番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その15
情報屋を使おうとも考えていたのだが、予想していた以上にフリーマーケットは大きな行事らしく、王都の中を歩きながら聞き耳を立てているだけで情報がドンドンと入ってくる。
これならわざわざ情報屋を使う必要もないし、王都で暮らしている人がいそうな店に行けば、きっと有益な情報が手に入るはず。
そんな考えの元、俺は大通りから少し外れた渋い外観の喫茶店にやってきた。
古いということは地元の人に長年愛されているということであり、この外観から観光客は寄り付かないだろうと考えたのだが……どうやら大正解だったらしい。
店内には六十歳近い男性の一人客と、俺と同い年くらいのおっさん二人組がおり、両方ともこの王都が地元といった感じの風体をしている。
これで観光客ってことはまずない――はず。
「ご注文は何に致しますか?」
「ホットコーヒーとサンドイッチをお願いしたい」
「かしこまりました。少々お待ちください」
非常にダンディなマスターに注文をお願いし、ここからは聞き耳を立てて情報を集めることに集中する。
地元の人となると、もしかしたらフリーマーケットに参加しない可能性もありえるが……どうやらその心配はいらなかったようだ。
「明日はいつも通り、『白峰堂』前の店から向かおう」
「『白峰堂』は宣伝のため、商品を安く売ってくれるからな。まぁそのことに対する宣伝不足のせいで、地元の連中が全部買っちゃって何の宣伝にもなっていないのはちょっと可哀想だけど……今回も遠慮はしねぇ」
「宣伝の仕方がどれだけ大事かってのは、『白峰堂』で学べるよな」
「後はフレーランの爺さんのところと、冒険者ギルドが出してる在庫処分を見て終わりかな?」
「冒険者ギルドのとこは行かなくてもいい気がするけどな。ゴミの割合が高すぎる」
「確かに。人も多いし、『白峰堂』とフレーランの爺さんのとこ行って終わりにするか」
早速だが、非常に有益な情報を得ることができたな。
『白峰堂』とフレーランの爺さんのところ。
後者は店名でもなさそうだし、正直見つけられる気がしないが……『白峰堂』は探せばすぐに見つけられるだろう。
後は冒険者ギルドの在庫処分も少し気になる。
目利きが要求されるだろうから、今回の目的にもうってつけな気がする。
「お前さんたちは、まーた無難なところを攻めるつもりなんかね」
俺が心の中でメモを取っていた中、同じくカウンター席でコーヒーを飲んでいたお爺さんが、後ろのテーブル席に座っていた二人組に声を掛けた。
お爺さんの口ぶりからして、この三人は知り合いの様子。
「せっかく儲かるチャンスだからな。絶対に失敗したくないんだよ」
「ベグ爺はまた水面小路の新規店狙いで行くのか?」
「当ったり前じゃろ。ワシは常に新規店狙いじゃからな。去年なんか唸るほどボロ儲けしたわい」
「でも、一昨年は贋作を掴まされて大赤字だったろ」
「それもまた一興なんじゃよ。お主らも無難なところを攻めていないで、新規開拓した方がええぞ。人も少なくて快適じゃからな」
お爺さんが後ろのテーブル客に絡んでくれたお陰で、もう一つ選択肢が増えた。
水面小路と呼ばれるエリアは、新規で参加する店が多いんだな。
新規ということは良い物が売られていない可能性が高い上に、値段設定も恐らくぐちゃぐちゃ。
今の話に出ていたように、贋作を売りつける悪人も紛れている可能性もある。
高リスクではあるものの、高価なものを価値が分からない人が売りに出している可能性もあり、ハイリターンも望めるエリアなのだろう。
出来ることなら両方行ってみたい。
フリーマーケットは三日間に渡って行われるらしいし、初日は『白峰堂』前とフレーランの爺さんとやらの店に行く。
そして、二日目は水面小路の新規店、それから冒険者ギルド前でお宝捜し。
最終日は特に何も考えず、フリーマーケット全体を見てからヨークウィッチに帰るという流れで間違いないはず。
「そこまで言うなら、最後だけちょろっと顔を出そうかな。毎日違う店が出店するんだろ?」
「ああ、そうじゃ。毎日が楽しいぞ。朝早くないといけないのが難点じゃがな」
「それも辛いんだよなぁ。早起きして収穫ゼロだったらやってらんねぇって」
俺はそんな三人の会話を聞きながら、サンドイッチを完食。
こちらに視線が向く前に、お金を払って喫茶店を後にした。
外観の雰囲気だけで入った喫茶店だったが、予想していた以上に良い情報を得ることができたな。
新規店は毎日違う店が出るとのことからも、スケジュールはさっき決めた通りで大丈夫そう。
とりあえず寝坊だけはしないように気をつけ、今日はさっさと宿屋を探して明日に備えるとしようか。
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