第260話 急な来訪
早く解決したいという思いから、ヨークウィッチを発ってからは常に動いていた。
宿は取っていたもののシャワーと仮眠程度だったため、待ち時間は久しぶりの休息。
事が解決するまでの三日間ほどはゆっくりしようと決めていたのだが……アルフィとセルジと別れてから数時間後。
部屋の扉がノックされる音で目が覚めた。
ゴードンが襲撃をかけてきたのかと一瞬思ったが、扉の向こうの気配を探ってアルフィだということがすぐに分かった。
そもそも襲撃をかけにきたのであれば、ノックなんかせずに乗り込んでくるもんな。
そんなことを考えながら頭を目覚めさせつつ、俺は扉を開けてアルフィを中に迎え入れた。
「アルフィか。とりあえず中に入っていいぞ」
「すいません! いきなり押しかけてしまって……!」
招き入れたものの狭くボロい部屋であり、座るスペースもないため立ったまま話を進める。
「別に構わない。よく俺が宿泊している宿が分かったな」
「『クレイス』で宿泊している宿について話してくれたので、その時の記憶を頼りに探しました! 酔っぱらっていたので、思い出すのも一苦労でしたけど!」
「そういえば安宿に泊まっていることを教えていたか。でも、名称までは伝えていなかったはずだけどな」
「西側エリアの安宿ってだけで数は限られてますから! そこからは手当たり次第に回っていけば辿り着けます! でも……思っていた以上に良い部屋ですね! 兵舎は男四人で狭い部屋を使っているんで、こっちの部屋の方がマシ――じゃなくて、本題に入っていいですか!」
雑談に花が咲きかけていたところで、アルフィは慌てて本題に戻してきた。
わざわざ宿屋までやってきたから察してはいたが、どうやら緊急の用みたいだな。
「もちろん構わない。兵舎がどうなっているのかも気になるが、わざわざ宿までやってきた理由の方が気になるしな」
「兵舎は僕が紹介しますので! それで本題なんですけど、兵士長がジェイドさんと会って話がしたいと言っているんです! どうやら情報に信憑性を感じられないということで、兵士を動員できないって言われたんですよ!」
「俺が信頼できる奴がどうか確かめたいってことか」
「はい、本当に申し訳ないです。情報提供してくれたジェイドさんの名前を伏せ、僕とセルジさんでどうにかこうにか誤魔化して説明したんですけど……結局上手く説明し切れなくて、その行為も含めて逆に疑われてしまいました!」
アルフィとセルジらしいといえばらしい。
面倒くさい気持ちもあるが、ここまで来たら説明ぐらいしても構わないだろう。
このまま虚偽の情報だと思われるのは俺としても癪だからな。
「分かった。連れていってくれ。俺が直接説明する」
「本当にすいません。僕とセルジさんが余計なことしちゃったばかりに……。それにジェイドさんの方から来てもらう形になってしまって申し訳ないです」
「大丈夫だ。この安宿の狭い部屋に兵士長と来られる方が迷惑だったし、特にやることもなかったから気にしなくていい」
心の底から申し訳なさそうにしているアルフィを慰めつつ、俺は案内されるがまま兵舎へと向かった。
何度か二人から話は聞いていたが、兵士長とやらに会うのは今回が初めて。
兵舎も外からは見たことがあったが、中に入るのは初めてだし楽しみな面も多い。
アルフィとセルジよりも上なのはもちろんのこと、ヴィクトルよりも上の階級。
ここの兵士は『バリオアンスロ』とバチバチにやり合っていることからも考えると、兵士長はそれなりの強さを持った人物ではあると思う。
どんな人物が出てくるのか非常に楽しみだ。
「ここが兵舎です! 兵士長室は一番上ですので!」
「ちなみに、さっき話していたアルフィが寝泊まりしているところはどこなんだ?」
「この本舎じゃなくて、端っこにある別館ですよ! あそこにあるんですが見えますか?」
アルフィが指さした方向に建てられていたのは、別館と呼ぶにはあまりにもな建物。
ボロボロの倉庫のような造りで、言われなきゃ人が寝泊まりしているとは思わない。
「……あんなところで寝泊まりしているのか」
「そうなんですよ! 人が増えたからとかなんとかで、物置を潰して宿舎に変えたんです! 言ったと思いますが、ジェイドさんが寝泊まりしている安宿の方が何倍もマシですよ!」
「疑っていた訳ではないが、実際にあの建物を見ると本当のようだな」
宿舎に帰らず、『クレイス』で飲み明かすのも納得してしまう。
今回の件が上手くいった暁には、もう少しマシな環境に寝泊まりさせてもらうよう俺の方からも伝えてあげよう。
そんなことを心の中で決めつつ兵舎の本館の方を進み、三階にある兵士長室の前までやってきた。
中はあまりにも面白味のないごく普通の建物。
ただ建築年数は新しそうなため、『バリオアンスロ』とやり合うために建てられた――もしくは建て直したのだろう。
「ここが兵士長室です。中に兵士長がいるんですが、心の準備は大丈夫ですか?」
「一切緊張していないし大丈夫だ」
余計な心配をしてきたアルフィにそう声を掛け、俺達は兵士長室の中に入った。
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