第204話 意味深
壁に衝突し、もたれかかるように倒れているボス。
ただその目は死んだ黒装束の男に向けられており、その後満身創痍ながらも俺を睨みつけてきていることから、まだ殺すのを諦めていないのが分かる。
実際、魔法が使えるのであれば反撃することは可能だし、確実に仕留めるまでは俺も油断することは絶対にしない。
黒装束の男の心臓に突き立てた短剣を抜き、血濡れた短剣をボスに向ける。
「……予想以上の強さだった。最大限の警戒をして挑んだつもりだったが、最大限の警戒をしても敵わなかったなら諦めがつく」
「そうか。なら、大人しく俺に殺されてくれると助かる。どう足掻いても、お前は俺に勝つことはできない」
「ああ。俺はお前を殺すどころか、もう傷つけることすらできないだろうな」
殺意の籠もった目で睨んできていたが、そんな呟きと共にボスの目の力は失われ、諦めたように項垂れた。
俺は短剣を向けたままそんなボスに近づき、トドメを刺しに向かう。
これで本当に『都影』との決着がつくだろうし、ヨークウィッチが脅威に晒されることはなくなるはずだ。
「――だが、お前の仲間ならまだ殺すことができる」
完全に諦めたと思っていたのだが、ボスがそう呟いた瞬間に視界が一気に変わった。
俺はボスが座った位置に移動しており、俺がいた位置にボスが立っている。
そんなボスと膝から崩れ落ちているエイルの距離は近く、悪意に満ち満ちた顔で笑うとソードブレイカーを構えてエイルに斬りかかっていった。
俺が制止する声を発する前に、ボスが“エイル”の間合いに入った。
そして、思い切り振り下ろされたソードブレイカーがエイルに届く前に――膝立ちの状態から繰り出された拳が顔面を捉えた。
殺す気で斬りかかっていったということもあり、カウンターの威力が増しに増している。
無手とはいえど、エイルの化け物じみた拳が無警戒の顔面を捉えたとなれば、その威力は想像もしたくない。
超近距離で魔力弾をぶち当てた時よりも、激しくそして勢いよく吹っ飛び、あまりにも憐れすぎる恰好で壁に衝突して意識を失くしたボス。
「ふぃー! くっそイライラしてたけど、スッキリしたぜぇ!」
「大人しいと思ってたら、反撃する隙を窺っていたのか?」
「ああ、そうだ! 反撃するっつってもジェイドへの反撃を狙ってたんだけどな! こいつが俺のとこに寄ってきたから、ぶっ放しちまったけど! それにしてもよ……ぶっはっはっ! 見てみろよ! 組織のボスがあんな恰好で気絶してるぜ!」
下品な笑い声を上げながら、憐れな恰好で気絶しているボスを馬鹿にし出したエイル。
でんぐり返しに失敗したような恰好であり、尻と顔がこっちを向いているため面白くはあるが、つい先ほどまで殺し合いをしていただけに馬鹿笑いできるほどの胆力は俺にはない。
「動けるなら手伝ってくれ。俺はまだ息のあるものを殺すから、エイルはマイケルを呼んできてくれ」
「俺は動けねぇ! それに殺すのか? せっかく息がある状態ぶっ倒したのによ!」
「ああ。生かしておく意味はない」
色々と情報は既に聞けたし、生け捕りにしたところでこいつらが情報を吐くとは思えない。
逆に俺の情報を吐かれるリスクすらあるため、俺はこの場で全員殺すつもりでいる。
エイルが動けないというなら、それはそれで好都合。
止められる前に、俺が来る前にエイルがぶっ飛ばした二人の処理から行う。
まずは特徴のない男の下に行き、せめてもの情けで苦しまないように心臓に短剣を突き立てて息の根を止めた。
次はちょんまげ男の下に向かい、同じように心臓に短剣を突き立てようとしたのだが、どうやら意識を取り戻していたらしい。
「苦しまずに殺してやるから大人しくしておけ」
「へっへっへ。殺されるくらいなら苦しんでいいから自殺しやすぜ。それより……いいんですかい?」
よく分からない質問を投げかけてきたちょんまげの男。
何がいいのかを問われたのか、さっぱり分からない。
周囲に変わった様子はないし、ボスも未だに気を失ったまま。
他の仲間が駆けつけて来た訳でもなさそうだし、少しの間考えたが質問の意味すら理解できない。
「無駄な足掻きはよせ。お前が助かる未来はない」
「へー、気づいていないんですかい。あっしは今回の復讐とは別件で任務を引き受けているんでさぁ。“勇者殺し”のジュウさんよぉ、死んだらポケットの中を確認してみてくだせぇ」
そう意味深に俺の本当の名を呟くと、躊躇いもなく何かを飲み込んだちょんまげの男。
例の如く、奥歯に毒薬でも仕込んでいたのだろう。
喉を両手で押さえながら目を充血させ、苦悶の表情を浮かべながら死んでいった。
本当にこの組織は謎なことが多い。
ちょんまげの男の言っていたことも非常に気になるが、まずは優先すべきはボスを仕留めること。
自殺したちょんまげの男から視線を切り、俺は憐れな姿で気絶しているボスの下に向かった。
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