もいない。
アランに伝えた通り、ほぼ無限に行えるというのが最大の強みであり、慣れるような痛みでもないのが特徴。
親指だけで情報を吐くと決めたアランは賢いと言える。
「それで『モノトーン』のアジトはどこにあるんだ?」
「東側にある『グランプーラ』っていうクラブが、丸々『モノトーン』のアジトだ!」
「『グランプーラ』だな。ちなみに『モノトーン』の幹部は何人帝都に滞在している?」
「四人だ! その内二人はブラック様についているから、『グランプーラ』にいるのは二人だけ」
「その四人の名前と能力を教えてほしい」
「ブラック様についている二人は名前しか分からない! これは本当だ!」
脈は正常であることから、嘘ではないことが分かる。
まぁ流石にここまで喋ったのに嘘は吐かないだろう。
「嘘じゃないことは分かっている。まずは四人の名前。それから『グランプーラ』にいる二人の人間の名前を教えてくれ」
「ブラック様についているのはジョゼフとヴィト! 『グランプーラ』にいるのはステファノとカーマインだ! ステファノは魔法を得意とする剣士。自分の分身を魔法で作りだす魔法剣士! カーマインは超が付く武闘派でありながら元僧侶。気性が荒く接近戦を得意とする戦闘スタイルながら、回復魔法で自分を回復できるゾンビの戦法を使う!」
「……随分と知っているな。さっきの何も知らないってのは何だったんだ」
「ほ、本当にすまない! 情報を漏らしたとなれば俺の命はないんだよ!」
「まぁ有益な情報だったから見逃す。最後に一つ質問だが、ブラック様っているのは誰だ?」
ブラック=ジトー=クロだろうが、一応聞いてみることにした。
ただ……クロの性格を考えるならアランは何も知らないだろう。
「す、すまないがブラック様については何も知らない。組織のボスだが顔すら見たことがない」
「まぁそうだと思ったし、嘘はついていないことは分かった。とりあえず聞きたいことは粗方聞けた。情報提供感謝する」
「……な、なぁ。お、俺を殺さないよな?」
怯えた表情で俺を見上げながらそう呟いたアラン。
俺は顔を耳元に近づけて小さな声でその質問に答える。
「殺さない。ただ俺のことを話したら、アランから情報を聞いたことを公言させてもらう。その上でお前を再び連れ去って――この部屋で死ぬまで拷問させてもらう」
「…………………………」
「今日のことはくれぐれも他言無用でお願いする。何か組織内で少しでも変わったことがあったら報告してくれ。毎日20時に酒場の前を通る」
大量の汗を噴き出しながら生唾を呑み込むだけで返事ができないアランに一方的にそう伝えてから、俺は顎先を指で弾いて気絶させた。
後はアランを外に連れ出し、意識を回復させるだけ。
少々手荒な真似をしてしまったが、それだけの価値がある情報は得られた。
数日様子を見てから、次は帝城もしくは『グランプーラ』という店に行くとしよう。
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