第205話 決着
エイルに派手にやられたせいで意図せず面白い恰好になっているが、本当に強い相手だった。
仲間を切り捨てる判断をされていたら、戦闘はもっと長引いただろうし違った結末になっていただろうな。
俺と似ていると判断したからこそ取った作戦。
仮に俺がレスリーやヴェラを連れて戦っていた場合、負けると判断していても庇うように戦っていた。
やられ際まで似ているこの男を考えると、裏社会の極悪人だと分かっていても少しだけ殺す手が止まる。
近づく一歩一歩が非常に重かったが、あっという間に気絶しているボスの真横に到着してしまった。
何も考えずに行っていた殺しが、この街に来てからは極悪人だけを殺すに変化し、そして今はその極悪人を殺すことすら躊躇ってしまっている。
『シャ・ノワール』で働いたことで、色々な人と触れて様々なことに触れた影響だろう。
人殺ししか得意なことがない俺にとって、この感情の変化が良いことなのかは分からないが……悪いことではないと思いたい。
心の中で軽く祈ってから、俺は気絶しているボスの心臓に短剣を突き立てて、『都影』から始まった長い戦いに決着をつけた。
時間的にはサクっと終わらせた内に入るだろうが、ドッと疲れたしこのままシャワーを浴びて宿で休みたい。
ただ時間的にはまだ夕方前であり、これから『シャ・ノワール』に戻って仕事を行わくてはいけないのだ。
そう考えると億劫だが、今現在も仕事に穴を開けている状態。
宿に戻ってシャワーを浴び、着替えてすぐに戻る――前にちょんまげ男の最期の言葉を思い出す。
確か、ポケットの中を見てみろと言っていたよな。
何が入っているのか分からないが、決して良いものではないことは間違いない。
一瞬、レスリーやヴェラの体の一部でも入っているのではと想像してしまったが、このちょんまげ男は後から来た組ではなかった。
だとするとその線はないため……他に思い当たる節はない。
ボスの下を離れ、再びちょんまげの男の下に戻ってきた俺は、言われた通りにポケットの中を漁った。
中に入っていたのは、金色に輝く小さな水晶玉。
何が何だか分からなかったが、すぐにそれが何なのか思い出した。
このアイテムは――映像記憶水晶。
暗殺者時代に殺した際の映像を撮ってほしいという条件付きの殺しで、俺も何度も使用したことがあるアイテム。
ただ映像記憶水晶は、こんな金色に輝いているものではなかった。
無色透明のものしか見たことがなかったし、映像を見返すことも考えても色付きのものはありえない。
考えてもよく分からず、天井の明かりに透かして見てみると、未だに膝立ち状態のエイルが声を掛けてきた。
「おっ! 映像記憶水晶じゃねぇか! それも最新のやつ!」
「エイルはこの水晶を知っているのか?」
「ああ! ダンジョンの映像を外に流すのに使われてたやつでよ、記憶した映像を他に飛ばすことができるんだぜ! 俺もパーティで買おうと思ってた時期があったんだが、値段が馬鹿げ過ぎてて諦めた!」
俺はエイルのその言葉を聞いた瞬間に水晶を落とし、間を空けることなく踏みつぶしたのだが……もう遅いか。
ちょんまげの男のあの態度にも合点がいったし、こればかりは完全にしてやられた。
「ああー!? なんで壊してんだよ!! もったいねぇ!」
「この映像記憶水晶は敵のものだからな。それより……エイルは平気なのか?」
「何が平気なのかを問われているのか分からん!」
この地獄絵図のような地下室についてだが、特に気にしている様子はなさそうに見える。
思っていたよりも修羅場を潜ってきているのかもしれない。
「体だよ。俺が執拗に傷口を攻撃しただろ?」
「……っ思い出した! ジェイドに糞ほどやられたんだったな! さっきの仕返しを今してや――いってぇ!」
俺に向かって動き出そうとしたところ、当たり前だがまだ傷口が痛むようでまた蹲ったエイル。
あの頑丈なエイルがここまで痛がっているということは、少しだけやりすぎてしまったかもしれない。
「悪かったな。止まらないから物理的に止めるしかなかった」
「一発殴るまでは絶対に許さねぇ! 動けるようになったらこの借りは必ず返すからな!」
エイルとそんな会話をしていると、このバーに誰かが入ってきた。
気配を探ってみると……どうやらマイケルが駆け付けてきたらしい。
タイミング的にはベストであり、エイルも含めて後片付けは全てマイケルに任せるとしよう。
嫌な役回りしかさせていない気がするが、元々俺を巻き込んだのはマイケルだから諦めてもらうしかない。
エイルがぴーぴー叫んでいるのを無視しながら、俺はマイケルが地下に降りてくるのを待った。
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