第259話 情報提供


 翌日。

 昨日は日が暮れてしまっていたため、そのまま宿に戻って休息を取った。


 今日は昨日起こったことをアルフィとセルジに報告するため、朝から詰所へとやって来た。

 いつものように二人が中にいることを確認してから、俺は詰所の中に入る。


「あれ、ジェイドさんまた来たんですか? もしかして……もうヴィクトルとの接触を終えたとかでしょうか!?」

「いや、ヴィクトルとは接触していない」

「流石にそうですよね! 良かったぁ! それじゃ今日は何の用で来たんですか?」

「ヴィクトルの件だ」


 俺がそう伝えると、口をぽかーんと開けて首を傾げたアルフィ。

 質問のされ方も悪かったが、理解してもらうには流石に言葉足らずだったか。


「ちゃんと説明すると、ヴィクトルと接触する必要がなくなったから情報を渡そうと思って来たんだ」

「ということはヴィクトルとは接触せずに、ジェイドが探していたクロとやらの情報を手に入れたのか?」

「ああ。セルジは察しがいいな」

「そういうことですか! 僕達もクロって人の情報とブレナンって人を調べてる最中でしたが、もう調べなくていいってことなんですね!」

「いや、調べられるなら調べてはもらいたい。情報がたくさんあって困ることはないからな」

「なるほど! なら、引き続き調べさせて頂きます!」


 正直これ以上の情報は期待できないが、兵士だからこそ手に入る情報もあるかもしれないからな。

 『モノトーン』に繋がる情報でも嬉しい訳だし、無駄足になる可能性の方が高いが折角なら引き続き調べてもらいたい。


「クロについては引き続き調べるとして、ヴィクトルの情報はもうくれるってことでいいんだよな? ジェイドの言い分を納得はしたものの、正直ずっと気になっていたし教えてくれるなら今すぐ教えてほしい」

「ああ。教えるために来たんだしな。もうこの場で伝えても大丈夫か?」

「大丈夫です! 一言一句聞き逃さないようにしますので!」


 両手でグーを作って気合いを入れた様子のアルフィだが、それ以上に前のめりになっているのはセルジ。

 情報を話した際は珍しくセルジの方がテンションが高かったし、情報が気になってモヤモヤとした二日間を過ごしていたのだろう。


「ならこの場で話させてもらう。まず廃れた家具屋があるのは中央通りだ。中央通りの詰所から兵舎に向かう途中に路地裏があるのを知っているか?」

「分かりますよ! 見回りで何度か通ったことがありますので!」

「俺も裏路地自体は思い浮かんでいるが、あの路地裏に家具屋なんてあったか?」

「伝えていた通り、廃れた家具屋だからな。見ようによってはゴミ屋敷にしか見えない店だ。そこの家具屋の中に――地下室に繋がる道ができている」

「よしっ、早速見に行ってみるわ。ジェイドもついてきてくれるよな?」


 情報を聞いた瞬間に立ち上がり、すぐに見に行こうとしているセルジ。

 すぐに行動していいことはないし、そもそもまだ話の途中なため一度落ち着かせよう。


「待て。もっと慎重に行動した方がいい。迂闊に動いて逃げられたら最悪だぞ」

「それは…………そうだな。流石に気が逸りすぎていたわ」

「それにまだ情報があるから一度全て聞け。家具屋から繋がっている地下通路に入り、北の方向に進んで行くとを倉庫に出る。この倉庫のことは軽く話したよな?」

「ジェイドさんが違法薬物を見つけたところですよね?」

「ああ、そうだ。その場所は北側エリアの一番大きな店の倉庫。二人はこの店を知っているか?」

「俺は知らないな。そもそも北側エリアには行ったことがない」

「僕も知りません! でも一番大きな店とのことですし、目立つ場所なんですよね?」

「北側エリアの詰所に配属されている兵士なら、恐らく全員知っていると思う。その建物の倉庫に違法薬物が大量に積まれているのを目撃した」


 北側エリアに立ち入ったことのある人間なら知らない人はいないはずだし、協力を仰げば地上の方からも押さえられるはず。

 兵士たちがどう動くまでは分からないが、ここまでの情報が揃っているのであれば制圧するのは難しくないだろう。


「なるほど! それだけ目立つ建物でしたら、簡単に情報は集まりますね!」

「地下通路が繋がっているのは、廃れた家具屋と違法薬物が積まれた倉庫だけなのか?」

「いや。地下通路は東側にも伸びていて、そっちがどうなっているのかは分からない。多分だが、そっち側は違法薬物を外に運び込むための場所だとは思う」


 地下通路が賭場に繋がっていることも知っているのだが、その情報は口外しないという約束をホーウィーとしているからな。

 どんな悪人だろうが、一度した約束は守るのが俺の流儀。


 まぁ結果的にあの賭場は取り締まられることになるだろうが、逃げることはできるだろう。

 ゴードンだけは捕まってほしいところではあるが、散々痛めつけたし流石に懲りているか。


「そっちも調べてないといけないかもしれませんね! でも、地下通路なんて突入する前に調べることは不可能ですし、行き当たりばったりやるしかないんでしょうか?」

「違法薬物が積まれた場所は分かっているんだし、そっちはあんま気にしなくて大丈夫だろうよ。よしっ、俺は兵士長に報告してくる。ジェイド、情報提供ありがとな」

「気にしなくていい。俺も色々とよくしてもらったし、クロとブレナン・ジトーの件もお願いしているからな」

「絶対に情報を集めますから! 期待して待っていてください!」

「情報集めより地下通路の方が優先することになるだろうが、成果が上がれば情報も集めやすくなるはずだ。この問題が解決するまでジェイドは待っていてくれ」

「ああ、過度な期待はせずに待たせてもらう」


 情報提供も終えたところで、俺は邪魔にならないようにさっさと詰所を後にした。

 普段はやる気のない二人だが、流石にここまでの情報が手に入ったとなれば気合いも違うため、きっとうまいことやるだろう。

 成果報告を楽しみにしつつ、俺はしばらくの間ゆっくりしようか。


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