第206話 後処理
地下室の扉が開かれ、そこからマイケルを先頭に多くのギルド職員が入ってきた。
この地獄絵図を見たマイケルの表情は歪み切っており、後ろに控えていたギルド職員の多くは臭いを嗅いだだけでも厳しかったのか、慌てて上へと駆けあがる音が俺の耳に届く。
「これは……とんでもない光景だ。これ全部、君がやったのかね?」
「ああ、俺が大半だな。エイルも三割くらい手伝ってくれたが」
「ギルド長も手伝って――か。って、ボロボロですが大丈夫ですか?」
この凄惨な光景に目が向けられていたからかエイルに目がいっていなかったようで、ワンテンポ遅れてエイルが蹲っていることに気が付いたマイケル。
慌てて駆け寄っていったが、大丈夫で且つ機嫌が悪いことに気が付くや否や、少し離れた距離で立ち止まった。
「全然大丈夫じゃねぇ! ジェイドにやられたんだ! マイケル、捕まえて俺のところまで引っ張ってこい! 一発ぶん殴ってやる!」
「大丈夫そうで良かったです。あと、私に捕まえることなんてできませんよ。逆にやられてしまいます」
「大丈夫だ! ジェイドも怪我してるからな!」
とんでもない指示をマイケルに飛ばすエイルだが、従う様子は一切ない。
まぁ捕まえにきたとしたら、軽く投げ飛ばすぐらいはしていたし賢明な判断だと思う。
「とりあえずエイルと死体の後処理は任せてもいいか? 仕事を抜けてきているから早く戻らないといけない」
「この後処理を……もちろん大丈夫だよ。色々と任せてしまって悪かったね」
「気にしなくていい。損な役回りをマイケルに押し付けているしな」
「それと傷の方は大丈夫なのかね? 駄目なようなら、回復魔法を扱えるギルド職員が上にいるから手当てを受けてくれ」
「大丈夫だ。倒れちゃっているエイルと違って、俺はピンピンとしているからな」
「んだとッ! おい、マイケル! ジェイドを逃がすな!!」
軽く挑発したため喚き始めたエイルを無視し、俺はギルド職員達を押しのけるようにして地下室を後にした。
くないによって傷もいくつかできてしまったが、薬草を塗ってから包帯で巻けば問題ない。
顔や手足の見える部分の傷は受けないようにしたからな。
足が非常に重いのを気合いで踏ん張り、俺は急いで宿屋に戻った。
すぐにシャワーを浴び、血だらけの服から綺麗な服に着替える。
それから傷の処置も軽く行い、『シャ・ノワール』に急いで戻った。
店を抜けてから経った時間は三十分ほどだろうか。
激しい戦闘を行った割りには、早く戻れたといっていいが……三十分も店を抜けていたら怪しまれない訳がない。
必死に言い訳を考えつつ、店の扉を開けると――。
「ジェイド! 大丈夫だったのか!?」
店にいる客のことを一切考えていない声量を上げながら、駆け寄ってきたレスリー。
怪しむというよりかは、心配してくれていた部分が大きかったと反応を見て気が付く。
「ああ、俺は大丈夫だ。それよりも店を開けて悪かった」
「暇な時間帯だったし大丈夫だ! 連れ出した奴は知り合いだったのか?」
「冒険者ギルドの職員で勧誘を受けてた相手だ。色々としつこくて、とうとう店にまで来たって感じだった」
「勧誘? 冒険者ギルドに勧誘されてるのか!?」
「色々あってな。詳しいことはまた別の時に話させてもらう」
「そ、そうか……。あんま聞きたくはねぇが、話せるタイミングで話してくれ!」
レスリーは非常に心配そうな表情でそう言葉をかけてくれた。
俺が言ったのは半分嘘で半分本当の話。
これならば整合性も取りやすいし、マイケルに頼めば話を合わせてくれるはず。
それに――『シャ・ノワール』を辞める理由もやんわりと伝えることができた。
レスリーのために『シャ・ノワール』を大きくすると心の中で誓ったが、今回の一件で怪しくなったと思っている。
あの映像記憶水晶のせいで俺の顔が割れてしまったとしたら、『シャ・ノワール』に多大な迷惑をかける可能性が高い。
これからのことはまだ決め切れていないが、マイケルとの話によっては『シャ・ノワール』を辞めるだけでなくヨークウィッチも去らないといけない。
後処理をお願いしたマイケルから後々話しを聞くとして、迷惑がかからないように色々と今の内から決めておかないとな。
今日は今後について考えながら、色々と疲れたし久しぶりに酒を呑むとしよう。
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