第219話 お告げ
スタナが見えない後ろに回り、目の前にいるシスターに静かにするようにジェスチャーを送る。
困惑しているような表情を見せたが、本当に俺の能力が見ることができるのであれば察してくれるはず。
「せっかくだし俺もお告げを聞かせてもらう。“シスター”よろしく頼む」
「ジェイドさんは凄い結果でそうで楽しみです」
スタナと位置を入れ替わり、シスターの前に立った。
変に緊張してしまっているが……多分大丈夫なはず。
「それじゃお告げを聞くよ。力を抜いてリラックスしておくれ」
さっきのスタナの見様見真似で、俺は体の力を抜いて祈りを捧げるようなポーズを取った。
それからシスターの魔力が大きく動き、俺を包むように覆い被さったのが分かる。
理解の及ばない魔力に包まれたら戦闘では絶対に回避するため、何とも言えない気持ち悪さを感じながらも、体を動かさないようにジッと堪える。
体を覆っていた魔力が消え、シスターが水晶を覗いた瞬間――。
「えっ!?」
シスターは心の底から驚いたような声を上げ、俺を凝視してきた。
すかさずスタナには見えないように小さく静かにするようジェスチャーを送ったところで、ようやく理解してくれたようでさりげなく頷いてくれた。
「声を上げてどうしたんですか? ジェイドさんのお告げに変なところがあったのでしょうか?」
「いやいや。あまりに魔力量が少なくて驚いてしまったんだよ。スタナの連れだから、てっきり治療師だと思っていたからね」
「そういうことだったんですか。ジェイドさんは治療院とは関係ない友人ですよ。それで……能力の方はどうだったんですか?」
スタナがそう尋ねたところで、一瞬だが沈黙が流れて場に緊張が走った。
「――平凡もいいところだね。全ての能力が平均以下だよ。特に魔力と回復魔力は最低に近い。伸びしろも感じられないね」
「うーん……そうなんですか。ジェイドさんからは言い知れぬ何かを感じていたので、もしかしたら秘めたる才能があるのかと思っていたんですが」
「ただの道具屋の従業員に秘めたる才能なんてある訳ないだろ。ただ、ワクワクしたし楽しかった。教会なんて初めて来たが、こんなことまでしてくれるんだな」
シスターが諸々察してくれたようで、上手いこと隠してくれた。
あの反応からして、お告げでは俺の能力がしっかりと視えていたよな?
才能がある――ぐらいは言われても良かったが、視えた上で隠してくれたのだから感謝しかない。
「たまに自分が成長したかどうかを見に来るんです。ジェイドさんに秘めたる才能があると踏んで、ここに連れてきてしまいました」
「スタナの期待に応えられなかったのは少し残念だ」
「いちゃいちゃするのは別のところでやってもらいたいね。用件はこれだけなのかい?」
「いちゃいちゃなんてしてません!! 用件はこれだけですので失礼します! ……ありがとうございました」
祈りを捧げている人達に気を使い、ここまで声量を抑えて話していたスタナだったが、最後に大きな声を上げてこの小部屋から出て行った。
俺はシスターに両手を合わせてジェスチャーでお礼を伝えてから、スタナの後を追って教会を後にする。
「教会ってこんなところだったんだな。知らなかったが色々と興味深くて面白かった」
「そう言ってもらえたのは良かったです! お告げに関しては申し訳ありません。どちらに振れたとしても、もう少し面白い結果が出ると思っていたんですが……」
「そこに関してはスタナが気にすることじゃない。教会に通いたくなる気持ちも分かったしな」
「ぜひ行ってみてください! ヨークウィッチ以外の教会もきっと面白いと思いますよ」
気づかれていないことを再確認できてホッとしつつ、そこからも他愛もない会話をしながら歩みを進める。
教会は想像とは違っていた選択だっただけに、次の場所も非常に楽しみだな。
「スタナ、次はどこに行くつもりなんだ?」
「街の東に向かってます! ちなみに今向かっている場所は少し変わってるお店なんですよ!」
スタナの口から少し変わっている場所と出たため、思わずギョッとしてしまった。
ピンク街近くのコーヒー専門店も、さっきまで居た教会も俺にとっては変わっている場所だったからな。
街の東ということだし寝泊まりしている宿もあるため、かなり地形については知っている自負がある。
……あるはずなんだが、変わった店なんて見たことがない。
コーヒー専門店と同様に、家のような見た目で外からでは分からないという可能性が高いな。
とりあえずスタナが薦める店にはハズレがないため、これまで以上にワクワクしながら、スタナ曰く少し変わった店がある街の東へと向かった。
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