第218話 教会
次に向かったのは馴染み深い大通り。
パンケーキを食べている間に時間が経過したため、既に人でごった返している。
「スタナ、次はどこに行くんだ?」
「教会に行こうと思ってます。ジェイドさんは教会に行ったことはありますか?」
「いや、一度も行ったことはないな。宗教とかに興味がなかった」
「それなら良かったです! きっと楽しめると思いますよ!」
教会とは考えてもいなかったチョイスだ。
ちなみに生まれてから一度も行ったことはなく、神を信じている訳ではないが、人を殺して回っていたこともあって意図的に避けていた場所。
初めての教会がスタナと共に来るとは夢にも思っていなかった。
というか……教会って何があるのだろうか。
イメージでは神父がいて祈りを捧げるだけの場所だが、楽しめるということは他の何かがある可能性がある。
目的も含めて尋ねようかとも思ったが、着いてからの楽しみに取っておくと決め、教会については特に触れることなく歩みを進めた。
大通りの一等地にある教会。
普段から目にする場所にあったはずだが興味がなかったため、まじまじと見るのは今日が初めてだ。
「こんな良い場所に建てられてあったんだな。何度も見ているとは思うけど、あまりにも記憶に残っていない」
「行かない人にとっては、行くことはまずない場所ですもんね。外観も凄いですけど、内装も本当に凄いんですよ! 早速入りましょうか」
特に手続きとかもいらないらしく、何気ない感じで教会の中に入って行ったスタナ。
俺もそんなスタナに続いて、初めての教会へと足を踏み入れた。
さっき古びていて汚いコーヒー店との対比もあり、スタナが言っていた通り凄まじく神々しく感じる内装。
ステンドグラスや光の差し込み具合が計算され尽くされているのか、入った瞬間に思わず息を呑むような光景となっている。
スタナがオススメしてきた理由も理解できるし、この光景を見たら信仰したくなる人の気持ちも少しだけ理解できた。
人もかなりの人数がおり、祈るように手を合わせて目を瞑っている。
「なんか凄い光景だな。絵画の中に入ったような感じだ」
「ヨークウィッチの教会はかなり特別ですからね。一度は見た方がいい場所です」
「ここから俺達も祈りを捧げるのか?」
「いえ、奥に小部屋がありますのでそこに行きます。知り合いのシスターさんがいますので、そこでお話をするつもりなんですよ」
祈りを捧げている人達をスルーし、教会の奥にある小部屋へと向かう俺達。
教会の作りとかシステムもよく分からないため、邪魔をしないように音を立てないようにして小部屋に入る。
扉も一際小さかったが、中の部屋もかなり狭い場所。
一応仕切りのようなものがあり、更に奥から人が入れるようになっている。
「ここは懺悔部屋ってところか?」
「違いますよ。ここは神のお告げを聞ける部屋です」
何やら怪しい事を言ったスタナに、俺は思わず首を傾げてしまった。
神のお告げと言われてもピンとこないし、あの神々しい光景を見た今でも怪しさしか感じない。
「私が説明するよりも見て頂けた方が早いと思います」
そう言うと、目の前の木製のテーブルの上に置いてあったベルを鳴らしたスタナ。
しばらくしてから、奥の扉から一人のシスターが部屋に入って来た。
「あれま、スタナじゃないか。久しぶりだね」
「ご無沙汰してます。お元気でしたか?」
「元気だったよ。それよりも今日もお告げを聞きにきたのかい?」
「はい。見て頂けますか?」
「もちろんだよ。それでは少し待っていてくれ」
シスターとの軽い会話を終えた後、祈りを捧げていた人たちと同じように両手を合わせたスタナ。
そんなスタナにシスターは両手をかざし、それから胸から下げられていた水晶を頭に当てた。
「――はい。見えたよ。回復魔力がかなり伸びているね。それから魔力量もしっかりと伸びている。そして、まだまだ成長の余地も残っているから安心していいよ」
「ありがとうございます。ちゃんと成長できているようで安心しました」
今の会話から考えられるのは、スタナの細かな能力を見たということなのか?
仕組みについてはよく分からないが魔力が大量に移動していたため、スキルというよりも魔法に近しいものだと分かる。
習得できるかは完全に才能次第と呼ばれている、信仰魔法か神聖魔法のどちらか。
“お告げ”の正体が分かったし、スタナはこれを俺にやらせたくて教会に来たって感じか。
「ただ、頑張りすぎのように思えるね。もう少し体に気を使いながら生活するんだよ」
「今日もしっかり休みを満喫しているので大丈夫ですよ。それよりも……ジェイドさんも受けてみませんか?」
やはり俺への誘いが来たか。
俺自身の能力について分かるのであれば、興味がないというのは嘘になる。
ただ、スタナがいる状況で能力を見られるのは避けたい。
気配と違って隠すこともできないだろうし、どうにか避けたいところだが……この状況的に嫌とは言えない。
なんとかシスターに内緒にしてもらえるようにジェスチャーで伝えつつ、お告げを聞かせてもらうとしよう。
ここにきてこんなことになるとは予想していなかったが、俺は大きく深呼吸をして覚悟を決めた。
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