第191話 オーダーメイド


 それから少し落ち着くまでダンと会話をしてから、俺は『ダンテツ』を後にした。

 予想していた何倍も喜んでくれたのは本当に嬉しいが、少しだけ複雑な心境。


 ダンには世話になったが、それ以上にレスリーにはもっと世話になっているからな。

 序列をつける訳ではないが、レスリーには酒一本というのは今更ながらどうかと思ってしまっている。


 レスリーに更なるプレゼントを渡すことも検討しながら、とりあえずダンの弟子の店である『アルマ』にやってきた。

 ダンのところで予想以上に時間を食ってしまったこともあり、『アルマ』も既に閉店している。


 もう完全に夜になっているし、出てこない可能性の方が高いが……念のためドアをノックした。

 中に人の気配はあるためいないということはないだろうが、対応するかどうかは別の問題。

 半分諦めてドアをノックしたのだが、奥から扉に近づいてくる足音が聞こえてきた。


「……もう閉店しています。買い物がしたいなら明日また来てください」


 酷く怠そうな声でそう声を掛けてきたのは、装備の制作を依頼したダンの弟子のキーガン。

 前回訪ねてきた時もダンの名前を出す前は常に怠そうだったが、今回はその時の倍は怠そうな声をしている。


「フィンブルドラゴンの装備制作を依頼しているジェイドだ。開けてほしい」


 そう返事をすると、キーガンは俺に聞こえるように舌打ちをしてから扉を開けた。

 態度があまりのもアレだが、閉店している時間に押しかけた俺が悪いのは間違いない。


「この時間に尋ねて来て悪かったな。時間がなくて営業時間には来れなかった」

「別に構わないですよ。……中に入ります?」

「入れてくれると助かる」


 とりあえず中に入れてもらい、時間もなさそうなためすぐに本題に入る。

 装備が完成していなければ、『アルマ』に用事がある訳ではないしな。


「依頼していた装備が完成しているかの確認に来たんだ。それでだが、装備の方は完成しているのか?」

「完成していますよ。ダンさんも手伝ってくれましたので」

「そうなのか? ならすぐに受け取りたい」

「分かりました。持ってくるので待っていてください」


 テンション的に完成していないものだと思っていたが、まさかの既に完成していたとの言葉。

 ダンが絡んでいたから愛想よく接していたが、完成したことでどうでもよくなったとかだろうか。


 そんな思考を巡らせつつ、フィンブルドラゴンの装備を取りに行ったキーガンを待っていると、大量の荷物を抱えてキーガンが戻ってきた。

 扱いが雑なのが少し気になるが、装備の質が高いのは目に入ってすぐに分かった。


「これが依頼されていたものです。一応この場で確認してください」

「ああ。本当に助かる」


 キーガンが制作してくれた装備品を全て確認したが、どれも文句のつけどころがないほど素晴らしいものばかり。

 流石はダンの弟子なだけあるし、実際にダンも手伝ってくれたみたいだしな。


「ザッと確認させてもらったが問題ない。ちなみにフィンブルドラゴンの角のアクセサリーはどうなっている?」

「ダンさんが完璧に加工してくれましたよ。魔力を溜めることができるようになっているそうです。詳しくはダンさんに聞いてみた方がいいですね」

「そうか。ちゃんと依頼通りやってくれたんだな」


 このアクセサリーがあれば、俺がやりたいと思っていたことが実際にできるようになるかもしれない。

 サイズ感も申し分ないし、加工は無理だと思っていたが依頼して良かった。


「防具の方も完璧に仕上げました。防熱防寒にサイズもピッタリだと思いますし、斬撃も魔法もある程度防いでくれるはずです」

「防具は見ただけで一級品だというのは分かった。流石はダンの弟子なだけあるな」

「ダンさんの紹介でしたし、絶対に手を抜けませんから本気で制作しました。良い素材を提供して頂いたので、久々に腕が鳴りました」

「本当にありがたい。アクセサリーの件もあるし、近々ダンに会うからその時にキーガンのことも伝えておく」


 キーガンにとっては何よりも嬉しいだろうと思い、良く言っておくことを伝えたのだが、その効果は絶大だったようだ。

 さっきまでの気怠い感じはどこへやら、満面の笑みで俺に対して何度も首を縦に振っている。


「ありがとうございます! ダンさんには是非よろしくお伝えください! キーガンから最高の逸品を作ってもらった――と!」

「ああ、必ず伝えておく。それより金についてだが、製作費はどれくらい払えばいい」

「ダンさんのお知り合いですし、頂かないと言いたいところですが……流石に費用が費用だっただけに頂きます」

「当たり前だ。俺も払うつもりで来ている。それでいくらなんだ?」

「合計で金貨五枚ですね。材料費はかかっていないのですが、特殊な素材故に高額となっています」


 金貨五枚は痛い出費であるが、最近は給料を生活費以外で使っていないため余裕で支払うことができる。

 魔道具の開発費で給料も上がっているしな。


「金貨五枚だな。確認してみてくれ」

「はい。確かに金貨五枚頂きました。また何かあれば私のお店をご利用ください。ダンさんの知り合いの方なら歓迎致しますので」

「遠慮なく頼らせてもらう」


 最初に強烈な舌打ちされたとは思えないほど、柔らかい対応をされて見送られた。

 フィンブルドラゴンの装備も満足のいくものだったし、俺は気分が良く宿屋に帰ることができた。


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