第97話 プレゼント選び
ひたすらに働き続け、待ちに待った休日。
ここ最近は夜遅くまでヴェラと一緒に魔道具の調整を行っていた甲斐もあって、大分形になってきた。
火力と風量の調整はほぼ完成しており、魔石の取り外す仕組みもできている。
あとは安価で耐熱性の高い素材を見つけるだけなのだが、耐熱性の高い素材については当てがあるため、レスリーの知り合いの職人に要望を伝えるだけ。
ここからが更に難航しそうな気もするが、形が見えてきただけに絶対に成功させたい。
心の中で強く誓いながらも、俺はベッドの中で大きなあくびをかまし、明日に備えて今日は一日中寝ていたい気分になる。
……まぁ、折角の休日を寝て過ごすなんて真似はしないがな。
無理やりベッドから這い出た俺は、目を覚ますためにシャワーを浴び、外に出られるように身支度を整える。
今日やることは決まっていて、まだ買っていないレスリー、ヴェラ、ニア、そしてスタナへのプレゼントを買うこと。
トレバーとテイトには先週剣を買ったのに対し、お世話になっているレスリーとスタナには何も買えていない。
先週の休みは指導だけで終わってしまったし、今日はみんなへのプレゼントを買って日頃の感謝を伝える。
ついでに心当たりのある耐熱性の高い素材も見に行こう。
頬を軽く叩いて疲れた体に鞭を打ち、大通りへと向かった。
現在の手持ちは金貨八枚。
なんでも買える金ってほどの大金ではないが、喜んでもらえるぐらいの良い物は買えると思っている。
まずは……一番簡単なレスリーへのプレゼントを買いに行こう。
レスリーはとにかく酒が大好きなため、酒屋へ行って普段手を出せなさそうな酒をプレゼントするつもり。
ちなみにヴェラには寝具で、ニアには動きやすい靴をプレゼントしようと考えている。
一番難しいのはスタナで、貰って何が嬉しいのか分からない。
食事に誘い、その時にプレゼントを一緒に買うのもアリだとは思い始めている。
とりあえず一番最初は、レスリーへのプレゼントのために俺は大通りで一番有名な酒屋へと向かった。
着いたのは大通りの西地区よりにある、『バッカス』という酒屋。
置いてある酒の種類はヨークウィッチで一番と謡っているため、この店に来ればまず間違いない。
酒屋とは言っても居酒屋ではないため、朝から営業しており客の数も既にそこそこいる。
ちなみに俺は毒に耐性のあり、酒を呑んでも特に変化が起きないため、人生で数回しか飲んだことがない。
何が美味しく、どんな酒が有名なのかも一切知らないため、こういう場合は店員に尋ねるのが手っ取り早い。
本当はレスリーの好みを聞き出すのが良かったのだろうが、基本的にどんな酒でも飲むため好みの酒の情報を掴むことができなかったのだ。
「すまないがちょっといいか?」
「お? なんだ? 探しているものでもあるのか?」
俺が声を掛けたのは、如何にも酒が好きそうなおっさんの店員。
ねじり鉢巻きのようなものを身に着けており、風貌だけので判断だが店内にいた店員の中で一番酒を知っていそうな感じがした。
「珍しくて美味しい酒を探しているんだが、おすすめとかってないか?」
「珍しい酒? それならこいつがオススメだぜ!」
ねじり鉢巻きのおっさんは迷う様子も見せずに一直線で売り場へと向かうと、一本の瓶に入った酒を手に取って渡してきた。
「この酒はなんという酒なんだ?」
「『黒祭』って酒だ! 最初は優しい甘味を感じるんだが、後からくるほのかな酸味が全体的に引き締める。後味が爽やかなのも最高で、まろやかな口当たりのせいでガブガブ飲めちまうんだよ! ――かぁー、俺が呑みたくなってきちまったぜ!」
目をギンギンに見開き、これでもかというほどの紹介をしてくれたねじり鉢巻きのおっさん。
これだけ酒が好きそうな店員が勧めてくるのだから、まず間違いないだろう。
「呑みたくなってくるような紹介をありがとう。ちなみに一本いくらなんだ?」
「ちょっと値が張るんだが、一本金貨一枚で売っている! どうだ? 買うか?」
一本金貨一枚か。
確かに酒に金貨一枚は高い気もするが、トレバーとテイトに金貨一枚の剣を買い与えた訳だし奮発するのが筋ってもの。
レスリーには散々世話になっているしな。
「一本で金貨一枚なら買わせてもらう。しっかりと包んでもらえるか?」
「まいどあり! 綺麗に梱包させてもらうぜ!」
ねじり鉢巻きのおっさんは手慣れた手つきで酒瓶を梱包し、俺が手渡した金貨と引き換えに『黒祭』を手渡してくれた。
金貨一枚の酒か……。少し前までなら、買おうとすら思えない高価なもの。
購入できるようになったことに、言い表せない感動を覚える。
「おすすめの酒を教えてくれて助かった。また来た時もよろしく頼む」
「おう、酒のことならいつでも聞いてくれ! 贔屓にしてくれよ!」
ねじり鉢巻きのおっさんに感謝の言葉を伝え、『バッカス』を後にした。
これでレスリーへのプレゼントは購入できた。
次は……ニアの靴を買いに行くとしようか。
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