第278話 心境の違い
「俺も自己紹介をさせてもらう。今日からゼノビア隊長の側近を務めるジェイドだ。よろしく頼む」
「ジェイドね。詳しい話は聞いてなかったけど、どういう流れで隊長の側近になることになったんだ? 帝国騎士ではなかったんだよな?」
「エアトックの街の兵士長に推薦してもらって、ゼノビア隊長に雇ってもらったって流れだ。ゼノビア隊長は元々エアトックの兵士だったらしく、そこの繋がりだな」
「はっはっ、完全なコネ入隊だな。こりゃ本当に一日と持たずに辞めるかもな」
「体力には自信があるから大丈夫だ。それより、今日は暇しているのか?」
「休日だから暇しているといえばしているのかな? 本の続きは読みたいけど」
アラスターの手元に視線を落とすと、ページが開いた本が置いてあった。
俺が部屋に入る前までは本を読んで過ごしていたのだろう。
「良かったら帝都を案内してほしい。礼として飯ぐらいなら奢る」
「んー、面倒くさいけど飯を奢ってくれるなら構わないぞ。高い飯でもいいか?」
「ちゃんと案内してくれるなら、高いところでも大丈夫だ」
「よし! なら案内させてもらう。もうすぐに行くのか?」
「俺は甲冑を身に着けたらいつでもいけるぞ」
「は? お前、休日なのに着込むのかよ。別に業務中以外は身に着けなくて大丈夫なんだぞ」
「今まで身に着けてこなかったから、少しでも慣れておきたいんだ」
「別に自分がいいなら無理には止めないけど。絶対に後悔すると思うぜ」
アラスターから変な目で見られているが、俺はゼノビアから受け取った甲冑に着替えた。
言っていた通り確かに動きづらいが、ゼノビアが着ていたようなフルアーマーじゃないからまだマシ。
ただグレートヘルムだけは思っていた以上に被り心地が悪い。
視界が極端に狭くなるし、息がヘルムの中で籠もる。
早くもグレートヘルムを外したくなってきたが、グレートヘルムを被るために甲冑を着ているからな。
顔を隠すためと思って我慢し、徐々に慣れていくしかない。
「本当にヘルムもつけるのかよ。まぁいいや。行こうぜ」
「案内よろしく頼む」
部屋に入って荷物だけ置き、俺はアラスターと共に帝都の街に繰り出た。
長年帝都に住んでいた訳で、当たり前だが見慣れた街並み。
ただ、当時とは見ていた心境が違いすぎて、ある意味新鮮な感じがする。
「案内してくれって頼んできたってことはよ、帝都に来たのは初めてなのか?」
「いや、大分前に住んでいた。ただ、本当に何も知らないまま王都に移り住んだから、帝都については何も知らない」
「へー。帝都から王国に行って、また帝都に戻ってきたって感じか。その年で帝国騎士になるのも含めて、随分変わった人生を歩んでいるな」
「本当に……本当に変わっていると自分でも思う」
事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだと思う。
それこそ前にこの景色を見ていた時は、後々帝都を出ることになるなんて考えてもいなかった。
それに加えて暗殺者を辞め、王国で道具屋の店員をやっていたんだもんな。
人生というのはつくづく何が起こるか分からない。
「さて、まずはどこから紹介するかね。俺の行きつけの花屋でもいいんだが、流石に俺の趣味に偏りすぎているからな。無難に武器屋にでも行くか? 武器の手入れは頻繁に行うことになるだろ」
「情報通の人がいるところがいい。この街について詳しい人はいないのか?」
「なら、俺の行きつけの質屋の店主が色々と詳しいぜ。様々な人と売買しているから、自然と情報が耳に入ってくるって言っていた……が、紹介する前に一つ聞きたいことがある。ジェイドは本が好きか?」
「嫌いじゃないが好んでは読まないな」
「了解、了解。いいね。なら案内させてもらうわ」
よく分からない質問をしてきたアラスターだったが、紹介してくれるようなため俺は大人しくついていった。
辿り着いたのは中央通りにある小さな質屋。
中央通りにある割りには目立たない店であり、俺が帝都で暗殺者をやっていた頃からあるであろう築年数の経った建物だが見覚えがない。
「ここが例の質屋なのか?」
「そうだ。外観は小さく見えるが以外と中は広いぞ。それと面白い物が結構売っている」
「それは楽しみだな」
店の中に入ってみると、確かに外観以上に広く感じる。
普通はバックルームのような場所を作るが、この店はそれがないから広く感じるのだと思う。
店の商品もアラスターが言っていたように変わったものが多く、『シャ・ノワール』では絶対に取り扱わない物ばかりが並べられていてもう面白い。
目立たない外観の割りに客も入っていることから、こうやってコアな層を狙うっていうのも需要があるのか。
もちろん人の多い帝都だからというのもあるだろうが、ヨークウィッチも人は多いし確実に需要はあるだろうな。
ただ店主と知り合いになるためだけに来たが、ヨークウィッチに戻った時に参考になるように色々と勉強させてもらおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます