第276話 久しぶりの帝都
エアトックの街を出発して、約二時間ほどで帝都に着いた。
道中は馬使って移動したこともあり、想定していた以上の速度で帝都までやって来ることができた。
「帝国騎士でも普通に身体検査はしないといけないのか?」
「いや、そのまま素通りできる。もしかしたらジェイドはされるかもしれないがな」
そう言うとゼノビアは正面からではなく、特別な入口に向かい、そこで馬を預けて帝都の中に入って行った。
「お疲れ様です。馬はお預かり致します」
「よろしく頼む。それと、そいつの馬も一緒に頼んだ」
「分かりましたが、こちらの方は誰なのでしょうか?」
「今日から帝国騎士団に入団した者だ。このまま一番隊に入隊してもらって、私の側近を務めてもらうことにしたから覚えておいてくれ」
「入隊して初日から隊長の側近……。分かりました。他の者にも伝えておきます」
ゼノビアは門兵をしていた騎士にそう伝えると、一切顔を見ることなく歩いていってしまった。
俺は一応軽く会釈だけして、ゼノビアの後についていこうとしたのだが……。
ゼノビアと会話をしていた騎士は、俺のことを憐れむように見つめてくると、三度ほどゆっくりと頷いてきた。
その頷きの意味は分からなかったが、セルジと同じでゼノビアの下で働くことへの憐れみだろうか。
どれだけ過酷なトレーニングを強いてくるのか、ここまでくると少しだけ興味が出てくるな。
そんなことを思いながら、俺は久しぶりに帝都へ戻ってきたのだった。
街の雰囲気はさほど変わらない。
長年住んでいたとはいっても大半は地下牢の中で過ごしていたし、街への思い入れとかはあまりない。
足繫く通っていた店もなければ、俺の思い出の場所と言えば例の道具屋だけで、その道具屋も帝都を出立する前に爆破させてしまったからもう跡形も残っていないだろう。
エアトックよりも思い入れのないことに対しての悲しさを覚えるが、懐かしむために戻ってきた訳ではない。
クロと直接会うことが目的であり、ことと次第によっては殺さなくてはいけない可能性もある。
ここからは常に気を引き締めて、行動しないといけない。
「ここからどこに向かうんだ?」
「一番隊の兵舎だ。まずは私の部屋に来てもらう。色々なものを渡さなくてはいけないからな」
「隊ごとに兵舎があるのか。帝国騎士団の兵舎がいくつもあることは知っていたが、そのことは知らなかった」
「訓練場もついていてかなりいいぞ。街の外れの方にあるのだけはネックだがな」
帝都を北に進めば城があり、その付近は金持ちが住むエリアとなっている。
俺が勇者を殺した建物があるのもそのエリアであり、本音を言うのであればあまり近づきたくはなかったのだが、そんな願いを叶えてくれたかのようにゼノビアの足は西の方に向かっていった。
街の東側は、例の道具屋もあった治安がかなり悪いエリア。
西側は職業ギルドが密集しており、その先に帝国騎士団の兵舎があるようだ。
俺は北側の城の付近に帝国騎士がうじゃうじゃいるイメージがあったのだが、あの騎士たちは近衛兵だったのかもしれない。
ギルドが密集している中に冒険者ギルドもあるため、すれ違う度に睨みつけてくる冒険者がかなりいる。
冒険者だけはどの国どの街でも、悪い意味とはいえ安定しているから少し落ち着く。
そんな冒険者をガン無視しながら進み、辿り着いたのは兵舎がいくつも並んだ、帝国騎士団のためだけ作られた場所。
帝国騎士への暗殺はなかったため興味もなかったし、意識的に見たことはなかったが……こうして見ると圧巻の造りだな。
「一番隊の兵舎は左端だ」
「隣が二番隊って感じで続いていくのか?」
「ああ、そうだ。一番隊の兵舎が一番大きいだろう」
「確かに他より造りも豪華だな。一番と付くだけあって、精鋭が集まる隊なのか?」
「いいや、全くの逆だ。一番隊は先頭を切って敵陣に突っ込む役割なのさ。軍対軍でも魔物の群れでも裏組織相手でも。どんな小さい戦いだったとしても、まず先陣を切るのが役目」
「へー、良く言えば切り込み部隊。……悪く言えば捨て駒ってところか?」
「その通り。だから、命の価値が低い落ちこぼれが集められるんだよ。無論、私は優秀だけどな」
これはあまり聞きたくなかった情報だな。
一番とついているからには優秀な人間が集まっている隊だと思っていただけに、まさか切り込み部隊だとは思っていなかった。
建物が他よりも豪華なのは、捨て駒として使われる騎士への配慮といったところか。
まぁ頻繁に戦闘が行われる訳ではないとは思うため、捨て駒ってほど扱いは悪くないとは思うが。
「その隊を率いてこうしてピンピンしている訳だし、そもそもゼノビアが優秀なのは初めて見た時から分かっていた」
「ほー、ジェイドは中々見る目があるな。……ただ、兵舎の中に入ったらタメ口は許さない。容赦なくぶん殴るから気をつけるんだな」
「分かってます。他の騎士の目があるところでは敬語を使いますよ」
「ふふふ、それでいい」
俺は敬語に切り替えてから、一番隊の兵舎の中に入った。
どんな騎士がいるのかも地味に楽しみだな。
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