第96話 実験
『ラウビア』での買い物を終え、店番をしながらヴェラと実験についての話を進めた。
業務終わりにまたヴェラの家で実験を行うこととなり、昨日訪れたヴェラの家にまたやってきた。
「母親は大丈夫だったのか? 色々と聞かれただろ?」
「無視するから関係ない」
「他に家族はいないのか? 昨日は母親しか見えなかったが」
「父親と兄がいる。今日は多分いる」
兄と父親がいるのか。
母親だけでも大分気まずかったのに、兄と父親と顔を合わせるのはしんどい。
一気に行きたくなくなってきたが、当のヴェラは一切気にしていない様子だし、ここで俺が行きたくないというのは何か違う気がする。
それに、魔石の実験を行える場所は『シャ・ノワール』の物置か、俺かヴェラの部屋だけ。
物置はレスリーが使っているし、必然的にヴェラの家しかないしな。
街の外で行うのもアリだが、業務終わりに行うとなると暗すぎて見えない。
色々なことを考えると俺の部屋の使うのが良いと思うのだが、断れたばかりで言い出しづらい。
あれやこれやと考えている内に、あっという間にヴェラの家に辿り着いてしまった。
『シャ・ノワール』から近すぎるし、思考がまとまる前に着いてしまう。
なんて挨拶したらいいのかも分からないまま、ヴェラの家がある五階へと到着。
俺の気持ちなぞ知らないため、ヴェラはノータイムで家の扉を開けた。
扉を開けた先には何故かヴェラの母親が待機しており、その後ろにはヴェラの父親らしき人物もいる。
「ほら! 今日も連れてきたわ!」
「……嘘じゃなかったのか!? ヴェラ、その男は一体誰だ!」
きゃぴきゃぴとしているヴェラの母親と、ショックの色が隠しきれていない様子のヴェラの父親。
まだまともに会話すらしていないが、両親共に明るい性格なのはすぐに分かった。
「同じ仕事している人。うるさいからどいて」
「説明になっていないぞ! ヴェラ、ちゃんと説明してくれ!」
「うるさい。……ジェイド、早く中に入って」
ヴェラに手を引かれ、俺はヴェラの両親を間を通ってヴェラの部屋へと入る。
すれ違う際に軽く会釈だけは行ったのだが、鬼の形相で睨みつけられてしまった。
「おい、絶対に色々とまずいだろ」
「面倒くさいけど大丈夫。……というか、私の部屋以外場所ないじゃん」
「だから、俺の部屋でいいだろ」
「借りている宿屋で火属性の魔石を使うの? 物を壊したら弁償。ジェイドに支払えるの?」
そう詰められ、ぐうの音も出すことができなかった。
俺の部屋といっても借りているだけであって、全ての物は宿屋のもの。
実験のために使うのは確かに駄目かもしれない。
「そういうこと。うるさいけど気にしなきゃいいだけ。さっさと実験を行おう」
「……ヴェラがいいって言うなら、俺ももう気にしないぞ」
「気にしなくていいって何度も言ってる」
そういうことならば、もう何も気にせず実験のことだけを考える。
俺は昼に『ラウビア』で買ってきた魔石をヴェラの部屋に並べた。
「これが属性魔石? クズ魔石と違って綺麗」
「ヴェラは見るの初めてか? 元冒険者なら見たことあってもおかしくないと思うんだが」
「前にも言ったと思うけど、私達のパーティはサポーターを雇ってたから。剥ぎ取りとかは全部サポーター任せ」
「なら、見たことがなくてもおかしくはないな。魔道具とかも使ってなかったんだろ?」
「うん。無駄に高いし」
確かに魔道具は無駄に高い。
魔道具自体の値が張るのに、魔石の魔力が切れたらを新しく替えないといけないからな。
めちゃくちゃ費用がかかるため、金持ち以外は基本的に買えない。
そのため、今回作る魔道具はとにかく低燃費なものを目指そうと思っている。
「そう、無駄に高い。だから、今回作る上での最大の目的は低燃費だ。『シャ・ノワール』の客層は、基本的に安さを求めてくる客ばかりだからな」
「良いと思うけど、低燃費なものなんか作れるの?」
「それはやってみないと分からないが……俺はできると思っている」
俺は魔法自体は中級止まりだが、魔力操作には自信がある。
魔力も感知できるため、無駄をとことん省いていけば燃費の良い魔道具になると踏んでいる。
「いつも無駄に自信満々。ジェイドも魔道具を触ったことないんでしょ?」
「ないが、レスリーから魔石の使い方は聞いてきた。ちょっと試してみるぞ」
風属性の魔石を手に取り、紙を筒状にして覆う。
そして魔石に特殊な棒を軽く当てると――魔石が起動し、貯め込んでいる魔力を消費して風が起こった。
棒を軽くしか触れさせていないため風の威力は弱かったが、設置面積を増やしたり強く押し当てることで強い風を吹かすことも可能らしい。
ただ消費する魔力も多くなるため、魔力がもったいないから試すことすらしないがな。
「おお。本当に風が吹くんだ」
「構造としては火属性の魔石手前に置き、風を吹かすことで温風を発生させるって感じでいけるとは思う」
「試してみたい」
「何か魔石を置けるものはないか? 多分魔石自体も熱くなるだろ?」
ヴェラが冒険者時代に使っていたであろう盾に火属性の魔石を置き、特殊な棒を軽く当てる。
その魔石目掛けて風を吹かすと……想像通り、ちゃんと温かい風となった。
「すご。これでもう土台はできた」
「まだ形にもなっていないぞ。火属性の魔石が取り付けられる耐熱性の良い素材を探しないといけないし、魔石の取り外しもできるようにしないといけない。火力の調整だってまだまだだからな」
「うげー。火炎瓶とか煙玉と違って大変」
「その分、売れた時のメリットは大きい。頑張って調整をしていこう」
それから、ヴェラの家でひたすらに丁度良い火力と風量を探し続けた。
上手いこと仕組みを作り、決められたものではなく自分で風量を調整できればいいのだが、流石にそこまでは手が回らなそう。
白金貨七枚という限られた金で完成品を作るべく、ヴェラと一緒に魔道具の調整を行い続けたのだった。
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