第196話 落としどころ
何も知らないエイルに伝わるよう、俺は今回行いたいことを分かりやすく簡潔にまとめて話した。
実力者揃いの組織があること。その組織を罠に嵌めたいこと。罠に嵌めた組織を一掃したいこと。
マイケルは渋い表情を見せていたが、エイルは乗り気のようで満面の笑みで拳を力強く握っている。
ベニカル鉱山に一緒に行ったことで、エイルの性格はより知れたのは良かった。
冒険者ギルドで一番権力がある上に、一番扱いやすい人物だからな。
やると決めれば折れないし、エイルを味方に引き入れてしまえばこっちのものとなる。
「さすがに地下室を使用するのはどうかと思うね。まだまだ証拠となるものが残っているだろうし、『都影』がまた訪れる可能性も高い。それに奥の研究室は興味深いものがたくさん見つかっていて、私達ですらまだまともに調査できていない段階なのだよ」
「研究室には向かわせない。しっかりと壁を塞げば大丈夫だろ。街中で戦闘を繰り広げられる方が、マイケルにとっても後処理が面倒くさいはずだ」
「そうだそうだ! 地下室で思いっきり暴れられるならいいだろ! 俺はジェイドに賛成だぜ!」
渋っているマイケルに軽く反論すると、全力で乗ってきたエイル。
俺とエイルの圧により、少し居心地が悪そうにしながらも何かを必死に考えている様子。
「別の場所じゃ駄目なのかね? 街の外に誘き出すとか」
「恐らく無理だ。罠だと悟られたら絶対に乗ってこないと俺は見てる」
「マイケルのせいでジェイドが狙われてんだろ!? お偉いさんからぐちゃぐちゃ文句言われたら辞めちまえばいいんだし、地下室を使っちまおうぜ! 見つけたのだってジェイドだしな!」
「……分かったよ。多分許可は下りないから、戦闘が起こってしまったテイで進めてくれ。今捜索している人達の移動は私がやるよ」
「助かる。色々と迷惑をかけて悪いな」
折れる形ではあるがマイケルも了承してくれたし、これで後は誘き出すだけ。
ここからが大変だし一種の賭けではあるのだが、優秀な人物たちだからこそ罠にかかると俺は思っている。
「それで俺は何をしたらそいつらと戦えるんだ!」
「エイルには地下室で待機してもらいたい。誘き出す餌の一つだな」
「待機するのは得意じゃねぇが、つえー奴と戦えるならまぁいいか!」
「貯まりに貯まった書類整理をその地下室で行えばいいし、これマイケルにとっても良い提案だと思う」
「……確かにそれは良い案だね。ギルド長も待機しなくてはいけない理由があるから、逃げだすことは絶対にない」
「そういうことだ。ギルド長室にあった書類と一緒に、地下室で作業しながら待っていてもらう」
「うえー……。待つのに加えて書類整理までやらされるのかよ!!」
今度はマイケルがニヤけ出し、エイルが非常に嫌そうな表情に変わった。
互いにとってメリット、デメリットのある作戦だが、良い落としどころを作れたと思う。
「別に他の人に役回りを変えてもいいぞ。どちらにせよ、罠にかかったら俺もすぐに駆け付けるつもりだしな」
「……やるよ。やりゃいいんだろ! その代わりぜってぇに戦わせてもらうからな!!」
「ああ。そういう提案だから戦ってくれた方が俺としても好都合だ」
一つ不安があるとすれば、エイルが殺されないかどうかだが……多分大丈夫だろう。
負けることはあったとしても、生命力の高さは知っているし殺されるまではいかないはず。
「それで罠にかかったら駆けつけると言っているが、君にはどう伝えたらいいのかね?」
「エイルとは別に職員を一人張らせておいてほしい。その職員はすぐに俺の店まで伝えにくるよう指示を出してくれ」
「なるほど。それで報告を受けた君が駆けつけるという訳か」
「でも、ジェイドが駆けつける前に俺が倒しちまったらどうするんだよ? 俺は残しておいてやらねぇからな!」
「それならそれで好都合。俺は別に戦いたい訳では……いや、少しはその気持ちはあるが、エイルが倒してくれるならそれでいい」
「よしっ! じゃあこれで決まりだな! 俺は明日からバーの地下室に待機する! 罠とやらはジェイドが上手くやってくれ!」
「ああ、任せてくれ。囮役はエイルに任せた」
よし、これで交渉は成立した。
マイケルとエイルに改めて礼を伝え、俺は冒険者ギルドを後にする。
後はこれから西の森に赴き、ユウセンを採取して例のバーまで匂いをつけて誘導するだけだ。
怪しまれないようにするための工夫は必要だが、その辺りの工作は俺が得意としていること。
暗殺者時代に幾度なく罠は仕掛けてきたし、その罠が見破られることは一度もなかった。
今回はその罠がかなり甘いものとなっているが、絶対に悟られないように上手く痕跡を残していくつもり。
まぁ悟られたとしても、俺を殺す目的なら罠に乗ってくる可能性も十分あると思うし、勝算はかなり高いと俺は見ている。
さて、少しでも早く寝るためにも急いで西の森に行くとしよう。
夜のヨークウィッチの街を駆け、俺は西の森を目指して歩を進めたのだった。
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