第81話 模擬戦
『パステルサミラ』の最高の料理で腹もいっぱいに満たされ、もう休日が終わってもいいくらいの満足度。
でもまだ昼過ぎと、休日はまだまだ残っているのが更に俺の幸福度を高めた。
「いやー、最っ高に旨かったな! 店に入った時は色々な匂いが入り交じって駄目だと思ったが、料理はピカイチで旨かった! おい、マイケル。こんな良い店知っているなら早く教えろよ!」
「私も彼に教えてもらったばかりですから。……でも、何度食べても変わらぬ旨さですね」
「お前が行きつけの店だったのか! 糞生意気な野郎だが、この店を俺に教えてくれたことは認めてやる!」
「出会いたくないので、二度と来ないでほしくないがな」
「――ッチ、本当にムカツク野郎だな。おいっ、今から戦うぞ! さっきあれだけデカい口叩いたんだ! ……まさか逃げる訳ねぇよな?」
顔をグッと近づけ、好戦的な笑みを浮かべて挑発してきたギルド長。
今は幸せな気分だし、本音を言うなら戦いはまた後日にしてほしいところだが……先伸ばしにすればするほど面倒くさくなるだけ。
ギルド長は性格的に直情的なタイプだし、冷静に立ち回れば苦労することはないはずだ。
さっさと決着をつけて、休日の残りを満喫するとしよう。
「構わない。いつでも受けて立つ」
「よーしっ、言質は取ったからな! んじゃ、今から外に出て試合だ! マイケル、お前が審判をやれ」
「えー、私を巻き込まないでほしいんですけどね。……それで、どこで試合をするんですか?」
「誰にも見られないところにしてくれ。それが唯一の条件だ」
「んー、なら西の森でいいだろ! あそこはゴブリンの騒動があったばかりだし、今は誰も近づかねぇ! 隠れて試合をするには最高の立地だろ?」
確かに誰にも見られずに済むと思うが、森の中となると俺に有利すぎる条件。
森の中でなんでもアリのルールなら、天地がひっくり返ろうとも負けることはない。
「西の森でいいのか? 条件が俺に有利すぎる」
「どこでやろうと俺は負けねぇ! 本当は森の中でやるのが嫌だったりしてな! かっかっか!」
ギルド長がいいというのであれば、俺としては別に構わない。
冒険者ギルドに寄って木剣を二本取ってから、三人で西の森へと移動した。
ゴブリン騒動がまだ昨日だったこともあり、西の森までの道中も西の森の中もゴブリンの死体がいくつも転がっていた。
臭いも酷いことになっているため、早く処理した方がいいと思うのだが……これだけの数だと死体処理が難しいというのはありそうだ。
「よし、死体もないしこの辺りでいいだろ!」
「俺もここで構わないが……本当に森の中での戦闘でいいんだな?」
「ここまで来てやめたいって言う気か? 怖気づいたなら仕方がねぇが、流石に見苦しいぞ!」
「親切心で最後の忠告しただけだ」
「俺は構わねぇ! 人の心配より自分の心配した方がいいぞ。俺は手加減できねぇからな!」
そう言いながら、好戦的な笑みを向けてきたギルド長。
体からは気が漏れ出始め、これだけのことを言うだけあって相当な力を持っていることは間違いない。
「君も本当にやるんだね。私は両方の戦闘を見ているが、君がギルド長に勝てるとは思えない。魔人を単独で倒した君も凄まじいのだろうが、ギルド長は人間の域を超えているからね。死ぬと思ったらすぐに降参してくれよ。私が全力で止めるから」
「心配はいらない。ちゃんと殺さないように手加減するつもりだ」
「はぁー、お互いに頑固者だね。くれぐれも気をつけてくれよ」
俺の戦闘も見ているであろうマイケルが、ここまでキッパリと断言してくるとは少々意外。
初めてギルド長を見た時は即殺せると判断したし、俺の見立てではそこまで苦労しないと見ているのだが……警戒して挑んだ方がいいかもしれない。
「それじゃ始めようぜ! おっさん、絶対泣かしてやるから覚悟しろよ!」
「口ではなく剣で語ってくれ」
「――お互いに構えてください」
ギルド長は両手剣の木剣を構え、俺は短剣の木剣を構える。
開始直後に何かを狙っているのか、ニヒルに笑っているギルド長の表情は少々不気味。
「それでは――開始!」
「【赤霧の烈風】」
マイケルの合図と共に地面を蹴り上げ、高速で突っ込んできたギルド長。
言うだけあって、確かに昨日戦った魔人よりも動きは速い。
「【天地斬】」
スキルを出し惜しむことなく、初撃からスキルを発動させながら大剣をぶん回してきた。
勇者が使っていたような隙だらけのものではなく、動作の流れでスキルを使っていることから対人戦も慣れていることが分かる。
今の俺と同じように、数多もの人間に喧嘩を吹っ掛けては模擬戦を行ってきたのだろう。
俺は振り回される大剣を躱していくが――威力も魔人以上か?
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