第195話 誘導
冒険者ギルドは朝や昼と比べると驚くほど混雑している。
この時間帯は治安が非常に悪く、絡まれると非常に面倒なため目立たないように移動しながら応接室から侵入。
そのままの足取りでまずはギルド長室へと向かう。
気配を探って分かったが、エイルはギルド長室にいる。
今朝、俺から情報を貰ったマイケルが連れてきたのだろうが、冒険者ギルドにいてくれたのは俺にとっては好都合だ。
またしても業務とは関係ないことに巻き込もうとしているが、『都影』の件と関わっていない訳ではないし目を瞑ってもらうしかない。
ドアをノックしてから中に入ると、大量の書類に囲まれながら死んだような顔で働いているエイルがいた。
いつもは返事を待たずに開けたことに対し反射的にキレてくるが、今はそんな気力すらない様子。
「エイル。今日はちゃんと仕事しているんだな」
「……ジェイドか。俺は今忙しいんだ。悪いが、用事なら別の日にしてくれ」
余程こっぴどく叱られたようで、今までで見たこともないような態度を見せている。
ただ……書類の処理を行っているように見せかけ、俺の方を頻繁にチラ見しており、一歩後ずさろうとすると手を伸ばそうとしている始末。
「面白い情報を手に入れたから、マイケルに話す前にまずはエイルにと思ったんだが……忙しいのなら仕方がないな。また別の日に訪ねるとする」
わざと興味を引くように話を振ってから、反転して扉に手をかけた瞬間――。
俺の餌に釣られ、我慢が効かなくなったエイルが呼び止めてきた。
「ジェイド、ちょっと待て! その話しだけ聞かせてくれ! 軽く雑談するぐらいの時間ならある!」
「いいのか? 忙しいなら別に後日でも構わないぞ」
「いいから話してくれ! 気になって作業どころじゃなくなる!」
「分かった。なら話させてもらうが、エイルは『都影』とは別の組織については覚えているか?」
そう尋ねると、首を捻って考え込んだエイル。
俺の記憶が正しければ、話をした瞬間に探しに行くと言って部屋から飛び出したくらいには気合いを入れていたはずだがな。
「別の組織? 別の組織……」
「死体を調べてくれとお願いしただろ。その死体の人物が、『都影』とは別の実力者だけを集めた組織の可能性が高いと話したと思うが覚えていないか?」
「あっ思い出した!! 俺がいくら探しても何も見つからなかった奴らだろ? いないもんだと思って記憶から消してたわ!」
記憶から消そうと思って消せるものではないと思うが、エイルならできそうと思えるのが少し怖い。
「思い出してくれたなら良かった。実はその組織がヨークウィッチにやってきたから、俺は誘き出そうと考えている。エイルも興味があるなら手伝ってくれないかっていう話をしに――」
「もちろん手伝うぜ!! 実力者だけで構成された裏の組織だろ!? 燃えない訳がねぇ!!」
もうさっきまでの仕事モードは消え去ったようで、書類を踏みつけるように机の上に立って叫んでいる。
これでエイルを引き込むことに成功したが、あまりにも簡単すぎてマイケルに申し訳なくなってくるな。
「そうか。協力してくれるなら助かる。今からマイケルのところに行き、色々と作戦会議を行うつもりだ」
「うっしゃ! ヨークウィッチの危機となれば、俺が動かない手はないだろ! さっさとマイケルのところに行こうぜ!」
そう言うと俺を押しのける形でギルド長室を出て、マイケルのいる副ギルド長室へと向かっていった。
俺はせめてもの罪滅ぼしとして、床に散らばった書類を机の上に置いてから、エイルの後を追って副ギルド長室に向かった。
「ギルド長! また仕事を放り投げてきたんですか!」
「ちげぇっての! ジェイドが大事な話があるって言うから来たんだよ! 俺だって本当は仕事したかったんだけど、仕方なく来たんだよ!」
副ギルド長室に入るなり、二人は大きな声で揉めていた。
「マイケル、すまないな。俺がエイルに例の組織のことを話してしまった」
「あー……。黙っていたのに何で話してしまったのかね。ギルド長に話すと絶対にこうなるのだよ」
「作戦を思いついて、その協力を仰ぎたいと思って話したんだが、まさか話していなかったとは思っていなかった」
「おい、マイケル! 意図的に隠してたってどういうことだ!」
「いや、仕事が溜まっていましたので片付いてから話そうと思っていたんですよ」
「嘘つくな! 『都影』の時だって俺を除け者にしたじゃねぇか!」
今度は攻守が入れ替わり、マイケルがエイルに責められ始めた。
このやり取りを見ているのも面白いのだが、時間もないため本題に入りたい。
「エイルもマイケルもやり合うのは後でにしてくれ。思いついた作戦について話していいか?」
「後でにしてくれって、全部君のせいなんだが……まぁいい。とりあえず話を聞かせてほしいね」
わちゃわちゃも落ち着き二人とも話を聞く体勢を取ってくれたため、俺は本題に入ることにした。
エイルに乗らせるためにも、分かりやすく説明することを心がけて話すとしよう。
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