第277話 格差


 兵舎の中はめちゃくちゃ綺麗であり、エアトック兵舎とは比べ物にならないほdちゃんとしている。

 エアトックが安宿で、帝都のは高級ホテルくらい格差があるな。


 これが普通の兵士と帝国騎士との違いなのだと一目で分かる。

 もちろん一番隊の兵舎だけが優遇されているというのもあるだろうが。


「隊長室はどこにあるんですか?」

「正面を進んだ先にすぐ見えてくる」

「へー、てっきり上の階層にあるのかと思ってました。この建物は三階建ですよね?」

「そうだが、わざわざ上の階に部屋を作るメリットがない。階段を登らないといけないのも面倒だしな」


 言われてみれば、確かに上の階層にあると面倒くさいな。

 上の立場ということで、最上階に部屋を作っているのだと思うが、合理性だけを考えたらゼノビアの意見の方が正しい。


「ほら、もう着いたぞ。ここが私の部屋だ」

「扉の重厚感から、兵士長の部屋とは違いますね」

「ふふ、当たり前だろ。アルバートと一緒にされては困る」


 胸を張って嬉しそうに笑ってから、部屋の中に入った。

 俺もその後を続くようにして、部屋の中に入れてもらう。


「中も随分としっかりしているな。あの高級そうな机で普段は作業しているのか」

「ほとんど外で訓練か鍛錬しているから、あれは見せかけの机だがな。ただ、あの椅子に座ると気分が良くなるんだ」

「なんとなく分かる。一度は座ってみたいと俺も思うからな」

「ふふふ、分かってくれるか。――じゃなくて、もう敬語を忘れているぞ!」

「忘れているんじゃなくて意図的だ。部屋の中だったら他の騎士に聞かれないだろ」

「使い分けなんてせず、常に敬語でいいだろ。どれだけ私を敬うのが嫌なのだ」

「そこは考えないでくれ。それより俺を部屋まで連れてきた理由はあるのか?」

「もちろん。渡したい物があると言っただろう」


 ゼノビアはそう言うと、部屋の奥に積まれていた箱を一つ持ってきた。

 俺の足元に置くと、中を開けるように首で指示した。


「……ん? これは鎧か?」

「ああ、そうだ。帝国騎士が身に着ける甲冑だな。グレートヘルムは戦闘を行うとき以外は身に着けなくていいが、他は常に身に着けてもらう。それと身分証も入っているだろ」


 箱の奥を探してみると、確かに身分証も入っていた。

 帝国騎士の身分証であり、かっこいいマークと俺の名前が記載されている。


「その身分証があれば帝国騎士という証明になる。くれぐれもなくすなよ」

「これは本当にありがたい。三日間でここまで用意してくれたんだな」

「アルバートの頼みだからな。仮入隊という形だが、明日からしっかりと私の下で働いてもらうから覚悟してくれ。自由時間は好きにしてくれて構わない」

「ああ。好きにやらせてもらう」

「私からの話は以上だ。三階の一番右奥にジェイドの部屋があるから、そこで寝泊まりしてくれ。同室の騎士には既に伝えてある」

「ん? ここに泊まらないといけないのか? 知らない人間と同室は嫌なんだが」

「我慢しろ。私の側近として働くなら、この兵舎で寝泊まりするのが決まりだ。急な呼び出しにも対応してもらうからな」


 本当に嫌なのだが、決まりなら従うしかない。

 同室が変な人でないことを祈っておこう。


「分かった。決まりなら我慢する」

「とりあえず私の話は以上だ。今日はもう自由にしていいぞ。明日は早朝から私の部屋に来い」

「分かった。それじゃもう行かせてもらう」


 軽く頭を下げてから、俺は甲冑の入った箱を持って隊長室を後にした。

 今日はまだ時間があるし、この甲冑を着て早速外に出てもいいかもしれない。


 ……がその前に、まずは俺の部屋に行ってみるとしよう。

 俺は伝えられていた通り、三階の右奥の部屋にやってきた。


 ノックをすると、中から返事がした。

 この時間帯だし、部屋にはいないと思っていたが中に同室の騎士がいるようだ。


「入らせてもらう。今日からゼノビア隊長の側近として働くジェイドだ」


 自己紹介をしながら部屋に入ると、ベッドに横になっている赤髪の男が目に入った。

 これが同室の騎士か。第一印象はあまりよくない。


「あー、隊長に同室の人が今日来るって言われてたっけか。完全に忘れていたわ」

「そんな軽い感じなんだな。同室の人が来るってなったら忘れないと思うが」

「この部屋に来る奴は隊長の側近として来る奴だからな。頻繁に入っては消えを繰り返すから一々覚えてらんねぇんだ」

「入っては消え? 言っている意味が分からない」

「そのまんまの意味だっての。一日で逃げ出す奴が大半で、とっかえひっかえ新しい人が来てはいなくなるんだよ」


 セルジも隊長の訓練は厳しいと言っていたが、一日で逃げ出す奴が大半となると相当だな。

 そもそも俺はその訓練をやらされるか分からないが、一回くらい受けてみたくなってくる。


「出会う騎士がみんな憐れむような目で見てくるのはそれが理由か」

「確実にそうだろうな。その年齢じゃ絶対についていけないと思うぜ。まぁとりあえず同室で同僚になる訳だし、自己紹介くらいはしておく。俺の名前はアラスター。お前と同じゼノビア隊長の側近をやってる」

「アラスターか。名前は覚えたが……お前もゼノビア隊長の側近だったのか」

「俺の場合は基本的に書類整理とかの雑務だからな。それでも地獄の訓練は耐えたけど」


 強さはそこまで感じないため、根性で耐えたのだろうか。

 何にしても同じゼノビアの側近として働き、尚且つ同部屋なら今後のことを考えると仲良くした方が良さそうだな。


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